宮城県連続地震20年 がれき処理「東松島方式」がモデルに コスト削減し雇用も創出

 2003年に宮城県連続地震の直撃を受けた東松島市。東日本大震災では徹底した分別で、震災がれきの約97%の再利用に成功した。コスト削減に加えて雇用も創出した廃棄物処理の「東松島方式」は、関係者が混乱の中、手探りで得た連続地震の「教訓」だった。(石巻総局・山老美桜)

手探りで得た教訓、東日本大震災に生きる

 連続地震直後、廃棄物の仮置き場には、がれきやごみを積んだ住民らの車が長蛇の列を作った。

 被害の大きかった旧矢本、鳴瀬両町では計約830戸の家屋が全壊、約2500戸が半壊した。

 数日後、矢本町は大曲浜に仮置き場を開設。「ごみを撤去したい住民の求めに応えようと早く受け入れを始めたが、分別が進まず渋滞が起きた」。町職員として仮置き場を管理した市高齢障害支援課の菊地昭男さん(51)が語る。

 大まかに分類はしたが、さまざま種類が交じる混合物には難儀した。がれきの山で畳などの可燃物が自然発火したり、被災地以外の人がごみを捨てたりするなど混乱もあった。

 03年の夏は暑かった。菊地さんは「臭いにハエ、暑さ、苦情対応…。孤立無援に感じたこともあった」と振り返る。1カ月半後、矢本町建設業協会(現市建設業協会)が処理に協力。環境は整備されていった。

 最終的に分別は思うように進まず、処理費用は想定の1・5倍の約12億円かかった。協会の橋本孝一会長(75)は「連続地震の経験で、処理は分別ありきという教訓を得た」と話す。

 合併後に市は07年、協会と災害協定を締結した。東日本大震災では廃棄物を仮置き場で14品目に分別。実物を置き市民が一目で分別できるように工夫した。

 ヘドロ混じりの混合物は、雇用した被災者約800人が手作業で19品目に分類。金属類は鉄資源、木材はバイオマス燃料など震災がれき約110万トンの再利用率は約97%に上った。

 震災時の処理に従事した市商工観光課の鈴木雄一さん(48)は「がれきは元々市民の財産。有効活用する必要があると考えた」と説明。分別の徹底で1トン当たりの処理単価は1万8000円と県内平均の半額に抑えた。

 廃棄物を徹底して分別する「東松島方式」は、16年の熊本地震で被災した熊本県西原村をはじめ全国の被災自治体で採用された。ロシア侵攻によるウクライナの戦災がれきの処理でも注目されているという。

 協会の橋本会長は「連続地震をきっかけに、市民と行政、業者がコミュニケーションを取った。地域に合った仮置き場の場所や分別方法を、平時から決めておくことが重要」と訴える。

直下型地震に備えを 東北大大学院・松沢暢教授に聞く

 26日で発生から20年となる宮城県連続地震は直下型地震だった。連続地震のメカニズムや、直下型地震に備えるための注意点を東北大大学院理学研究科の松沢暢(とおる)教授(地震学)に聞いた。(報道部・池田旭)

 -直下型地震とは。

 「地震学では明確な定義はないが、一般的に都市部や内陸部の真下で断層が滑って発生する地震などを指す。マグニチュード(M)6以下の地震を引き起こす断層は各地にたくさんあると考えられ、どこで起きてもおかしくない」

 -宮城県連続地震では、震度6クラスが1日に3度起きた。

 「石川県の能登半島で発生している群発地震と似ている。地下の深部から上がってきた水が断層の隙間に入り込み、滑りやすい状態だったため、連続して発生したと考えられている。東北は、硬い岩盤の上に、布団のような軟らかい堆積物がある状態だ。他の地域と比べて地盤が軟らかく、揺れやすいため震度が大きくなりやすい」

 -直下型地震が今後、発生する可能性は。

 「地震の周期などの調査は時間がかかるため予測が難しい。M7クラスが想定されている長町-利府断層は周辺に学校が多く建っている。激しい横揺れや突き上げられるような揺れが予想され、被害や避難所運営が心配だ」

 -注意すべきことは。

 「震源の真上に住んでいた場合、緊急地震速報が間に合わない。揺れを感じたときに速報がないからといって軽視してはいけない。2008年の岩手・宮城内陸地震や18年の北海道胆振東部地震などでは土砂崩れが発生しており、山間部などで警戒が必要だ」

 -求められる発災時の対応は。

 「揺れが小さかったり、東日本大震災などの地震で建物が被害を受けていなかったりしても安心してはいけない。壊れやすそうな建物やブロック塀、斜面などが近くにないか確認し、安全な場所に避難することが大切。周囲の状況を見極めた判断が必要だ」

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