小さな猫たちの大きな恩返し

猫はいい。あの媚びない姿勢と、そうかと思うと絶妙なタイミングで甘えるその仕草に、ツンデレとはこういうことか! と人間のくせにこれはモテるなぁ、今度実践してみようかなぁ、ぐふふ、と猫に学ぶことの多い私である。
しかし、猫達はいつだってそれが自然で、何があろうと悠然と優雅に、日々を淡々と生きている。猫好きの方々は、こういう猫の姿勢を愛してやまないとよく聞くが、私も多分にもれない一人である。
2011年3月11日。あの日の前も、あの日も、あの日の後も田代島という宮城県石巻市沖にある猫好きの間では有名な、人口より猫の多いその島で猫達は変わらぬ生活を送っているが、その猫達が起こした奇跡があった。その奇跡をまとめた本が『にゃんこ島の奇跡 “田代島で始まった猫たちの復興プロジェクト”』だ。
田代島で始まった復興プロジェクト、それは「にゃんこ・ザ・プロジェクト」という。「にゃんこ・ザ・プロジェクト」とは、一口一万円、一口以上で支援オーナーを募集し、集まった基金で津波により流出した漁業全般に必要な資材購入費や、それに加え猫達のエサ代、獣医代などに使う目的で支援を募ったプロジェクトである。
今回の震災では、国の動きの遅さに閉口した人もきっと多いだろう。だが、この「にゃんこ・ザ・プロジェクト」は始まりから目標金額達成までが非常に早かった。猫好き+支援という、この新しい形の復興は支援者たちにどのような意識を生んだのだろうか。著者の石丸かずみさんにインタビューをしてみた。
「それまでは、被災地に『お金』をだす事しかできませんでしたが、このプロジェクトによって、支援の形を選ぶことが出来る様になったと考えています。自分のお金がどんな形で使われるのか、特に被災者自身が考える復興に直接支援できるというのは、支援する側にとっても興味関心が持続しやすいと。募金というものももちろん必要ですが、具体的な活動に支援する形だと、時間経過と共に薄れがちな気持ちも続いていくと考えています」
人間には、忘れるという才能がある。きっと忘れる才能がなければ、辛いことで心がいっぱいになって、他のことで頭を埋めるようなことをしないと生きていく、ということ事態が困難になるだろう。
でも、きっと忘れてはいけないこともある。あの日、大きな地震によって引き起こされた津波や原発事故によって、大切な人の命をなくした人や大切な住む場所を追われて、それにまだ苦しんで戦っている人たちがたくさんいる。
被災地に実際住んでいるわけでもない、被害にあった親戚がいるわけでもない、東京の片隅に住み、日々起こる様々な出来事に翻弄されている小さな一人の人間である私は、今現在苦しんで戦っている人がいることを認識しながら、自分に出来ることはない、といつしかどこかであきらめてしまっていた気がする。そして私のような人は案外多いのではないだろうか、とふと思った。
この書籍は、そんな私に優しく小さい一歩を踏み出すきっかけを与えてくれた。まだまだ自分にできることはある。田代島の猫達のように、自然体で私らしく出来ることをやればいいのだ。
著者の石丸さんは、インタビューの最後をこう締めくくってくれた。
「このプロジェクトは「お金を集める」という部分では大成功だと思いますが、まだ、そのお金を使った復興の形といえば、これからになるでしょう。一口支援を利用したプロジェクトは、被災地にはたくさんありますが、成功しているところは……。このにゃんプロを知ることによって、まだまだ苦しむ被災地に、興味関心を持ってもらえたら、この本を書いた価値が少しでもあったのではと考えています」
この国の復興は、まだまだこれからだ。そして原発など問題は山積している。募金でもいいし、支援でもいい。今、この国の現状を改めて再認識することだけでもいい。その気持ちをたくさんの人が持つことで、この国の未来は変わっていくような気がする。
(梶原みのり/boox)

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