山下達郎が『関ジャム』に出演、インタビュー音声だけをテレビで放送する異例かつ高度な番組構成

インタビュー対象は、テレビ番組に出ない山下達郎

ミュージシャンの山下達郎が6月19日放送の音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)に出演。名曲『クリスマス・イブ』(1983年)では、コーラスパートで50声分以上を使用し、自らの声でおこなった多重録音を1日でやり切ったことなど、貴重な裏話の数々を明かした。

一方で今回、同番組による山下達郎への単独インタビューは、他番組で観るテレビ取材とはかなり違うものだった。

テレビには出演しないことで知られている山下達郎がインタビュー対象とあって、彼が受け答えをしている様子も、動画としては一切流さなかったのだ。その姿は写真のみ。つまり山下達郎のインタビュー音声だけを流すという、約1時間のテレビ番組としては異例のやり方だった。

ただ、これは「山下達郎だから」という前提はもちろんあるが、変わった見せ方であるにもかかわらず、番組の放送中はテレビ画面に釘づけとなった。実は非常に高度なことを、同番組はやっていたのではないだろうか。

山下達郎の発言を文字で起こして、画面上にすべて載せる

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前述したように番組構成の軸は、インタビュアーの質問に山下達郎が回答する音声だ。その様子を見聞きしながら、関ジャニ∞ら出演者たちがリアクションやコメントを挿んでいく。

しかしそれだけではない。大きなポイントとなったのは、山下達郎の発言を文字で起こして、画面上にすべて載せていった点である。彼の言葉を視聴者にきっちりと読ませることで、細かくて奥深い音楽理論が伝わりやすいものになった。さらに番組は、図解なども用意して話の内容を説明していった。

もしここで山下達郎本人の動画が流れていたら、ここまで分かりやすくはならなかったかもしれない。「山下達郎の姿」という情報の方が強くなり、内容解説の文章など補足が後手にまわる可能性があったからだ。ゲスト出演者らは「日本近代音楽史の授業を受けているみたい」と感想を語った。それは音声だけだからこそ、「山下達郎の持論」を集中して聞くことができたからではないか。

それらを含めると『関ジャム』の山下達郎のインタビュー回は、文字テロップと図解を画面上に表示するテレビ的な演出ほか、長文を読ませるWEBや雑誌などの活字、音声を聴かせるラジオというそれぞれのメディアの要素をすべてミックスさせたような、興味深い構成となっていた。

特にラジオ的な要素は非常に効果的だった。インタビュー時の様子を視聴者に想像させ、その時間の崇高さを感じさせることができた。

山下達郎は話に熱が帯びてくると、息つく間もなくまくし立てる

インタビュアーの進行もすばらしかった。本来のテレビ、ラジオ、活字などのメディア取材では、インタビュー対象者のコメントに対してインタビュアーの相槌が重なったりするものである。あと取材時、インタビュアーはややオーバーにリアクションをとることもあるが、それは喋りやすい雰囲気を作ったり、相手の気持ちを乗せたりするためでもある。

しかし今回は「山下達郎のインタビュー音声だけを流す」という趣旨がはっきりしていたこともあってか、そういった「食い気味な相槌」はほとんど見受けられなかった。インタビュアーとしては勇気がいる方法だが、結果、内容的にとても聴きやすいものに仕上がっていた。

山下達郎のコメントを番組側で編集している様子がほとんど感じられなかった部分も、今回のオンエアが成功した理由に挙げられる。

動画であればちょっとした沈黙や間合いが生じても、表情や仕草で画が持つ。しかし音声だけだと画で持たせることができないので、間が空けばついつい編集でカットしたくなるはず。特に現在は、YouTubeチャンネルなどの編集方法の影響もあってか、トークの間をカットして詰める傾向にある。番組側はそういったことに流されず、山下達郎の空気感やその場のムードを尊重してそのままオンエアした。だからこそ、レジェンドをインタビューすることの緊張感が生々しく漂ってきた。これが今回のおもしろさに結びついた。その点は高く評価されるべきではないだろうか。

「その場のムードをそのまま音声で流す」という利点がもっともあらわれたのが、山下達郎の口調である。レギュラーのラジオ番組のなかで、自分のペースで喋っているときとは様子がずいぶんと違った。インタビュアーと向き合ったときの山下達郎のテンションがどんなものなのか、今回の放送で分かったのだ。音楽制作の話に熱が帯び、口調もスピーディーになり、息つく間もなくまくし立てるところもあった。編集で間を詰める必要が一切ないほどの話の速度だった。

話の密度の高さに、インタビュアーが休憩を提案

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山下達郎のインタビューは90分に及んだという。番組では6月19日放送回を前編とし、翌週に後編をオンエアする。

前編のラストで、インタビュアーは「ぶっ通しでお話を聞いてきたんですが、一旦、ブレイクします?」と休憩を提案。山下達郎は「別にいいですよ、大丈夫です」とそれを受け入れる。山下達郎を気遣ったように見えたが、あきらかにインタビュアーの方が話の密度の高さに疲れた様子だった。そしてワンテンポを置いて、山下達郎は「みんなマジメに考えてんだなって。そんなにマジメに考えなくていいの。たかが音楽なんだから」と笑う一幕も。

こういったやりとりも、動画であればオフショットにあたるので映像を切ってしまう可能性がある。あくまで推測だが、音声でのオンエアだからこそ流せたようにも思える。

テレビ番組としてはあまり観たことがないインタビューの構成。それを成立させることができたのは、同番組がこれまで音楽と真摯に向き合ってきたからである。そこで培われた企画力やアイデアの賜物だ。

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