山形県は、昨年本格デビューした初の県産サーモン「ニジサクラ」の生産と消費の拡大に本腰を入れる。程よい脂の乗りを楽しめるが、成長に時間がかかるため養殖コストが課題。期待の「ご当地サーモン」が逆流を乗り切れるよう、知名度向上を目指す。(山形総局・原口靖志)
[ニジサクラ]山形県内水面水産研究所(米沢市)が2013年、県魚のサクラマスと山形県東根市が養殖の発祥とされるニジマスを交配させて誕生。出荷まで3年かけて1キロサイズまで育てる。全て雌で卵を持たない分、栄養が魚体に回って程よい脂の乗りを楽しめる。
同県西川町大井沢の山あいにある養魚場。2021年から養殖業を手がける青山建設(山形県寒河江市)が整備した約100平方メートルの養殖池3カ所に計約500匹のニジサクラが泳ぐ。
豊富な伏流水で1・5キロ前後まで育て、同社グループのホテルや料亭で提供。地元の卸売業者には1キロ当たり約3000円と比較的高値で出荷する。
飯野富弘常務は「大きな病気も出ておらず、順調に育っている。ただ時間とコストはかかり、現在の3倍の注文は欲しい」と語る。
県によると、県内に二十数社ある養殖業者のうち、ニジサクラを手がけるのは9社。出荷まで3年かけて育てるため、養殖池は一定の広さが必要になる。
昨年度の出荷量は2760匹で県の計画(5000匹)の半分ほどで、本年度の見込みも現段階で3390匹に低迷。1年で出荷でき、育て慣れているニジマスなどからの切り替えが進んでいない。
流通量が限られているため、取扱店に登録した飲食店などは26店と伸び悩む。購入業者に上限1万円を助成する事業も昨年度の応募は10件だけだった。
足踏みを象徴するような出来事もあった。幼魚を生産する県水産振興協会(同県鶴岡市)が、約1000匹を放流したことが4月に発覚した。複数の養殖業者から購入をキャンセルされたのが理由だった。
県は本年度、養殖業者や飲食店に生産と利用の拡大働きかけ、消費者向けには加工品や食事券が当たるキャンペーンなどを展開する。県農林水産部の高橋和博次長は「県内でも名前を知らない人は多い。生産、流通、販売を総合的に検討してブランド化を進めたい」と話す。