「頭痛持ち」と呼ばれる人がいる。
誰でも頭が痛くなることはあるものだが、頭痛持ちの人はそれが持病なので、日々の生活で何かと大変なことが多い。
頭痛にも色々あるが、今回取り上げるのは「片頭痛」。
「ズキン、ズキン……」とリズム感を伴って襲い来る激痛は、経験したものにしかわからない。
一刻も早く治まってほしいし、できることなら発作そのものを回避したい。何か対策はあるのだろうか。
「4割の人が頭の両側に痛みを感じます」
「片頭痛は、顔の知覚を支配する三叉神経が何らかの刺激を受け、脳の血管を拡張する物質が分泌されることで起きる痛み――と考えられています。有病率は人口の8%とされ、男性よりは女性に、また10~20代の若い世代で発病し、年齢を重ねるうちに発症しなくなることが多い」
と語るのは、東京・八王子市にある菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁医師。
片頭痛の特徴は、冒頭でも書いた「ズキン、ズキン……」という、心臓の拍動に合わせた律動的な痛みだ。
痛みの強さは人によって異なる。我慢しながら仕事を続けたり、授業を受けることができる人がいる半面、七転八倒の苦痛の末に救急搬送されることもある。
「片頭痛というと、頭の左右どちらか一方に起きる痛みのように思われがちですが、実際にはこの病気の4割の人が“両側性”といって頭の両側に痛みを感じます」
中には「混合型頭痛」の人も
片頭痛を疑って医療機関を受診すると、脳出血や脳腫瘍、発熱があれば髄膜炎などの重大疾患を否定するため、MRIやCTなどの画像検査が行われる。その結果、こうした命に関わる病気でないことが分かっても、すぐに片頭痛と診断が下りるわけではない。群発頭痛や緊張型頭痛、後頭神経痛など、症状のよく似た病気との識別が必要だ。
とりわけ似ているのが、肩や首の筋肉の「凝り」が原因で起きる緊張型頭痛で、中には片頭痛と緊張型頭痛を併せ持っている「混合型頭痛」の人もいる。
「片頭痛の場合、発作が起きる前に目の前がチカチカしたり閃光を感じる、あるいは音や匂いに敏感になるなどの特徴的な前兆が出る人がいます。また、発作が出てからも吐き気を催すなどいくつかの特徴があるので、そうした細かな症状を検証しながら診断をしていきます。片頭痛に限らず頭痛の診断には高い専門性が求められるので、脳神経外科か神経内科、あるいは“頭痛外来”という専門外来を設置している医療機関を受診してほしい」(菅原医師)
その頭痛が片頭痛によるものかどうかがわからないのに、片頭痛と決め付けるのは危険だ。まずは医療機関の診断を仰ぐのが先決だ。
痛みを感じたら特効薬を速やかに服用する
ここからは、医師の診断によって片頭痛であることがハッキリした「頭痛持ち」であることを前提として、次に頭痛発作に見舞われた時にどう対処すればいいのか――について触れていく。
「医療機関で片頭痛と診断されたら、トリプタン製剤という特効薬が処方されていることが一般的なので、痛みを感じたら速やかに服用します。この薬は血管収縮作用により片頭痛の拍動痛を鎮めると同時に、炎症の原因となる血管作動物質の放出を抑制します。ただ、発症から時間が経過するにつれて効果も薄まってしまう。頭痛が始まってから30分以内の服用が効果的です」
すでに書いた通り、片頭痛の中には吐き気を伴うケースもある。強い吐き気がある時に薬を飲むのは困難だし、せっかく飲んでも吐いてしまったのでは意味がない。
そんなケースも想定して、この薬には鼻の粘膜から成分を浸透させる点鼻薬や、自己注射薬も用意されている。
また、短期間に発作を何度も繰り返す人には、塩酸ロメリジンやバルプロ酸などの片頭痛の予防薬もあるので、医師と相談の上で自分に合った薬を選ぶといい。
心臓をゆっくりさせることが重要
もし、そうした薬を持っていないときに片頭痛が始まったらどうすればいいのか。
「片頭痛が起きているときは音や光に対して過敏になっているので、暗くて静かな部屋で横になるのが一番です。通勤や通学の途中など、横になる場所がないときは、せめて椅子に座って安静にすること」(菅原医師)
心臓の拍動に連動する頭痛なので、心臓をゆっくりさせることが重要なのだ。あわてて走り回ると症状を悪化させてしまう。
発作時に光に過敏になる人は、外出時に「茶系のサングラス」をかけると効果的だ。
なお、敏感になる対象には「匂い」もあるので、せめて発作時だけでも香水をつけている人からは遠ざかるほうが安全だ。
もう一つ、覚えておきたいのが「冷やす」こと。痛みの発信源(血管が拡張している部分)を冷却するとラクになることが多い。アイスノンや冷えピタなどの冷却剤があればいいが、それ以外で急場をしのぐ方法を、菅原医師が教えてくれた。
「コンビニやドラッグストアで凍らせて売っているドリンク類のペットボトルで冷やすのです。ロックアイスでもいいけれど、ペットボトルのほうが便利です。ただし、直接皮膚に当てるのではなく、薄手のタオルを巻いて冷やすといいでしょう」
発作が治まれば中身は飲めるし、一石二鳥のお助けアイテムだ。
発作が始まってからの飲酒は禁忌
「飲む」という意味では、コーヒーなどに含まれるカフェインには、頭痛を和らげる作用がある。薬がない時にはコーヒーやココア、お茶、チョコレートなど、カフェインが入っているものを口にするといい。
ちなみに日頃から心がけて摂取しておきたい成分としてはビタミンB2とマグネシウムがある。頭痛持ちの人は普段から、レバーやウナギ、玄米、アーモンドなどでビタミンB2を、納豆や油揚げなどでマグネシウムを、積極的に食べておくといいだろう。
一方で避けておきたいのがアルコールだ。
「アルコールは総じて血管拡張作用がありますが、片頭痛に関しては赤ワインが最も発作を起こしやすいと言われています。発作が始まってからの飲酒は禁忌ですが、頭痛持ちの人が普段飲むなら、ウイスキーなどのほうがいいでしょう」(菅原医師)
“寝てしまう”のも痛みを抑えるという意味では効果的
他にも片頭痛対策はある。
「体を温めると血管が開いて痛みを増長してしまいます。症状が出ている間はなるべく入浴を避け、入るにしても浴槽には浸からずにシャワーで済ませるべき。また、“寝てしまう”のも痛みを抑えるという意味では効果的な対策です。ただ、睡眠の取り過ぎも頭痛の温床になるので、寝すぎには気を付けてください」
同じ「頭痛」でも、片頭痛と緊張型頭痛とでは薬の種類が異なる。片頭痛の発作に緊張型頭痛の薬(筋弛緩剤)を使っても効果はない。
しかし、市販の鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンなど)は、トリプタン製剤ほどではないものの、一定の効果はある。ドラッグストアで売っているこれらの薬を使って、今起きている発作だけはやり過ごし、痛みが引いたら医療機関を受診する――という手もなくはない。
「時が経てば必ず治まります」
安静にしていたとしても、頭痛に耐えながら時を過ごすのは不安なものだ。
しかし、菅原医師は言う。
「片頭痛の発作は、時が経てば必ず治まります。短くて20~30分。長くても3時間程度の辛抱です。“終わりがある”と考えられれば、精神的に落ち着くことができ、痛みの軽減にもつながります。そもそも片頭痛で命を落とすことはありません」
片頭痛の発症要因の中には「ストレス」もある。
つらいのはよくわかりますが、慌てないこと、不安がらないことが、片頭痛対策のベースにある――ということだけでも、頭の片隅に置いておいてください。
(長田 昭二)