【函館】中国人旅行客らが急増する函館で、ステンレス 製の小型魔法瓶が飛ぶように売れている。市内の小売店や免税店では、10個単位でまとめ買いするツアー客の姿も目立ち、常に品薄の状態だ。すっかり定着し た中国人らの「爆買い」だが、なぜとりわけ魔法瓶が好まれるのか。人気の秘密を探った。(石田礼、宇野一征)
陳列棚に整然と並んだ魔法瓶が、次々と消えていく。5月下旬、函館ベイエリアの金森赤レンガ倉庫内にオープンした家電量販店ラオックス。商品を手にした のは、ほぼ全員中国人観光客だ。北京からツアーで来た50代男性は「帰ったらお土産に配る」とうれしそうに話し、一度に10本を買い物かごに放り込んだ。
函館空港の免税店でも、魔法瓶の人気は高い。中国人観光客が大挙して訪れた「春節」(中華圏の旧正月)後の3月には在庫切れの状態が1週間ほど続いたと いう。「有名メーカー製で、かつ500ミリリットル程度の円筒形タイプが売れている」と同店担当者。象印マホービンやタイガー魔法瓶の製品は常に品薄だ。
業界団体の全国魔法瓶工業組合(大阪)によると、魔法瓶人気は全国的な傾向で、中国人向け観光ビザの発給要件が緩和された2010年ごろから徐々に上昇。昨年の売上本数は過去最多の約1900万本に達し、今年は昨年を上回るペースで売れているという。
なぜ土産に魔法瓶なのか。中国文化に詳しい北星学園大(札幌)の張英春准教授は「中国には医学的に『冷たい飲み物は体に良くない』との考え方があり、温 かいお茶やお湯を飲む習慣があるためではないか」と中国のお国柄に着目する。中国国内ではお湯を沸かすスペースを備えた職場が少なく、飲料の自動販売機も 普及途上のため「お湯やお茶を入れて魔法瓶を持ち歩く人が多い」(張氏)。実際、函館でも魔法瓶を片手に観光する中国人旅行客の姿が目立つ。
魔法瓶メーカーのサーモス(東京)は「中国で魔法瓶を置いているのは基本的に百貨店で、価格も日本の2~3倍」(広告宣伝課)といい、円安人民元高による値ごろ感も人気の追い風になっているようだ。
中国人旅行客の間で魔法瓶は電気炊飯器、温水洗浄便座と並ぶ日本土産の“スリートップ”。日本の温水洗浄便座を絶賛するコラムが共産党機関紙・人民日報 に掲載されるなど、国内メディアの紹介やインターネットの口コミで流行になることが多い。これに円安進行も重なり「爆買い」に拍車をかけているとみられ る。外国人客の消費行動に詳しい札幌国際大の横田久貴准教授は「旅行の前に、周囲から大量のお土産を頼まれてくる人も多く、大量購入につながっている」と 指摘する。
函館市を14年度に訪れた観光客数484万人のうち約1割の49万人は外国人客で大半は台湾人と中国人。7月に函館―北京間の定期便就航も予定される 中、横田准教授は「道内を訪れる中国人や台湾人は増えているが、函館は初めてという人がほとんど。『この地で何か買いたい』という思いは特に強い」と話 し、魔法瓶に限らず、彼らの消費意欲をどう引き出すかが観光の重要戦略になりつつあると指摘する。