寒い冬を熱くする「コンビニおでんバトル」の舞台裏 各社が“麺化”と“ちょい足し”に力を入れる理由

秋から冬に向かう今の時期、コンビニに入るとついチラ見してしまうのが、レジ横で湯気を上げ、だしの良い香りを漂わせる「おでん」だ。筆者もその口で、会計で並んでいるといよいよ気になり、誘惑に屈し、予定外に買ってしまうことがある。そのコンビニおでんについて、今2つのトレンドが話題を呼んでいる。
 1つは「麺化」だ。ファミリーマートでは、おでんつゆにそばと野菜かき揚げを入れる「おでんそば」を今秋から発売した。従来の、うどんを入れる「おでんうどん」、ラーメンを入れる「おでんラーメン」に新たなラインナップとして加えた。
 麺化の先駆者は、実はローソンだ。2009年におでんつゆにうどんを入れる「おでんうどん」を始めたところ、これが思わぬヒット商品となる。目新しさ、120円という安さ、意外な美味しさ、さらに好みに応じて、立ち食いうどん屋感覚で、様々なおでんの具材をトッピングできる楽しさがウケた。
 ローソンはヒットを追い風に、カレーうどんの素や、わかめ、揚げ玉などのトッピングを別売りし、バリエーションを強化。ファミリーマートやサークルKサンクスもおでんうどんを投入し、コンビニおでんの“麺化ブーム”に火が着いた。
 おでん事情通で比較食文化研究家の新井由己氏は、「うどんをメインにおでんをトッピングするのは、主従関係が逆になる面白い現象。でも、お陰でおでんが一食分の食事として成り立つようになった。これならお腹も膨れるし、女性にも人気だったようだ」と、話す。
 もう1つのトレンドが、「ちょい足し」だ。袋入りの粉末などを出し汁に適量加え、味の変化を楽しむのである。最も充実しているのがサークルKサンクスで、昨年はカレー風味、チゲ風味、とんこつ風味の粉末に加え、コラーゲンの粉末やピリ辛ねりラー油なども20~35円で販売した。
 今年は「ご当地ちょい足し」に趣向を変え、東北では青森の生姜味噌、関東では小田原の梅味噌、関西では生姜醤油など、各地域で異なる薬味やつけだれを無料で提供。ご当地おでんの味に変えて楽しめるようになっている。
 一方、ローソンは「トマトのソース」を用意し、おでんの“洋風化”という新たな提案を打ち出した。おでんつゆに加えると、トマトベースの洋風スープに早変わりし、多くの具材を入れてトマト鍋風にもできる。トマトソースに合う具材として、野菜たっぷりの「ポトフ風ロールキャベツ」なども発売した。パンやパスタとの相性も良さそうだ。麺化に続き、洋風化のトレンドが他社にも波及するかもしれない。
 ところで、1979年にコンビニで初めておでんを始めた元祖のセブン-イレブンはどうか。同社は麺化には走らず、ちょい足しも味噌だれ、辛子、柚子胡椒の3種類とオーソドックス。あくまでだしと具材で正面から勝負する王道を貫いているようだ。それでも、元祖は王者であり、おでんの売り上げは年間2億4000万個と、コンビニ業界1位を誇る。
 新井氏によると、同社にはおでん部会というグループがあるという。グループはさらに大根部会、玉子部会など具材ごとに細分化され、毎年具材メーカーを集めてコンペをし、最良の味のものを使う。競合メーカーを切磋琢磨させることで、高い品質を保持しているのだ。
 それにしても、なぜこれほどにコンビニはおでんに力を入れるのか。客寄せになるという事情以外にも理由はあるようだ。「コンビニのおでんの利益率は約5割と極めて高い。ある店舗では、昔は1日50個程度しか売れなかったが、今は多いときで1000個売れる。1個100円として5万円の粗利が出る。ロスは店持ちだが、上手く売れば利益への貢献度は非常に高い」(新井氏)。
 利益率5割といえば、コンビニの一般的な加工食品の2倍だ。各店舗の懐を潤す代表選手であるコンビニおでん。熱い戦いは、今年の秋冬もますます激化しそうだ。
(大来 俊/5時から作家塾(R))

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