少子化時代なのに、教室が足りない小学校が続出している。都市部の再開発などで、ファミリー向けの高層マンションや住宅の建設が相次ぎ、局地的に人口が急増する現象が起こっているためだ。校舎の増築や学校の新設に向けた動きが進むなか、人口増加時代の象徴だった「プレハブ校舎」があちこちで活躍している。(海老沢類)
東京・品川駅にほど近い港区立港南小学校には昨年4月、47人の児童が転入してきた。平成19年度も20人を超えるのは確実という。
「普通、転入生は年間4、5人くらい。全校集会で紹介できないほどの多さは経験がない」と、伊津雅弘校長は驚きを隠さない。
18年度末時点での全校児童数は379人。少子化の波を受け、一時は137人にまで減っていたが、ここ数年は増加が著しい。
異変の理由は、高層マンションの林立だ。ここ数年、バブル崩壊後に企業が手放した物流倉庫や工場などの跡地に大型マンションが次々と建った。品川駅に徒歩で行ける好立地と値ごろ感で人気を集める。「40階建て1038戸」「40階建て590戸」…。16年度から18年度にかけ、ファミリー向けの物件計8棟の入居が始まると、港南小の児童数は一気に3割増えた。22年度には、近隣に収容力の大きい新校舎を建てる予定だが、窮余の策として、19年度から隣接する中学校の空き教室を借りるほか、グランド脇に建てたプレハブ校舎に職員室や保健室などを移して教室をやりくりする。
「子供が増えればお互いに切磋琢磨(せっさたくま)する機会が増える」(伊津校長)といううれしさの半面、想定外の急増ぶりに関係者は戸惑いもみせる。
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臨海副都心で大規模な住宅建設が予定されている東京都江東区も事情は同じだ。18年5月に1万7172人だった区内の小学生が24年には約2万3000人にまで増えると予想する。
このため、19年度には豊洲地区に実に26年ぶりに小学校を新設、有明地区にも小中学校の建設用地を確保した。また、マンション建設で児童の増加が激しい地区にある2つの小学校で校舎を増築する。うち1校は、もともとプールがあった場所に、屋上プール付きの校舎を建てる計画だ。市街地では新たな用地を確保するのは困難なため、「既存の施設を重層化して対応していくしかない」(区教委)。
児童の数を把握しようと、一定戸数以上のマンションを建設する業者に事前の届け出を要請する自治体は多い。しかし、「『どこに何百戸のマンションができる』という情報はあるが、個人情報保護法もあり、入居者の家族構成まではつかめない。新年度が始まるまで正確な数は分からない」(港区教委)のが実情だ。
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同様の現象は、大阪市や神戸市、横浜市などでもみられ、工期が短く、撤去しやすいプレハブ校舎が活躍している。
リース契約のプレハブなら1教室あたりの年間負担額は600万~700万円ほど。数億円はかかる鉄筋校舎の増築に比べて手軽に設置できることも普及を後押しする。
横浜市でプレハブの仮設校舎を使う市立小学校は36校(今年4月1日現在)。昨年度だけで10校に設置された。
「大型マンションの建設による一時的な子供の増加なら、10年後には増築した校舎がいらなくなる可能性がある。子供たちによりよい環境で勉強してもらおうと全教室にエアコンを装備してはいるが…」(市教委)。児童の学習環境と将来の見通しをにらみながら、自治体関係者の悩みは当分収まりそうにない。
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■増え続ける高層マンション
不動産経済研究所(東京)が平成18年に行った調査によると、同年以降に全国で完成を予定している20階建て以上の超高層マンションは501棟・15万7110戸で、前回調査(17年3月末)に比べて1万7227戸増加した。このうち東京23区内が227棟・8万4650戸を占める。
同研究所は増加の背景として▽都心部で工場などの大規模用地が放出されている▽駅前再開発の進捗(しんちょく)…などを挙げており「今後も超高層マンションの建設・計画は増加する」と予測している。
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