過去の暴力団関係者との交際や不正疑惑が問題視されている日本ボクシング連盟・山根明会長(78)が8日、辞任を表明した。 「声明発表」として大阪市内に報道陣を集めたが、質問は一切受け付けず、自ら語っただけで約3分ほどで打ち切った。最後には「選手のみなさん、将来、東京五輪に参加できなくても、その次の五輪もあります。頑張ってください」と発言。この発言には東京五輪出場を見すえてアマ選手登録を目指す元プロ4団体世界ミニマム級王者・高山勝成(35)=名古屋産大=が怒りをぶちまけた。
午後0時半すぎ、スーツにネクタイ姿の山根氏は弁護士同席で登壇すると、立ったまま「私は本日をもって、辞任をいたします」と神妙な面持ちで発表した。前日(7日)に大阪市内で開かれた臨時理事会で「会長一任」とされた自身の進退。一晩考えて辞任を決断した裏には、夫人からの「私はどういうことがあっても、会長を死ぬまで面倒をみていくから今は楽になってください」との言葉があったと説明。約2分40秒の声明の最後に選手へ向け「東京五輪に参加できなくても、その次の五輪もあります。頑張ってください」と言い放った。
4年に1度、しかも自国開催の東京五輪出場を目指して日々鍛錬に励む選手たちには、あまりにも無神経な発言だ。現在、国際オリンピック委員会(IOC)が国際ボクシング協会(AIBA)のガバナンス(組織統治)などを問題視し、ボクシングは東京五輪からの除外の可能性も含めて継続審議事項となっている。さらに、今回の問題についての第三者委員会の調査結果次第では、日本オリンピック委員会(JOC)が五輪に派遣する加盟団体としての資格について議論する可能性もある。会長を辞めてしまえば、そうした現状も関係ない、とばかりに責任を放棄したともとれる言葉だった。
この発言に黙っていられなかったのが、東京五輪出場を目指すために昨春プロを引退した高山だ。SNSで「アスリートは何より今が大事なので、何を言っているんだと感じています。選手のことを本当に考えているのであれば山根会長は除名して頂きたい」と怒りをぶちまけた。リオ五輪からプロの出場が解禁となったにもかかわらず、一向にアマ選手登録を認めない日本連盟を相手どり、日本スポーツ仲裁機構へ仲裁を申し立てた元世界王者。山根氏の最後の言葉はとても看過できなかった。
表明を終え、会場を去ろうとする背中に「非を認めるのか」と声が飛んだが、山根氏は精いっぱいの意地を示すように「認めない」と短く答えた。夕方に帰宅。約50人の報道陣からの「理事も辞任するのか」の問いかけに、謎のピースサインを見せた。“会長も理事も両方辞任する”の意味なのか。報道陣に応えようとしたその瞬間、夫人とみられる女性に「話したらアカン」と口をふさがれた。不正疑惑の真相など、その口から全てが語られる日は来るのか。(田村 龍一)
◆東京五輪のボクシング競技実施をめぐる動き IOCのバッハ会長が2月の理事会後、統括団体AIBAの組織統治や判定問題が指摘されるボクシングを、東京五輪の実施競技から除外する可能性を示唆。AIBAはリオ五輪の相次ぐ不可解判定で八百長や買収疑惑が浮上し、幹部が米財務省から「ヘロイン売買に関わる重要人物」と指摘された。7月のIOC理事会でも継続審議とされている。