仙台市青葉区の東京エレクトロンホール宮城(県民会館)の移転集約を巡り、宮城県が2022年9月、現在地の隣接地を不動産業の山一地所(仙台市)から取得したことが分かった。土地の価値がほぼ等しい青葉区の県有地2カ所と交換した。県は当面、資材を搬出入する大型トラックの待機場などに活用し、移転後の利活用策を探る。市が重視する定禅寺通のまちづくりにも影響を及ぼしそうだ。
[東京エレクトロンホール宮城の移転集約]老朽化する宮城県有施設の再編で、県は2018年度、県民会館に関する有識者会議を設置して本格的な検討を開始。県民会館とみやぎNPOプラザ(宮城野区)の仙台医療センター跡地(同)への移転集約を20年度に決めた。現時点の新施設の概算事業費は約250億円で、28年度中の開館を目指す。当初は県美術館(青葉区)も移転対象としたが、市民団体などの猛反発を受けて断念した。
定禅寺通のまちづくりにも影響
関係者によると、隣接地は県民会館北東側の青葉区国分町3丁目に位置する。東西に長い形状で面積は約1200平方メートル。同社が22年春まで有料駐車場を直営し、現在は更地になっている。定禅寺通や一番町四丁目商店街、市役所などに近く、人や車の往来が盛んだ。
交換した県有地は、いずれも青葉区本町1丁目の県子ども総合センター跡地(約1700平方メートル)と県中央児童相談所跡地(約1300平方メートル)。近隣には東北電力本店やマンションなどが立ち並ぶ。
県民会館は文化芸術活動の拠点として1964年開館。近年は老朽化が進み、バリアフリー化が不十分といった課題を抱え、「施設北側の道路は一方通行で狭く、資材を搬出入する大型車両が駐車できない」と改善を求める声も上がる。
村井嘉浩知事が県民会館整備の在り方を検討する有識者会議の設置方針を表明した16年度、県は山一地所に県有地との交換を打診。交換は県の「財産の交換、譲与等に関する条例」に基づく手続きで、県議会の議決は必要ない。
県と同社は20年度、交換に大筋合意し、県有地の選定や不動産鑑定士による土地の評価、地下埋設物の撤去といった条件を協議。22年9月に契約を締結し、土地を相互に引き渡した。
交換した県有地は市内7カ所の候補から、隣接地の評価額とほぼ同等の2カ所に絞った。評価額は県有地が13億6200万円、隣接地は13億2300万円で、差額の3900万円を同社が県に支払った。
県管財課は「中心地に土地をまとめて所有する方が、活用の選択肢が増えるだろうと考えた。将来的な活用方法は、県民会館移転後の土地と併せて今後検討する」と説明する。
山一地所の渡部洋平社長(44)は「県民会館は定禅寺通に面し、県民や市民にとってシンボル的な場所の一つ。土地の資産価値が上がり、まちのにぎわいにもつながればいい」と期待する。
県有地と交換を軸に6年の交渉実る
百万都市の中心部で一等地を巡る動きが表面化した。東京エレクトロンホール宮城(仙台市青葉区、県民会館)の隣接地を取得した宮城県は財政事情や今後の活用を考慮。当初から売買ではなく、県有地との交換を軸に山一地所(仙台市)と協議した。杜の都を象徴する定禅寺通の活性化も念頭に置き、約6年にわたる交渉を実らせた。
「県民会館の建て替えが絡んでいる」「お金を出して土地を取得するのが財政的に難しい」
関係者によると、県は2016年度、隣接地と県有地との交換を打診した。同年6月に同社が隣接地を入手した後、最初に持ちかけたのが県だった。
隣接地は繁華街の一角にある好立地で、同社の有料駐車場の売り上げも好調だった。県以外にも、不動産業や大手ゼネコンの関係者が土地利用の意向を相次いで探ってきたという。
県は2000年代初め、財源確保の切り札として市中心部の県有財産を高値で売却した。筆頭格が仙台中央署跡地(06年)の約111億円。他にも同心丁住宅跡地(07年)の約11億円、勾当台会館跡地(07年)の約10億円と大型物件が続いた。
だが、リーマン・ショック(08年)で不動産取引が停滞。まとまって売りに出せる土地も少なくなり、近年は低調に推移する。県管財課によると、17~21年度の売却実績117件の総額は約18億円。1件当たりの最高額は仙台港背後地の約5億円にとどまった。
「隣接地を取得した時点では、将来的なホテル事業者への売却も視野に入れなかったわけではない」。山一地所の関係者はこう明かした上で、「不動産は縁物とも言われる。利益を重視するより、県や市に協力して地域貢献につながるのであればやぶさかではないと判断した」と語る。
今後は県民会館移転後の在り方も焦点となる。定禅寺通のまちづくりに携わる地元団体は22年5月、ケヤキ並木の景観になじむような文化芸術、交流の活動拠点として活用するよう村井嘉浩知事に要望。村井知事は「何も相談せず県が勝手に決めることはない。市とも連携して検討していく」と応じた。