山元に希望のイチゴが実るまで 2人の男性の挑戦を絵本に

 宮城県山元町の特産で、イチゴの再生の軌跡をまとめた絵本が完成した。高知市在住の絵本作家永井みさえさん(31)が、震災後に設立された農業生産法人GRAに取材を重ねた。古里復興を目指し、未経験だった農業の世界に飛び込んだGRAの男性2人を、奮闘するウサギの姿に重ねた。永井さんは「震災や復興を次の世代へ長く伝え継ぎたい」と願う。

高知の絵本作家が寄贈

 絵本「あまずっぱいいちご」(ゆめのかたち合同会社)は2021年11月に発行。ウサギ「ミーくん」「ガッくん」を主人公に、大雨災害で泥だらけになった村で周囲に「育つわけない」と笑われながらもイチゴ栽培に奮闘するストーリーに仕立てた。

 GRAは東京でIT企業を経営していた同町出身の岩佐大輝代表(44)が、震災まで町内に住んでいた橋元洋平副社長(44)らと12年1月に設立した。津波で9割以上の栽培農家が被災したイチゴの復興を目指し、ICT(情報通信技術)を活用した最先端の栽培ハウスで完熟の果実を生産する。

 10年を経た現在は「ミガキイチゴ」のブランド名で知名度が上がり、全国に販路を拡大。グループ企業を含めた年間生産量は320トンに上り、社員やパート約100人を擁する規模に成長した。

 永井さんは、テレビの経済番組などで2人を知った。「あらゆる困難に負けず復興に打ち込む姿が『現代のヒーロー』に見えた」と振り返る。昨年2月から2人を取材し、仲間の協力を得てクラウドファンディングで製作費約130万円を集めた。

 「2人が相棒として信頼し合い、諦めず楽しそうに取り組み、多くの仲間が共感し集まっていることが分かった。諦めなければ思いはかなうことを子どもたちに伝えたい」と永井さん。絵本を今月15日、町内の小学校や児童施設、公共機関などに33冊寄贈した。

 岩佐さんは「自分の思いを子どもに伝えるパワーがある本になった」と喜び「生きてさえいれば必ず未来は開けてくる」との後書きを寄せた。震災で長女=当時(5)=を亡くした橋元さんは「絵本で頑張る姿を見てくれていると思う」と語る。

 16日深夜に最大震度6強を観測した地震では栽培施設などが損傷。絵本に込めた思いのように、再び諦めず困難に立ち向かう。

 絵本はB5変型判、24ページで1650円。全国の書店やオンラインショップなどで販売している。

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