家電量販店が出店を加速させている。その筆頭が、2013年3月期に過去最大の出店数が見込まれる業界首位のヤマダ電機だ。
主要家電量販店の業績推移
まずは都市部の大型店。3月4日に閉店した天満屋広島八丁堀店跡に出店が決まっている。すぐ近くには業界2位エディオン傘下のデオデオが本店を構えている。デオデオは現在拡張工事を進めており、初夏には店舗面積を約2倍に増床した新本店をオープンして迎え撃つ。広島の家電戦争が激化することは間違いない。
ヤマダは昨年11月に名古屋駅前の名鉄百貨店ヤング館跡に出店したばかり。今年は広島に続き、もう1店の大型店を計画しているという。
■住宅販売にも進出 規模拡大に貪欲
それだけではない。目下、強力に出店を推し進めているのが、店舗面積1000平方メートル以下の小型店だ。昨年4月以降、小型店だけで70店を出店したが、来期は150~200店を出店する。これまで進出していない地方の空白地帯をくまなく埋めることが狙いで、10万人程度の小商圏を対象にしている。ライバル店のみならず自社店舗とも競合するように見えるが、山田昇会長は「地方の小型店は価格競争が少なく、むしろ粗利率が高い」と懸念を一蹴する。
さらに並行して、既存店の大量改装も進める。「来期から2年かけて、ほぼ全店を改装する」(ヤマダ幹部)という勢いだ。
ヤマダが大量に出店と改装を進めるのは、エコポイントや地上デジタル放送への完全移行に伴う特需が消え、販売が急減したためだ。
地デジに完全移行した昨年7月以降、主力商品であるテレビ売り場は閑古鳥が鳴く。その影響で、既存店売上高は年間平均で1割以上も落ち込んでいる(図)。
ライバルのエディオンやケーズホールディングスも同様だ。両社のテレビ売上高は、昨年8月に前年同月比6割減に転じ、11月は前年にエコポイント半減前の駆け込み需要があった反動も重なり9割減となった。
そうした環境の中、ヤマダは大量の出店や改装を進めることで売上高を確保し、「来期の家電市場が10%減といわれる中、うちは5%減にとどめたい」(ヤマダ幹部)考え。
家電量販店のビジネスは売り上げ規模がモノを言う。販売する商品は各社同じで差別化できないため、大量仕入れを武器にメーカーと値引き交渉し、安さで勝負する。既存店が1割落ち込むならば、その分を新店で埋めなければ競争力がそがれる。さらには店舗の余剰人員を新店に振り分けることで、人件費をコントロールする狙いもある。
ヤマダの怒濤の出店攻勢に、ライバルたちも黙っていない。ケーズHDは年40店ペースで出店し、売り場面積を年1割ずつ増やしている。「地域最大店を作り、豊富な品ぞろえで差別化する」(ケーズHDの加藤修一会長)という戦略だ。大阪地盤の上新電機も、店舗数が急増中。特に、一度手を引いた関東地域への出店に力を入れている。
一方、真正面からの戦いを避けて生き残りを図るところもある。エディオンは住宅用の太陽光発電やオール電化、リフォームなどを強化している。業界に先駆けて09年から訪問販売部隊を作ったほか、太陽光は全店で、リフォームは半分近くの店舗で取り扱っている。
だが、ヤマダはその分野でも布石を打っている。昨年10月に住宅メーカーのエス・バイ・エルを買収し、山田会長の直轄でスマートハウス事業を拡大している。今後3年間で約100店にスマートハウス売り場を導入する計画で、新築のみならず、分譲用地募集やリフォームも手掛ける住宅売り場を展開する方針だ。「住宅や電気自動車、太陽光、蓄電池、家電までをトータルで提供するのは、究極の家電ビジネス」と山田会長は言う。
■オーバーストア状態 単純な陣取り合戦に
家電量販店業界は「完全にオーバーストア状態」(証券アナリスト)。過当競争が繰り広げられる中、下位グループは苦しい状況にある。
九州地盤のベスト電器は赤字になった店の閉鎖を余儀なくされ、2月末に300人の追加リストラを実施した。コジマも店舗閉鎖を進めている最中だ。
ある家電量販店幹部は指摘する。「たとえばコジマとヤマダの出店エリアにケーズが進出すれば、いずれか1店が苦しくなる。家電量販店は単純な陣取り合戦だ」。競争力のない店は淘汰される運命にある。
00年以降、業界では規模拡大を目的とした再編が相次いだ。過去5年を見ても、07年にケーズが東北地盤のデンコードーを買収し、08年にはベスト電器がビックカメラの持ち分法適用会社となった。直近は小康状態だったが、それは09年から始まった家電エコポイント制度の恩恵を業界全体で受けていたからだ。需要が縮む市場で始まった熾烈な消耗戦は、業界再編の引き金となる可能性が高い。
(前田佳子 =週刊東洋経済2012年3月24日号)
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