小売企業が見逃せない、消費者ニーズに応える6つのトレンド

小売業界の存続を問うような「揺さぶり」が、多方面で起きている。物価の上昇、テクノロジーの激変、そして何よりも消費者の行動変化だ。

消費者の感じ方、小売に対する期待、そして最終的には彼らの行動が、新しいショッピングトレンドを巻き起こしている。小売企業はこうしたトレンドを認識し、対応していかなければならない。業界リーダーが注目する小売に関する6つの消費者トレンドとは何か、以下に紹介する。

小売業界の注目トレンド(1): 有料会員制という新しいロイヤルティ

小売業界の注目トレンド(1): 有料会員制という新しいロイヤルティ

これからの小売企業の競争力と差別化は、正確かつ緻密な顧客データにかかっているという認識が広がっている。しかし多くの企業では、まだこれに対応できていない。(ポイントカードなどの)ロイヤルティプログラムから顧客データを収集することはできるが、これだけでは十分と言えない。

「現在、多くの小売企業で行われているロイヤルティプログラムのフォーマットでは、効果を上げられるだけの顧客データが得られていない」と、小売業界に詳しいダグラス スティーブン氏は述べる(彼は小売業界の将来を予測するフューチャリストで、「Reengineering Retail: The Future of Selling in a Post Digital World(リテール革命:ポストデジタル世界における販売)」の著者として知られている)。

この課題に挑戦しているのが、Amazonプライムやコストコのような、「有料会員」を対象とするサービスプログラムだ。ありきたりな無料のロイヤルティプログラムとは違い、あえて会員権を購入する消費者とは、「本気の付き合いが期待できる」とスティーブン氏。「本気で付き合う気がある顧客は、行動やデータの共有を厭わない傾向にある」

もちろん、有料プログラムで成果を上げるには、会員費に見合うだけの価値を消費者に提供する必要がある。何を提供するかは会社によって異なるだろう。新製品購入やイベント参加等の優先や、特別価格、VIPサービスなど、どんな企業でもその業態に合った会員特典を工夫できる。

例えば生活雑貨を扱う米Bed Bath and Beyondでは、2018年10月に有料会員プログラム「Beyond+」を開始した。年会費29ドルで、全商品がいつでも2割引になるという内容だ。

小売業界の注目トレンド(1): 有料会員制という新しいロイヤルティ

2018年には、同様のプログラムを展開する企業が増えるとスティーブン氏は予測している。

小売業界の注目トレンド(2): 重要性を増すモバイルタッチポイント

小売業界の注目トレンド(2): 重要性を増すモバイルタッチポイント

Adobe Digital Insights (ADI) では、2017年の年末商戦において、初めてモバイル端末(つまりスマートフォン)による小売webサイトへのアクセスが大部分を占めるようになると予測していた。モバイルのインパクトは12月に限らず以降も続く。

注目すべきはモバイルからの「売り上げ」だけではなく「滞在時間」だ。急成長を遂げている企業では、スマートフォンでの訪問時間が23%も長くなっており、モバイルタッチポイントへの注力が売上の向上につながることをうかがわせる。

小売業界の注目トレンド(2): 重要性を増すモバイルタッチポイント

「小売企業各社は、まずモバイルでの存在を確立する必要がある」とADIの ディレクター、テイラー シュレイナー氏は述べている。「購入前後のどの段階であろうと、顧客がしたいことのすべてにスマートフォンで応える必要がある。単に購入が行われる場というだけでなく、顧客のニーズが株式情報だろうと価格情報だろうと、または製品を詳しく比較できる機能だろうと、モバイルをすべてのサービスに対応する場として捉えるべきだ」

消費者は、デスクトップ端末でより高額の買い物をする傾向にある。このため、デスクトップ体験により注力し、リソースを投入している企業もある。しかし、これは間違いといっていいだろう。

「モバイルは、カスタマージャーニーにおいて重要な部分を占めている。小売企業各社は、消費者が実際に購入に到達するまでの全行程において、モバイルを介して寄り添えるようでなければならない。モバイルを育てなければ、会社としての成長はありえない」と、シュレイナー氏は述べている。

小売業界の注目トレンド(3): オムニチャネルを超えるオムニプレゼンス

小売業界の注目トレンド(3): オムニチャネルを超えるオムニプレゼンス

すべてのチャネルを介して一貫した顧客体験を提供するには、どうしたら良いのか。大部分の小売企業が現在でも模索を続けているが、GoogleやAmazonなどは、インテリジェントアシスタント(AIアシスタント)で日常生活のあらゆる側面に食い込みつつある。例えばAmazonのインテリジェントアシスタントである「Alexa」は、Amazon以外のデバイスにも搭載されるようになった。スマートホームハブ、自動車、金融インターフェイス、さらにはピザのデリバリーアプリにまで搭載されている。

「我々は、あらゆる瞬間にインテリジェントアシスタントによってサービス提供される現実に近づきつつある」とスティーブン氏。「これは、オムニチャネルという考え方を超えた、オムニプレゼンスというべきものだ」

ほかにも時代を反映した動きは見られる。米百貨店シアーズでは、Alexaを搭載した家電ブランド「Kenmore」を製品開発している。「またもやAmazonが業界の掟を変えたという事実を認める小売企業が、さらに増えるだろう」とスティーブン氏は述べる。

また、米小売大手ウォルマートでは、音声ベースのショッピング体験を提供すべく、Googleと提携した。ウォルマート米国eコマース担当のマーク ローレ氏は、Googleとの提携を発表するに当たり、次のように述べている。「低価格競争だけがウォルマートの仕事ではない。より手軽でスピーディなショッピングの実現も目指している」

小売業界の注目トレンド(3): オムニチャネルを超えるオムニプレゼンス

小売業界の注目トレンド(4): パーソナライズテクノロジーのエコシステム形成

小売業界の注目トレンド(4): パーソナライズテクノロジーのエコシステム形成

デジタル企業大手によるインテリジェントアシスタントが進化を続けている。その影響を受け、小売企業とブランドは、今後より大きな転換に巻き込まれていくだろう。

「市場で競争を続けていくには、小売企業もデータとテクノロジーの会社になることが最優先事項だ」と、スティーブン氏は述べる。「家庭用のインテリジェントアシスタント、スマートテレビ、コネクティッドカーなど、我々の購入行動の大部分はテクノロジーに組み込まれるようになる」

消費者が求めるようになった「カスタマイズされたイマドキの顧客体験」を提供するには、最新のデータ分析機能が必須となる。「注目すべきは、よくよく考えた上で購入されるファッションアイテムから、深く考えずに買う日用品まで、個人に特化した体験が求められるという点だ」と、米コンサルティング Alix Partnersのジェリー ウルフ氏は語る。

製品メーカーと小売企業のあいだには、新しい協業体制が必要となる。共有、分析、顧客データにもとづくアクションなどを扱う、消費者テクノロジーの戦略パートナーも交え、いかに製品を売るかではなく、いかに問題を解決するかが協業の焦点となっていくだろう。

「消費者は複数の端末とチャネルを活用し、商品の検討、購入、問い合わせ、返品、レビュー投稿、フィーバックの提供などを行っている。ブランドとの対話が絶え間なく行われ、そこから新しい要望や期待が生まれ、単なる買い物を超えた関係性というべきものが発生している」と、顧客体験ソリューションを提供するInMomentのクリスティー ナイト氏は述べている。

これからのブランドには、消費者にいつでも対応できるサービスプロバイダーのような存在になることが求められる。これは難しい注文かもしれないが、リーダー企業に学ぶことができる。ウルフ氏によると、クラフト、ケロッグ、キャンベルなどの大手消費財メーカーは、膨大な数の登録顧客を有するデータベースから有益な情報の発掘(データマイニング)を行い、顧客とのより深い対話や顧客ニーズへのソリューション提供に役立てている。

「非常に基本的なことに思えるかもしれないが、これは実に強力なものだ。裏で支えているのは、個々のメッセージを緻密にカスタマイズできる最新の分析機能だ」

同様に、フィットネス業界でもリーダー企業に学ぶことができる。ナイキ、アンダーアーマー、アディダスでは、アプリとwebに加え、フィットネストラッカー端末と機能性ウェアのセンサーデータを活用し、一人ひとりのユーザーがライフスタイルとフィットネスの目標を管理できるツールを提供している。

日用品販売では、スーパーマーケットの大手チェーンであるクローガー、ウォルマート、Amazonなどが、ショッピングリスト作成、パーソナルショッピング、配送などのカスタム機能を提供している。家電メーカーでは、サムスン、ワールプール、ボッシュなどが、製品に組み込まれたテクノロジーと顧客データを統合し、それぞれの家庭に寄与している。

ウルフ氏は以下のように述べている。「何が可能かというオプションは幅広く、2018年はさらに進化し拡大していくと思われる。別々の会社が顧客にとって便利な形になるよう互いを融合させるとき、究極のハイブリッドが生まれるだろう」

小売業界の注目トレンド(5): ソーシャルメディアでの顧客ケア

小売業界の注目トレンド(5): ソーシャルメディアでの顧客ケア

今やソーシャルメディアは、顧客が苦情を持ち込む場として真っ先に思いつく、厄介な存在になっている。

ソーシャルメディア管理ツールSprout Socialのアンドリュー カラヴェラ氏は、以下のように述べている。「小売の全体的な戦略におけるソーシャルメディアの位置付けは、できればやった方がいい、では済まなくなってきている。今やマーケティングだけでなく、顧客サービスでもソーシャルメディアが不可欠な要素になった」

実際、ソーシャルメディアは、消費者が問題に遭遇した際、「直接話をする」に次いで、2番目に使用されるチャネルになっており、ミレニアル世代ではナンバーワンとなっている(Sprout Social 第三四半期の分析より)。

不満を抱いたブランド体験をソーシャルメディアで共有した消費者46%のうち、半数以上の55%は企業からの回答や解決を求めていた。Spout Socialの調査によると、ソーシャルメディア上の顧客サービス戦略効果において、もっとも成績が悪いのは消費財メーカーと小売であるという。

「小売大手は、どこもコールセンターやホットラインを設けているが、真の意味で顧客ケアに熱心なブランドは、ソーシャルメディアでもすばやく対応するサポートチームを設けている」と、カラヴェラ氏は述べている。「理想的なモデルは、顧客の質問や問題に対し、迅速に一対一の対応ができること、望ましくはそれがパブリックな場で共有される状態だろう」

ソーシャルメディアに流れ込む大量の顧客サービスのリクエストを、リアルタイムに捌いていくには、人的リソースおよび技術的リソースの投入がかかせない。「ソーシャルメディアで求められる対応についていけない小売ブランドは、後で痛い目を見ることになるだろう」とカラヴェラ氏。

実際、手早く行き届いた対応の重要性は計り知れない。

「すべてのフィードバックは、ポジティブなものでもネガティブなものでも、当事者だけでなく誰にでも見える透明性を持って対応することが望ましい」と、InMomentのナイト氏は付け加えている。「顧客の苦情のポイントは何だったのか? 製品の質? 配送のタイミング? スタッフの対応の悪さ? いずれにしても、苦情への対処は、当事者のケースだけでなく、将来的な体験を改善できるチャンスとして捉えるべきだ」

小売業界の注目トレンド(6): 時短ショッピングでより多くを購入

小売業界の注目トレンド(6): 時短ショッピングでより多くを購入

「消費者は、より多くの商品を、より短時間で購入しようとしている」とADI ディレクター、シュレイナー氏は述べている。「買い物をなるべく迅速に済ませ、しかも一度の会計で多くを購入したい、ということだ」

実店舗を何軒も回るのが大変なのと同様に、消費者はデジタルストアのはしごも面倒に感じている。「たいした障害ではないように思えるかもしれないが、複数のデジタルストアでの買い物を余儀なくされるのは、フラストレーションにつながりかねない」と、シュレイナー氏。「消費者は、購入物によって別のオンラインストアに切り替える行為が、大きな手間だと感じている」

これは、一度の会計で買える商品の品揃えが豊富な小売大手にとって有利なトレンドではあるだろう。しかし、自社の顧客を真に理解している“ニッチ企業”にとってもチャンスといえる。シュレイナー氏によると、ペット用品やジュエリーなどのニッチな小売企業は、大手小売企業が提供するような利便性に劣らない、「個々の消費者にとって価値があり、喜んでもらえるような購入体験」を開拓しつつあるという。

小売業界が大きな変革期にあることは間違いない。消費者主導のショッピングトレンドを逃さずとらえ、自社に適した形で導入し、消費者とのより良い関係を築いていくべきだろう。

CMO.com

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