岩手でタイが記録的豊漁 高級魚のはずが…なじみ薄く価格低迷

西日本が主な漁場となるタイ類が岩手県沿岸部で記録的な豊漁となっている。以前は親潮の勢力が強かった同県沿岸に黒潮が入って海水温が高くなり、生息に適した海域になった。全国的には高級魚の代名詞とも言える魚だが、岩手ではなじみが薄く高値が付かない。サケなど主力魚種の不漁が続く三陸漁業の「救世主」となれるかは未知数だ。

安定供給できる養殖に需要

 岩手県山田町の船越漁港で6月28日早朝、近海の定置網に入った体長40センチ前後のマダイが水揚げされ、市場関係者が品定めした。買い付けた同町の飲食店の男性料理長は「値段は安いけど、大きさも味も申し分ない。刺し身やすしで提供して評判がいい」と話した。

 4~5月に船越漁港に水揚げされた定置網漁のタイ類は約30トンで、昨年同期の約10倍だ。マダイより小さく安価なチダイは買い手が付かない日さえあり、廃棄することもあったという。船越湾漁協の湊謙組合長(80)は「漁師を50年以上しているが、今季の水揚げが一番多い」と誇る。

 岩手県水産技術センター(釜石市)によると、本年度に同県沿岸部の定置網漁で取られたマダイは6月18日時点(速報値)で約120トン。既に昨年度分の2倍近くに達している。

 タイ類は暖水を好み、瀬戸内海や九州、山陰の近海で多く水揚げされてきた。以前は黒潮が房総半島沖から東に進んで東北から遠ざかったが、近年は北上して岩手県沿岸に入り、生息域が広がったとみられる。

 タイ類の中でもマダイは姿や味の良さから「魚の王様」と称される。漁法や鮮度保持の技術が発達し、最高の評価を受ける兵庫県明石産は1キロ1万円以上の値が付く超高級魚だ。一方、岩手では安定的に供給される養殖物が好まれ、地物の天然マダイの需要は高くない。今季の1キロ当たりの価格は320円で昨季の半値に近く、豊漁でさらに値崩れしている。

 同じマダイでも明石産とは比較にならないほど安い岩手産マダイ。不振の三陸漁業を支える存在になるには、鮮度保持などで市場価値を高める必要がある。

 県水産技術センターの小川元・漁業資源部長(55)は「豊漁が一時的な可能性もあり、流通や加工をすぐにマダイに適応させた形態にすることは難しい。今後も水揚げが続けばPRして認知度を高め、消費拡大につなげたい」と語る。

タイトルとURLをコピーしました