家庭での「食品ロス」。年間6万円も、あなたは「食べない物」を買っています

特売日にまとめ買いして古くなった牛乳、野菜室のしなびた野菜、冷凍庫に眠る1年前のお肉……。どれも「あるある」な光景でしょう。しかし、スーパーやレストランなどの事業者から廃棄される量に匹敵する食品が、実は家庭から捨てられていることをご存じでしょうか。家庭での「食品ロス」を減らせれば、地球も家計も助かる。専門家の井出留美さんにそのためのコツを教えてもらいました。(構成=上田恵子 イラスト=霧生さなえ)

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最強の節約術かもしれません

期限切れで捨てられるコンビニのお弁当やおにぎり、スーパーで売れ残った野菜、レストランや飲食店での食べ残し……。こうした“まだ食べられる食品”が廃棄されることを、「食品ロス」と言います。

日本における食品ロスの量は、年間約643万トン(2016年度)。これは、世界の飢餓に苦しむ人びとに向けた食料援助量の約2倍にあたります。食料の7割近くを輸入に頼り、7人に1人の子どもが貧困に陥っているわが国において、この数字がいかに異常なものか、おわかりいただけるでしょう。しかし、この約半分にあたる291万トンは、一般家庭から捨てられているのが現状です。

食品ロスによるムダは、一世帯につき毎月5000円以上になると計算できます。一般的に、家計の約4分の1を食費が占めていると言われますが、食べもしない物を買って、年間6万円ものお金を捨てているなんて、もったいないと思いませんか。どんな節約術や、1円でも安い商品を買う努力より、実は家庭での食品ロスを減らすほうが節約の近道、と言えるのではないでしょうか。

11年、私が食品メーカーに勤務していた時に東日本大震災が起こりました。被災地への支援物資の手配などに携わったのですが、現地で肝心の食料が被災者に届かない現実を目の当たりにして衝撃を受けたのです。悩んだ末に退職し、「食品ロス」問題に本格的に取り組むようになりました。

講演の際、60代、70代の女性から買い物の仕方について質問を受けることがよくあります。夫婦ふたりや、ひとりだけの暮らしとなり、また歳を重ねて食事量が減ったにもかかわらず、買う量を大家族だった時のまま変えられない方は多いようです。

いまや「買い方」のマナーは、小学校の家庭科でも教えることになっています。まずは次のチェックリストで、あなたの日ごろの買い方をチェックしてみましょう。

あなたは買う時、どうしてる?

該当するものをチェックしましょう

 □ 商品を見ながら買う物を決めたいから、家でメモはつくらない

 □ 賞味期限が先の物を買うため、陳列棚の奥から商品を取ることが多い

 □ 「数量限定」「期間限定」の商品に弱い

 □ おまけ目当てで食品を買い、食品を捨てることがある

 □ 空腹時に買い物をすることが多い

 □ 野菜やパンなどの詰め放題が好き

 □ 野菜や果物は、さわって選ぶようにしている

 □ 半分サイズや¼サイズの野菜を買うのは、割高だと思う

 □ 缶詰やレトルト食品などが安売りされていると、「非常食に」と多めに買う

結果は……

0~1項目:優秀です。買い物の達人ですね

2~4項目:意識を変えると、食品ロスをもっと減らせます

5項目以上:あなたの買い方は、食品ロスを増やすことに加担しています。これまでの習慣を見直してみては?

結果的におトクはどっち?

【1】まとめ買いをしない

「キャベツを丸ごと買うと、夏場は余らせて捨ててしまう」という相談を受けたことがあります。半分サイズやサイズの購入を勧めたのですが、その方は「丸ごと買ったほうが割安だから」とあまり納得されませんでした。

1玉198円と半分サイズ100円のキャベツ。結局半分しか食べないのであれば、98円を捨てているのと同じことです。冷凍保存などの工夫をしても、存在を忘れることはありますよね。それより「1週間で食べきれる大きさ」で買うことを心がけてみませんか。

3本まとめて売っているキュウリなども同様。1本で足りるなら、バラ売りを買ったほうが結局はおトクです。水分の多い野菜や生鮮食品のまとめ買いは、特に避けたほうがよいでしょう。

【2】調味料はサイズも選ぶ

どの家庭にも必ずあり、使い切れないまま期限が切れることの多い、調味料。醤油や油など、おトクだからと大きなサイズで購入したものの、半分使ったあたりで酸化したり、風味が落ちて捨てたり、という経験はありませんか。

特にマヨネーズやソース、ケチャップなどは醤油や油ほどの量は使わないはず。たとえ買う時は割高に感じても、小さいサイズを買って、新鮮なままおいしく使い切ったほうが、結果的におトクではないでしょうか。5~10g入りの小袋タイプも便利です。

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ドレッシングの主要購買層は、60~70代と言われています。使いかけのまま冷蔵庫に何本も入っているご家庭は多いでしょう。ドレッシングの賞味期限は未開封で3~6ヵ月ですが、開封後は1ヵ月ほどで使い切るのが望ましいと言われています。ふたり暮らしのご家庭で、1ヵ月に150~180mL入りのサイズで余らせてしまうことが続くなら、こちらも少量の小袋タイプなどに切り替えてもいいかもしれません。

【3】買い物の前に

買い物の前にメモをつくるのは、節約術の定番として知られていますが、私のおすすめは、週に1度、1週間分の献立を考えて、買うべき物を書き出すこと。

そのうえで、買い物の直前に冷蔵庫の中を確認すれば、ムダな買いすぎを防げます。スマホのカメラで、冷蔵庫や棚の写真を撮って出かけるのもいいですね。ついほしくなる新商品や限定商品は、1週間に1つだけ買う、と決めてもいいでしょう。

また、出かけるタイミングとしては、お腹が満たされた食後が望ましいです。アメリカのある研究によると、空腹状態で買い物をする人はそうでない人に比べ、最大で64%も多くお金を使うのだとか。一世帯平均の毎月の食費が約5万円(外食を除く)とすると、3万円以上もよけいに使ってしまうかも……。そう考えるとこわいですよね。

【4】冷蔵庫は月1で掃除

テレビ番組などでは、“できる主婦”の例として、食品を冷蔵庫にパンパンに詰め込んでいるご家庭の様子が紹介されます。一見経済的に見えますが、実は電気代と食品ロスどちらの面から考えても、冷蔵庫はスッキリさせておくのが理想的。容量の7割程度にとどめると電気代が35%抑えられるうえ、入っている物を見失わずにすみます。

冷蔵庫も人間の体と同じ。「入れる」ばかりで「出す」がなければ便秘になってしまいます。「出した分だけ入れる」ことを心がけ、最低でも月に1度は、傷んだ物や期限切れの物がないかチェックしてください。冷凍した精肉も、保存がきく目安は約1ヵ月です。

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賞味期限の罠に気をつけて

突然ですが、卵は57日間、生で食べられることをご存じでしょうか。日本における卵の賞味期限は、日本卵業協会によって14日間と決められています。これは気温が25度以上の夏場に、生で食べられるか、を前提に決めたもの。気温が10度程度の冬であれば、産卵から57日間も生で食べることができます。

産卵からパックされるまでの7日間を引けば、パックされた日から50日間は食べられますし、仮に賞味期限を過ぎても火を通せばいいわけで、ロスを避けやすい食べ物だと言えるでしょう。(ただし、火を通した卵は日持ちしないので、すぐに食べてください)

賞味期限が過ぎた食べ物を危険視する前に、気をつけなくてはいけないのは「消費期限」のほう。消費期限とは、日持ちしないお弁当やサンドウィッチ、お惣菜、生クリームを使ったケーキ、精肉、鮮魚などに表示されている「食べても安全な期限」のことで、これは必ずその期日までに消費する必要があります。

一方、賞味期限とは「おいしく食べられる期限」を言います。こちらは、実際より短めに設定されていることがほとんど。たとえば、本来10ヵ月はおいしく食べられるのに、安全を期して8ヵ月、と8割以下に期限を狭めて表記されることが往々にしてあるのです。

これは、万が一のことを考えて、かなり前倒しで期限を設定する日本らしいやり方によるもの。企業によって期限の決め方はまちまちで、中には6割ほどに設定しているところも。つまり、賞味期限を少々過ぎたからといって、食べられなくなるわけではありません。

でも皆さんは買い物の際、「同じ値段なら、賞味期限が長い物を買ったほうがおトク」と考えてはいないでしょうか。棚からいくつも商品を引き出して、賞味期限を見比べてはいませんか。しかしその結果、棚には賞味期限が迫った物が残り、やがて廃棄されることになります。

これに加え、日本の食品業界には「3分の1ルール」という不思議なルールがあります。これは賞味期限を1/3ずつに区切って、最初を「納品期限」、次を「販売期限」とする、いわゆる商慣習。

たとえば賞味期限が6ヵ月あるお菓子の場合、メーカーは製造から2ヵ月以内に小売店に納品しなければならず、過ぎたものは納品すらできません。さらに製造から4ヵ月経ったものは、期限が2ヵ月も残っているのに商品棚から撤去されてしまうのです。こういう商品に、値引きシールが貼られているのはよくあることで、ぜひ積極的に利用していただきたいと思っています。

もう一つ、賞味期限に関する誤解の多い商品に、ミネラルウォーターがあります。ペットボトル入りのものは、長期間保存しておくと容器から水が蒸発して、徐々に量が減っていきます。すると、表示した内容より少ない、と計量法違反となってしまうんですね。つまりペットボトルに記されている期限は量が担保できる期限であって、水が劣化して飲めなくなるという意味ではないのです。

でも19年の台風19号の際には、被災者に期限切れの飲料水が配られた、と苦情が寄せられました。また、16年に地震のあった熊本では、いまだ大量のミネラルウォーターが保管場所に山積みになっていると言います。飲料として使えないからと、手足を洗うのに使われたとも聞きました。

期限について正しい理解があれば、まだ食べられる物を捨てずにすみます。講演会で、「棚の手前から、商品を取るようにしましょう」とお話ししたら、ひとり暮らしだという70代の女性が、「手前から牛乳を取ってたら、腐らせちゃうんだよ」と怒ったようにおっしゃいました。でも、コップ1杯(200mL)の牛乳を毎日飲むなら、1Lパックを買う時に5日分の賞味期限があればいい。

買い物に行ける日が限られていたり、スーパーが遠かったり、事情はあるかもしれませんが、買うサイズを一回り小さいものに換え、飲み終わったら買いに行くようにすれば、ムダは減らせると思います。

井出さんが主宰する「食品ロス削減検討チーム川口」は、埼玉県川口市で、年に2回ほどフードドライブを実施している。集まった食品は、市内の学習支援施設の子どもたちなどに届けられるという(©食品ロス削減検討チーム川口)

© 婦人公論.jp 井出さんが主宰する「食品ロス削減検討チーム川口」は、埼玉県川口市で、年に2回ほどフードドライブを実施している。集まった食品は、市内の学習支援施設の子どもたちなどに届けられるという(©食品ロス削減検討チーム川口)

食べ切れないなら寄付をしても

家庭での食品ロスを減らすには、保存の仕方に気を付けて鮮度を保つことも大切です。たとえば、先ほどお話しした卵。扉部分に卵を入れるポケット付きの冷蔵庫がありますが、ここにストックしておくと、扉の開閉のたびに揺れ、温度も変化するので傷みやすくなるのだそう。卵はパックのまま、冷蔵庫の奥に入れておくのが正解です。

もやしのように足の早い野菜は、買ってきた当日に調理するのが基本ですが、しょっちゅう買い物に出られないのであれば、野菜専用保存袋を使うのもひとつの方法です。文房具店やスーパー、100円ショップなどで購入できて、ラップやポリ袋で保存するより、圧倒的に長持ちします。

精肉のようにトレーに入っている物を冷凍する時は、トレーから出して、ラップでくるみ直して冷凍庫へ。空気に触れないので酸化が進みにくくなります。そしてくるみ直す際は、できるだけ小さく、薄い形にするのがベター。豆腐も同じようにパックから出し、水を張った密閉容器に入れて保存するほうが長持ちします。余裕があれば毎日水を取り換えてください。

生鮮食品ではありませんが、虫が発生しやすいお米は、わが家では2Lのペットボトルに入れて冷蔵庫で保存しています。じょうごを使うと楽に入れられますし、計量の際も簡単に出せるのでおすすめです。

また、保存がきく食品や飲み物をムダなく使う方法として、「ローリングストック法」というものがあります。これはレトルト食品や缶詰などを災害時用の備蓄食品としてストックしつつ、「非常食」ではなく「日常食」として食べる方法。

備蓄した食品を数年に一度確認して、古くなった物を一気に捨てる方は多いと思いますが、日ごろからこの習慣をつけておけば、家にどんな備蓄食品があるかを認識できますし、こまめに賞味期限をアップデートできます。ちなみに、缶詰は基本的に3年間が賞味期限とされていますが、実際はもっと長持ちしますし、味の濃いシロップ漬けや魚の味噌煮などは何十年でももちます。

食品類を整理するうち、お中元やお歳暮でいただいた海苔やお茶、海外旅行のおみやげのお菓子やお酒……など、消費し切れない物が見つかるかもしれません。それを持ち寄り、経済的に困窮している人や福祉施設に寄付する「フードドライブ」という取り組みがあります。ここで言う「ドライブ」とは、「募集のための宣伝」「運動」の意味。企業のほか、自治体でも実施しているところがあるので、もし自宅近くで見かけたら寄付をするのもいいと思います。

もうひとつ、2000年に日本で始まった「フードバンク」という活動もあります。食品を事業者や個人から引き取り、困っている施設や人に無償で分配。古くはアメリカで始まった仕組みですが、日本では現在、北海道から沖縄まで、大小100のフードバンクがあり、その多くはNPO団体が運営しています。このような団体に寄付するのもひとつの方法です。

自分や家族が食べるぶんだけを買う。そして買った物は傷む前においしくいただく。シンプルなことですが、年齢を重ねた方こそ、買いすぎ、捨てすぎ、余らせすぎを防いで、家計のスリム化を実現しましょう。

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