日本ボクシング連盟のドン、山根明会長(78)が辞任を表明した。
8日の正午過ぎ、約100人の報道陣の前で「おはようございます。私は12時を過ぎても、おはようございますでございます。私は本日をもって、辞任をいたします」と切り出したドンは、濃紺のスーツにシルバーのネクタイ姿。上着の両襟には、日の丸のピンバッジをつけていた。
トレードマークとなった色つき眼鏡の奥から正面を見据え、「私に対して応援してくれた、33の都道府県(連盟)の皆さまには感謝申し上げます。同時に、選手の皆さまにはこのような問題があったことに関して、法人の会長として申し訳ない。どうか選手の皆さん、東京五輪に参加できなくても、次の五輪もあります。頑張って下さい。本日は本当に申し訳ありません」と謝罪したものの、記者からの質問は受け付けず、わずか3分間で声明発表を終了。深々と頭を下げて、立ち去った。
不正判定強要問題など12項目に及ぶ疑惑を告発された山根会長は、「すべてウソや!」と助成金流用を除くすべてを否定。「なんで辞任をせないかんのや」と会長職続投に強い意欲を示していたが、その最中に反社会的勢力との“黒い交際”が発覚。前日までに、山根派で占められていた日本連盟の理事全30人のうち、反旗を翻した約20人に辞任を迫られるなど、追い詰められていた。
だが、日本連盟と山根会長を告発した都道府県連盟幹部ら333人で構成される「日本ボクシングを再興する会」(鶴木良夫会長=新潟県ボクシング連盟理事長)は、これで騒動の終結とは考えていない。山根会長の辞任表明から2時間半後、都内で会見を開いた再興する会は、「辞任の中身がはっきりしない。会長を辞めても、理事にはとどまるのか、会員としては残って影響力を発揮するのか。辞任の位置づけがハッキリしない以上、お答えのしようがない」(鶴木会長)とむしろ警戒を強めている。再興する会の関係者がこう言った。
「連盟の理事になって27年、会長になって7年、定款にない『終身会長』の座に納まって築き上げた独裁体制は、相当に根深いものがある。連盟に籍を残すなら、院政を敷く可能性も捨て切れない。だから、あくまで除名を求めている。いずれにしても、あの会長がこのままおとなしく引き下がるとは思えない。国際ボクシング協会(AIBA)に残す影響力も無視はできません」
■「我々が黙っちゃいない」
“世界の山根”“カリスマ山根”を自称した山根会長は、94年から02年までの8年間、AIBAの常任理事を務めた。本人が「世界に顔が利く。世界で山根明の名前を知らない人間はいない」とうそぶいていたのもあながち大げさではない。今もAIBA幹部との強力なパイプを持ち、今年2月に国際オリンピック委員会のバッハ会長が20年東京五輪の実施競技からボクシングを除外する可能性を示唆すると、「我々が黙っちゃいない」「AIBAとはやりとりができる」と豪語していた。山根会長の抗議で、国際大会での判定が日本有利にひっくり返ったケースがあったのは、ボクシング関係者の間では有名だ。
仮に日本連盟が体制を一新したとしても、山根会長が長きにわたって積み上げてきた力と影響力を使って、反撃に打って出る可能性がある、と懸念するのである。
現に再興の会が、「辞任の中身がハッキリしない。理事や会員としては残るのか」とする疑念に関しても、同じ日に会見した日本連盟の吉森照夫専務理事は、「理事を含めての辞任というのを私は確信している」という言い方をするにとどまった。連盟の副会長を兼ねる吉森専務理事ですら、山根会長が辞任する職務の範囲を正確に理解しておらず、関西ボクシング連盟の理事長の肩書についても、「理事長、関西連盟の会員資格を辞めるとは聞いていない。それは関西連盟が考えることですから、日本連盟にその権限はない」と曖昧にした。生き返る余地があるということだ。
山根会長は辞任表明前の一部テレビ局の取材に「告発者側と戦う? やります、やります。わたしも人間ですから、法律にのっとってやります」と法的手段で対抗する構えを見せるなど、ファイティングポーズを取っている。
しかも午後5時半に自宅へ戻った際は、報道陣に向けて2本指を立てる謎のピースサイン。翌9日の毎日新聞は、このピースサインが「会長と理事の2つを辞めるということ」と山根氏が語り、会長と理事を辞め連盟も退会する意向を明らかにしたと報じたが、山根氏がこのままおとなしく引き下がるつもりがないことだけは間違いない。