東日本大震災で日本に寄せられた「善意」は小さな国々とその国民にも広がった。貧しくとも、子供たちはわずかの蓄えからコインを差し出し、歴史的な日本への思いを表した国がある。かつて大災害を受けた国はその経験で独自の支援に乗り出した。91カ国・地域の政府が175億円以上の寄付金を表明し、日本赤十字社が海外から受け付けた主に民間からの寄付金は約386億円に上る。支援の形は異なるものの、そこに共通するのは日本が国際社会と築いてきた「絆」である。
親日国が多い太平洋島嶼(とうしょ)国の一つ、トンガ。政府からの20万パアンガ(約950万円)と別に現地の小学校の児童が5月5日、校長と日本大使館を訪れ、99パアンガ(約4700円)を寄付した。
「日本からもらったものと比べると本当に少ない金額だけど、日本に神のご加護があるよう親愛の気持ちを込めて贈ります」
添えられたメッセージには、そう記されていた。
■貯金を寄付する子供たち
児童が使う学校の教室やトイレ棟は日本の支援で整備された。寄付金は児童からの恩返しだ。「小遣い」の習慣がないトンガで、子供はお使いの釣り銭の一部をもらうなどして貯金する。蓄えた1パアンガで飲む缶ジュースはたまのぜいたくだ。集まった寄付金は50トンガセント硬貨(1パアンガ=100トンガセント)が大半だった。
政府が3000万マリフラン(約600万円)を寄付したアフリカ西部マリでは4月、南部の村民が日本の支援でつくられた橋の引き渡し式の際、突然、10万マリフラン(約2万円)を手渡し、出席した日本の川田正博大使を驚かせた。質素な生活を送る村民には大金だ。
村民は村にいくつかしかないテレビを共同でみて、日本の被害を知った。「自国の復旧を差し置いて日本は支援の約束を果たした」。村民の目にはそう映った。橋は被災地の復興も祈って「KIBOH BASHI(希望橋)」と名付けられた。
過去60年で最悪レベルの干魃(かんばつ)で今、食料危機が深刻なアフリカ東部のエチオピアからも「善意」が届いている。1人当たりの国民総所得が330ドルという最貧国にもかかわらず、政府が企業などに呼びかけて544万ブル(約2500万円)が集まった。
「日本は昔から重要なパートナーだ」
首都アディスアベバで6月23日に行われた寄付金贈呈式でハイレマリアム・デサレン副首相兼外相はこう述べた。
日本とは約80年の古い外交関係にあるエチオピアは帝国主義時代、欧米列強に抵抗してきた歴史を持ち、その際のモデルが日本だった。当時は学校で日本の近代化について教えられたほどで、今も高齢者ほど日本への思い入れは強い。
■モルディブはツナ缶60万個
寄付金ばかりではない。インド洋の島国、モルディブは約60万個ものツナ缶を日本に届けた。2004年のインド洋大津波で、長期保存可能なツナ缶が被災住民の貴重な食料となった経験を踏まえての判断だ。
主に輸出用のツナ缶は、国内では1個が1人の外食費の数回分に相当する高価な品物だ。大量のツナ缶を用意する費用を工面するため、モルディブは3月中旬、チャリティー番組をテレビ・ラジオで企画。36時間に及ぶ放送を通じて約900万ルフィヤ(約5000万円)が集まった。
モルディブにとり日本は最大の支援国。インド洋大津波では、首都マレのある島の被害が日本の援助で整備された護岸で少なかったこともあり、恩返しの機運が高まった。
(宮下日出男/SANKEI EXPRESS)