【沈む島の真実 キリバスから】
真っ白の砂浜に広がるエメラルドグリーンの海。青く晴れ渡った空からは、燦々(さんさん)と太陽の光が降り注ぐ。日本から南東へはるか5千キロ余り、太平洋の中心に位置するキリバス共和国。思わず息をのむ美しい海岸だが、よく見ると黒い“落とし物”が点々としていた。
犬や猫のものではなかった。
島の自動車整備士、タナシ・ワアドさん(27)は「海ですればそのまま流れていく。天然の水洗トイレのようなものさ。草むらでするより衛生的だよ」。なぜ、こんなことになっているのか。
キリバスは、33の島がすべてサンゴ礁でできた島国。面積は日本の対馬とほぼ同じ800平方キロ、人口わずか10万人の小国だが、世界で唯一、東、西、南、北半球すべてにまたがっており、200カイリ排他的経済水域(EEZ)は3550平方キロと世界第3位。
日本からの直行便はなく、成田からソウル、ナンディ(フィジー)と乗り継いで、首都タラワに着いたのは3日目だった。
日本と同じ太平洋に位置しながら、なじみのない国だが、隣国ツバルとほぼ同じ状況にある島国といえばピンとくるかもしれない。そう、キリバスはツバルとともに地球温暖化、海面上昇による「沈む島」といわれているのだ。
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キリバスなど環礁島が沈むと言われ始めて20年がたつ。しかし、海岸線の浸食は温暖化だけが影響しているのか。
太平洋諸島地域研究所の理事で大阪学院大学の小林泉教授は「さまざまな研究結果が出ていますが、あの海域で目立った海面の上昇はない、というのが多くの専門家の判断です。面積が減っているのは事実ですが、そもそも環礁島は脆弱(ぜいじゃく)で、多くの原因が複雑に絡み合っている」とし、こう続けた。
「島の消失の原因は、温暖化による海岸浸食に加え、実は社会的な環境破壊も影響しているのです」
太平洋の“田舎国”といわれるキリバスも近代化が進み、魚とイモ類が中心だった食生活は米や缶詰などの輸入品へ変わった。人口は都市に集中し、核家族化が進んだ。一方で、若くて優秀な人材は豪州やフィジーといった近隣国へ流出している。
人口が増え、衣食のほとんどを外国産でまかなうようになると、ラグーンと呼ばれる環礁の内側の海域に輸入品の空き缶やペットボトルが山をつくるようになった。社会の激変で、あちこちにさまざまな矛盾が出てきている。
海岸で見かけた“落とし物”も、以前なら人々は海に突き出た小屋で用を足していたため見られなかったものだ。外国から来た宣教師らから「不衛生だ」と指摘され、小屋は撤去されたという。
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日本から遠く離れた「沈む島」で今、何が起きているのだろう。小さな島国にしばらく住み込んで、人々の暮らしをのぞいてみる。(キリバス 今泉有美子)
■キリバス 1979年に英国から独立した。公用語はキリバス語と英語。主な宗教はキリスト教。日本との関係は良好で、タラワにある漁船員養成所では日本船で働くため日本語の授業が行われている。