小学校入学前に通う“塾” 

小学校入学を前に、発達に課題のある子供を対象に対人コミュニケーションなどの社会性を育むソーシャルスキルトレーニング(SST)を行う塾が増えてい る。発達障害(学習障害や注意欠陥・多動性障害など)の診断を受けた子供に限らず、集中して話を聞けなかったり集団行動が苦手だったりなど小学校生活に不 安のある子供にも対応。口コミで利用が広がっている。(寺田理恵、写真も)

■個別の指導計画を基に

小さな机と椅子が並び、小学校の教室を小さくしたような部屋で、幼稚園の年中・年長組の5、6歳児7人が着席した。指導員は3人。“授業”は、発言したいときは手を挙げるなどの約束事を描いた絵カードを使い、子供たちと確認することから始まる。

最初は椅子に座り、挙手してクイズに答えていた子供たちも、開始から約20分が過ぎると、立ち歩いたり机をたたいたり。「うるさい」「しーっ」と何度も叫ぶ子供もいる。声の大きさを調節するのが苦手で、大声を出してしまうのだ。

発達に課題のある未就学児から高校生までを対象とする「リーフ」は、SSTや学習面の支援を実施する学習塾。就労支援サービス会社のリタリコ(東京都目 黒区)が平成23年に開始し、首都圏で展開する。東京都品川区の大井町校ではこの日、小学校入学に向けた就学準備コースが行われた。

声のコントロールが難しい子供には、指導員が場面に応じた声の大きさをグラフで示した絵カードを見せ、静かにするよう伝える。口頭ではなく、視覚で伝えた方が分かる子供がいるためだ。学びやすい方法が子供によって違い、個別の指導計画を基にプログラムを進める。

都内から通う年長組の女児は、同年齢の子供とのコミュニケーションが苦手だ。この日は、知らない子供たちのグループに加わるため不安がっていたが、授業 で班活動をした後は一緒に遊べるようになった。母親(39)は「小学校で一斉に指示を出されたときに聞けないと困るので、まず社会性を教わりたい」。

教室長の川崎翔太郎さんは「成功体験を重ね、自己肯定感を高めていく。集中できない子供も、席を前の方に配置したり気になる掲示物を除いたりすると気が散らない場合もある。子供の特性を理解してくれるよう、子供が通う学校と連携することもある」と話す。

■不登校、いじめ…二次障害を防ぐ

「リーフ」に就学前の子供が通うきっかけは、3歳児や5歳児の健康診査で発達の遅れを指摘され、医療機関の紹介などで訪れる事例が多い。

椅子に座って課題に取り組む▽先生の指示で動く▽係を決めて役割分担する-などを練習し、約9割は通常学級に入学する。小学校で失敗を重ね自己肯定感が 低下したり集団になじめなかったりすると、不登校やいじめなどの二次障害が起きる恐れがあり、不安を持つ保護者も多いという。

「東京未来大学こどもみらい園」(東京都足立区)も、発達に課題のある子供のための個別学習塾だ。「こども心理学部」のある大学や専門学校を運営する学 校法人の三幸学園が昨年7月にオープンした。対象は、2歳から小学6年まで。苦手な部分のケア中心ではなく、やりたいことや楽しみを支援する。

このため、(1)読み・書き・計算・SST(2)英語(3)IT(情報技術)(4)アート(5)ダンス(6)体操-の6コースを設置。子供の得意分野を 伸ばすことを目指している。未就学児には、読み・書き・計算・SSTが最も人気がある。茨城県や愛知県など遠方から通う子供もおり、来年には定員200人 に達しそうだという。

同園では「『落ち着きがない』『集中して聞けない』が主な悩みでも、それがやりたくないことだった場合は、やりたいことをさせれば変わる可能性がある。自信をつけ自己肯定感が高まると、二次障害が起きずに済む可能性がある」とする。

■発達障害、6・5%が「可能性」

SSTなどを行う民間の塾が増える背景には、文部科学省の調査で通常学級に在籍する小中学生に発達障害の可能性のある子供が少なくないと分かったことがあるようだ。

文科省が平成24年2~3月、全国(岩手、福島、宮城の3県を除く)の公立小中学校の通常学級に在籍する児童・生徒約5万4千人(回収率97%)に実施 した調査によると、発達障害の可能性のある児童・生徒の割合は約6・5%(推定値)。専門家の判断ではなく、担任教員が回答した内容から「指示の理解が難 しい」「課題や活動に必要なものをなくす」「場面に関係なく声を出す」などの困難があった。

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