審査厳格化で借りられない人が増加……。税制改正で激変する住宅ローン最新事情

超低金利が続く昨今、マイホームの購入を検討している人も少なくないはず。しかし、大幅な税制改正により今、思わぬ影響を受ける可能性が浮上している!

◆[激変する住宅ローン]最新事情

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、過去最多の感染者数を連日のようにメディアが報じる今冬。経済の先行きにも暗雲が立ち込め消費低迷が懸念されるなか、先日発表されたのが’21年度の税制改正大綱だ。特に我々の生活に影響を与えそうなのが住宅ローンに関わる税制。不動産コンサルタントの長嶋修氏は今回の改正案を次のように解説する。

「今回の改正では10年間の住宅ローン控除期間が13年間に延長される特例措置を’22年の12月末の入居にまで延長(特例を受けるには注文住宅は’21年9月、分譲住宅は’21年11月までに契約する必要あり)とされました。

 また、年間所得1000万円以下と条件付きで、対象物件の床面積要件も従来50㎡以上だったものが40㎡以上に緩和され、ローン控除の対象物件が広がることに。所得要件がついたのは富裕層による本来の趣旨と異なる資産形成目的の購入を防ぐためでしょう」

◆庶民は思わぬ理由で住宅ローンを借りることができないケースも

 歴史的な低金利が続き、近年は変動の場合、0.5%前後の金利で借りられる金融機関も珍しくない。しかし、富裕層は蓄財に活用する一方で、庶民は思わぬ理由で住宅ローンを借りることができないケースも増えているという。

「副業で確定申告する方は要注意です。本業以外で収入がある場合、節税のために副業の経費を合算して申告所得を減らしがちですが、そうするとローン審査の際も本来よりも年収が少ない人とみなされ、融資可能額が減る可能性が高い。

 また、投資用物件のための事業用ローンは以前なら別枠でしたが、’20年4月からフラット35が与信枠に影響するように制度を変更。ほかの金融機関も同様の動きを見せています。カーローンなどそのほかの残債も与信に関わるため、すでにまとまった借り入れのある方は大企業の正社員や公務員などであったとしても、以前と比べて、住宅ローン審査がなかなか下りなくなりました」(長嶋氏)

 ただし、借り入れがあるからと住宅ローンをすぐに諦めてしまう必要はない。

「フルローンは難しくても、自身の貯蓄や親からの援助を頭金に回すことで、一定額までローンが下りることもあります。また、パートナーがいる方は2人で借りるペアローンも検討してみてください。2人分の与信を使えば、融資可能額が大きく増える可能性が高い。ほかにも自治体によってはリフォーム助成金を用意するなどの住宅購入に関する補助制度もいろいろとあるので、利用可能なら積極的に活用するべきです」(同)

◆審査の厳格化により借りられない人が増加中

①副業で申告所得を減らしている

副業に関わる経費を合算し、申告所得を大きく減らすことは節税目的では有効だが、ローン審査ではマイナスになるケースが多い。たとえ副業が実質的に黒字化していても住宅ローンを組む際にはほぼ考慮されないと覚悟する必要がある。

②投資用不動産のローン残債がある

近年、会社員でも参入している人が多い不動産投資だが、すでに借り入れがある場合は住宅ローンの与信枠をそのまま喰いつぶしてしまう。’20年4月の制度改正により、打撃を受け、ライフプランを大きく狂わせる兼業大家が多数発生した。

③カーローンなどの借り入れがある

マイカーのローン購入やスマートフォンの分割払いなどをしている人も要注意。少額の場合、借り入れ自体が問題になるケースは少ないが、返済に滞りがあるとただちに信用情報が傷つき、新たな住宅ローン審査の際には悪影響を及ぼす。

◆住宅ローン控除のメリットは減る見込み

 住宅ローン控除の対象基準が広がる一方で、今回の大綱では“改悪”とも取れる変更もある。住宅ローンの控除額が「年末時点のローン残高の1%か、その年に支払った利息の総額の“少ないほう”」となる見込みで、’21年では持ち越されたが、’22年には控除のルールが変わることになりそうだ。

「住宅ローン控除はもともと金利が5%近くある頃に始まった制度で、当時はここまで低金利になるとは予想してなかった。今は控除率の1%よりもローン金利のほうが低い逆ザヤ状態なので、『補助金をもらいながらローンを返している』ようなもの。ただし、『改正の見込み』と報じられていますが、住宅業界からは強い存続の要望があるのでまだ実現するのが決まったわけではありません」(同)

 それでは改正後は返済のキャッシュフローにどの程度の影響が予想されるのか。「現在は超低金利時代で利息負担が少ないため、多くの方にとって控除額が減りそうです」と指摘するのはファイナンシャルプランナーの関根克直氏だ。

「例えば、年始に4000万円の住宅ローンを返済期間35年、金利0.5%で借り、年末のローン残高は約3900万円になった場合、借入残高の1%にあたる39万円が所得税と住民税から控除されます。しかし、同じ借り入れ条件で試算すると、月の利息は1万6600円で1年間の支払利息は19万7000円。少ないほうが適用される改正後は39万円ではなく19万7000円となり、控除額が20万円弱は減ります」

◆メリットもデメリットもある今回の改正案

 現状、控除は13年続くため、累積するとかなり大きな差となる。税制改正が正式に決まれば、多くの利用者にとって悪影響は避けられないが、今後について関根氏は「ローン商品のあり方自体が変わってくるはず」と見通しを明かす。

「改正前と比較するとうまみは減ってしまいますが、それでもローン控除が利用者にとって有利な制度であることは変わりません。改正により金利に上乗せするタイプの団体信用生命保険(団信)を選択する人が増えてきそうです。金融機関も生命保険の保証を手厚くしつつ、1%近い金利になるよう調整する積極的な動きが出ると思います。

 また、ローンの事務手数料や保証料として借入総額の2%程度の一時金を払っていますが、『金利0.2%分の上乗せにして一時金不要』とする商品も今後は人気を集めるはず。最初の10年間は金利が高いけど、11年目以降は金利が下がるステップダウン金利のローン商品も今後は開発されていく可能性が高いでしょう」

◆’21年度は買い時?

 メリットもデメリットもある今回の改正案だが、現行のローン控除が継続され、かつ床面積の要件が緩和される’21年度は買い時というのが関根氏の見解だ。

「制度変更を見据えてお金を貸す側の金融機関もさまざまな対応をしてくると思うので、しっかりとリサーチし、賢く利用しましょう。ただし、そもそも家というものは『控除があるから』買うのではなく、あくまで家族やライフプランに応じて買うものです。後悔のない住宅選びをしてください」

 コロナ禍で今後の住宅事情も不透明ななか、頼みの綱となる住宅ローン。状況を注視しながら上手に活用していきたい。

【不動産コンサルタント・長嶋 修氏】

さくら事務所会長。ホームインスペクションの普及に尽力し、不動産関連の有識者として数多くのメディアで活躍を続ける。著書や講演実績も多数。

【住宅ファイナンシャルプランナー・関根克直氏】

住宅に特化したサービスを提供して16年の実績を持つ。投資用ワンルームに関する相談も受け付ける。YouTubeチャンネル「住宅FP関根」も人気を集める。

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