就活オワハラが問題

就活時期繰り下げ、売り手市場化などが話題の2016年度春入社の就活戦線。今年度の就活流行語大賞は間違いなく「オワハラ」だろう。「就活終われハラスメント」の略である。メディアでもよく取り上げられている。

オワハラの何が問題か、学生はどう立ち向かうべきかについて考えてみたい。

まず、「オワハラ(就活終われハラスメント)」とは何かについて、定義を確認することにしよう。今年、春にYouTubeに投稿された、NPO法人 DSS(大学教育と就職活動のねじれを直し、大学生の就業力を向上させる会 代表 辻太一朗氏)による小林史明衆議院議員が出演する「オワハラ」の解説ビ デオでは、次のようなことがオワハラにあたると定義されている。要約すると、こうだ。

「企業の採用担当者等が、威圧的と思われる言動や応募者の不安感を煽るような言動によって、応募者に就職活動の終了を強要し、彼らの自由な就職活動を阻害 すること」「明確な阻害的行為でなくても、応募者が就職活動の終了を強要されたと感じる言動であれば、これに該当する」

具体的な例を挙げよう。

他社の辞退を強要する

「今、受けている企業を全部辞退すれば、この場で内定を出す」

「この場で、受けている企業全部に辞退の連絡を入れなさい」

などのように、他社の内定辞退を強要するパターン

②他社の選考を妨害する

他社の選考に行かせないように、毎日のように面接の日程を入れるなどして妨害するパターンである。

内定辞退をしようとした人を脅す

内定辞退をしようと連絡した人に対して、絶対に入社するように脅すパターン。そして、前述したような、他社の辞退を強要する行動に出る。

これらが代表的なパターンである。もっとも、実際に行われているのは、このようなものだけではない。

一般的なものとしては「◯月◯日までに返事が欲しい(そうでなければ内定は無効)」というものがある。言ってみれば、返信の期限を設定しているわけであ り、採用担当者としては、早く採用人数を確定したいという思いはある。ただ、他社の選考が始まる前に迫られると学生は困ってしまう。

他にも8月の第1週という、まさに大手企業が選考をし、内定を出す時期に重ねて内定者研修を行うというものがある。何泊かする研修旅行を遠方で行えば、他 社の選考を受けることはできなくなる。もともと8月から選考が始まるというタテマエのもと、その上旬に研修旅行を行うということは、ルールの形骸化も甚だ しい自体である(もっとも、この就活時期の申し合わせというのは、常に破られる宿命なのだが)。

まだまだパターンはあるが、これらが「オワハラ」と呼ばれるものの代表的な事例である。

では、この「オワハラ」はどのくらい発生しているのか。データでみてみよう。経団連の「採用選考の指針」で、採用選考活動が解禁される8月1日を前に、7 月30日、文部科学省は「オワハラ」について大学・短大の約7割が「学生から相談を受けた」とする調査結果を発表した。このデータを元に各メディアでは 「オワハラ」「7割」という言葉が躍った。

確かに看過することのできないデータではある。この調査は7月に、全国の国公私立の大学・短大から抽出した82校と、在籍する就職希望の学生3934人を対象に文部科学省が行ったものである。

オワハラの相談があった学校は56校であり、68.3%に相当する。昨年度に相談を受けたと答えたのは37校であり、全体の45.1%であるので、 23.2ポイント増加している。「昨年度」というのは、就活開始から終了までを意味するので、中間段階ですでに前年を上回っている。

これが、実態である。

ここで、「オワハラ」の何が問題かを考えてみたい。私は、この問題に向き合わない限り、企業と学生、もっと言うと、従業員の健全な関係はありえないのではないかと考えている。

「オワハラ」は学生の「職業選択の自由」を奪う行為である。学生には企業を選ぶ権利がある。しかし、「オワハラ」は、内定が欲しい学生の立場、企業間の選 考時期の違い、学生と企業の労働法や雇用慣行などに関する知識の差、先輩やリクルーター、インターンシップのメンターなどとのつながりなどを利用し、不安 感を与え、他社を受けさせないようにする行為である。

これが放置されると、学生は企業の言いなりになり続けなければならないし、結局、フライングした企業が有利ということになってしまう。早期の囲い込みが有利ということであれば、いつまでも大学における学業や大学生活の充実度が評価されるという世界観にはならない。

この点を確認しておきたい。

もうひとつ確認しておきたいことがある。学生は内定が欲しいがゆえに、さらにその後、一生勤める可能性すらあるがゆえに、ついつい企業の言いなりになってしまいがちだが、その立場は意外に強いのだ。

学生には職業選択の自由がある。日本においては、企業が内定取り消しを行うと法的問題になる可能性がある一方で(大日本印刷事件が判例として有名であ る)、新卒者の内定は辞退しやすい。内定承諾書を書かされても、そこに法的拘束力はない。また、内定者研修を過度に研修などに参加させることについても、 問題となる(宣伝会議事件が判例として有名である)。

そして、大学のキャリアセンターもこの「オワハラ」に関する相談を強化している。大学によっては、内定の意思確認を待ってもらうためのテクニックまで指南している。そのノウハウも蓄積されているのである。

そもそも、売り手市場である。学生に逃げられるのをこわがっているのは、企業の人事担当者の方である。「オワハラ」に負けないように、学生は強気に行って もいい。もっとも、学生はバカではない。内定を持っている学生は(交渉優位にあるとも言えるのだが)、理不尽な内定者拘束研修旅行を拒否し、「納得のいく まで受けさせてください」と企業にお願いしているのだ。いま、オワハラで悩んでいる人も、声をあげようではないか。

そして、この「オワハラ度」こそ、学生が企業を選ぶ上で見るべきポイントだといえる。就活において、業界・企業研究をこれまで何らかのかたちで行ってきたことだろう。この企業のオワハラ度というのは、入社する1社を決める上で大いに参考になることだろう。

実は内定を強要する姿勢こそが、企業の体質を物語っているともいえないだろうか。他社と比較した競争優位性もないがゆえに、従業員に無理を強いる企業に なっていないか。軍隊型の組織になっていないか。従業員の思考停止を誘発していないか。従業員の弱みにとことんつけ込む企業になってしまっていないか。し かも、あなたのことを本当に理解してくれているのだろうか。

もちろん、採用に一生懸命な企業とオワハラ企業は、紙一重ではある。どうしてもあなたが欲しい、一緒に働きたいという想いの現れかもしれないが。

もっとも、この「オワハラ」という言葉がひとり歩きした感も否めない。

前出の文科省の調査によると、ハラスメント(ここではオワハラ)を受けた経験があると答えた学生は232人であり、調査対象となった学生の5.9%程度で ある。やや雑な計算であるが、232人を82校で割ると、1校あたり2.83人となる。1校あたりの調査対象は47.98人だ。これを多いとみるべきか。 もちろん、オワハラがあるかどうかで言うと、存在するのは事実だが、ややデータが誇張されひとり歩きする印象を受ける。先ほどの「オワハラの相談を受けた 大学が7割」というのも、相談があったか否かの話であって、件数の話ではない。

また、昨年と比較して現時点でもオワハラの発生度は高いかのように見えるし、これを行っているのは早期に内定を出した準大手企業、中堅・中小企業であるかのような印象を受ける。ただ、ここにおいても立ち止まって考えたい。

「オワハラ」という言葉が広がったのは今年に入ってからであり、昨年は存在しない言葉だった。この言葉は、採用広報活動が始まった3月頃から広がりはじめ た。警鐘を鳴らす意味で、広がっていった言葉である。2016年度採用は就活時期の変更が行われるが、必ずしも全ての企業が守るわけではないことが懸念さ れ、オワハラのようなことが横行することが危惧されたからである。

この言葉が生まれたことにより、就活生が異議申し立てできるようになったこと、問題意識が高まったことは良かったことだといえるだろう。ただ、ややもする と、実態よりも誇張され、メディアもオワハラ事例探しに終始していたように感じる。そして、あたかも早期に内定を出している企業(=中堅・中小企業、ベン チャー企業、外資系企業)がオワハラをしている企業であるかのように印象操作されてしまったのではないだろうか。

オワハラという言葉が生まれ、広がったのは今年の春頃からだが、現象として、これは長年行われてきたことである。そして、これは他ならぬ大手企業のお家芸ともいえるものである。

またいかにも売り手市場の時期に起こる現象だと思われているようだが、これも誤解である。買い手市場においても、厳選採用であるがゆえに、内定を出した者に逃げられると困るので、厳しい囲い込みが行われる。

そもそも、ある期間で職務未経験の学生を取り合う上、内定を企業が取り消せば問題になるが、学生にとっては辞退することが比較的自由である日本の就活の慣行からすると、オワハラは構造的に起こりやすいという問題だということも認識しておきたい。

これが、オワハラ問題を考えるためにおさえておきたい前提である。つまり、実態よりも大きく伝えられていないか、そして、大手の内定を出す8月以降こそが、これがますます増える可能性がないかということである。

オワハラという言葉が流行ってしまったがゆえに、少しでも強い口調で採用担当者が迫ると、そう感じてしまうという状態にもなっていないか。あたかも、ちょっと突っ込んだ質問をすると学生はそれを「圧迫面接だ」と感じてしまうかのように。

オワハラを肯定するわけではないが、ここで、採用担当者の立場も確認しておきたい。採用担当者のミッションというのは、企業の未来を担う人材を採用することである。若手人材に対するニーズは強いし、業態によっては人材がいなければ業務は回らない。

就活時期繰下げ、売り手市場化の中、採用が厳しくなるという理由で採用予算を増加させた企業の採用担当者には、経営陣からの「ちゃんと採れるんだろうな」 というプレッシャーが半端じゃなくのしかかる。さらに言うならば、採用担当者としては、「早くウチに決めて、就活を終了して学生生活を謳歌して欲しい」と いう気持ちもある。もっとも、それが学生に伝わっているかどうか、学生が納得して入社できるように企業の魅力を伝えるべきなのだが。

このように、今一度オワハラとは何か、採用担当者とはどんな人かという視点を持っておきたい。

結局、企業にオワハラを誘発させ、かつ企業がその学生の大学生活に思いを来せない状態すら起こすのなら、何のための就活時期繰下げだったのかという話になるのだが。

オワハラが構造的に起こってしまう状態を理解しつつも、学生は声をあげはじめている。大人たちもオワハラ企業の犯人探し、この問題を傍観するだけでなく、学生を見守る努力をしなくてはならない。

学生諸君、「我が生涯に一片の悔い無し」(『北斗の拳』のラオウ風に読むこと)と拳を振り上げて叫べるほどの、納得のいく就活を!

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