「国内最大級の不法占拠地帯だ。町ごとという規模では、ほかに例がないだろう」。
過去に池上町地区を担当していた川崎市幹部は同地区をこう表現する。同幹部は「民有地での事例。不法占拠には関与しづらい」と前置きした上で「住民が安心して過ごせる環境は作らなければならない」と行政の責務を強調した。
「不法占拠」の長期化に伴い、現地で進行している事態は、周囲が看過できないレベルに達している。治安や防災面での不安だ。
◆違法建築物が乱立
現地は建築基準法を満たさない違法建築物が乱立し、区画整備も行政による道路管理もされていない。防火水槽がない区域もある。細道が複雑に入り組み、消防車が入り込めない。市側は「住宅が密集し、一度(ひとたび)大きな火災が発生すれば大惨事は免れない」と危機感を強めている。
モラルや秩序が保たれていない面もある。近年は空き家や廃屋が目立ちはじめ、住民からは「空き家のはずが、夜になると明かりがつく」などの不安の声も聞かれる。
空き家が壊されると真っ先に誰かが物品を置いて敷地を確保するという、現地ならではの事象も発生する。市側はJFEスチールに対し、空き地はすぐに柵などで囲うよう助言してきたという。
新たな住民の流入や多様化も課題だ。「生活保護受給率が高く、貧困ビジネスをする人もいる。居住実態が把握しづらく、犯罪や不法滞在の温床にもなりかねない」(市関係者)といい、市側はこれ以上の混迷は防ぎたい考えだ。
◆問われる本気度
「不法占拠を許し、固定資産税も支払っているとなれば、企業は株主に説明を求められる。事を大きくしたくないのもやむを得ない」(市関係者)。市側はJFEスチール側の立場に一定の理解も示した上で、この問題に積極関与していく姿勢を示す。
同地区を管轄する川崎区役所が当時の支所長を筆頭に防災・防犯の観点で対策に乗り出したのが平成26年。連絡会を結成し、28年には警察、消防、住民、地権者の各代表による第1回の協議会を開催。今年3月にも実施し、年に1度程度の定期開催を決めている。
JFEスチールの対策強化は、そうした取り組みのなかで、行政や周辺住民の“思い”を受けたものとみられる。ただ、現在は「居住者の多様化や高齢化により、住民側が意見を集約しにくくなってきている」(市関係者)。JFEスチール側が解決にどこまで迫れるかは未知数だ。
戦後70年を経て、問題の長期化が、さまざまな弊害を生んでいる池上町。解決に向けたJFEスチールの本気度が問われている。