巧妙化する「カルト宗教」の勧誘手法 SDGs、就活、ボランティア…富裕層女性は「心」で落とす

安倍元首相の銃撃死亡事件で、山上徹也容疑者(41)の母親が入信している「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に注目が集まっている。信者の家庭を崩壊させるほど献金をさせる実態が取り沙汰されているが、そもそもこうした「カルト」とも呼ばれる宗教団体は今、いかにして一般人を勧誘しているのか。専門家に取材した。

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「このイベント、怪しくないでしょうか」

 旧統一教会や、2006年に教祖による女性信者への性的暴行疑惑などが社会問題化した「摂理」(キリスト教福音宣教会)などの宗教団体と対峙してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会の渡辺博弁護士のもとに、最近、ある大学の関係者から情報が寄せられた。

 イベントのテーマは「SDGs(持続可能な開発目標)」。テーマ自体は気候変動や環境保全と絡む大事な問題だが、大学側が怪しいと直感したのは、主催者の名称がイベント名を冠した「~実行委員会」とだけ書かれていた点だ。実在の団体名などは記されておらず、実行委員会のことを調べても、主催者の実態や事務所などの拠点があるのかがはっきりしなかった。

 渡辺弁護士が調べた結果、旧統一教会が絡んだイベントだと分かった。

 近年、旧統一教会や摂理が、こうしたSDGsに関する講演などのイベントを、正体を隠して開催するケースが目立っているという。

 スポーツ活動やゴスペルサークルなどに偽装した勧誘は昔から続く手口だが、時代の流れに合わせ「表の顔」を変えているようだ。

 渡辺弁護士が解説する。

「全国の大学がこうしたカルト宗教によるSDGs関連のイベントに頭を悩ませています。主催者について、『~実行委員会』などと正体を隠していること。また、信者の大学生が、その分野が専門の教授に『ぜひ先生のお話を』などと取り入って実際に登壇してもらうため、おかしなイベントだとは分からない。その先生は何も知らずに登壇してしまうので、むしろちゃんとした講演会だというお墨付きを与えてしまうのです。参加者の名簿をもとに勧誘につなげるのだと思います」

 渡辺弁護士によると、大学生などの若者には、SNSを通じて接触してくるケースも多いという。

 ツイッターで「#春から〇〇大」など新入生だとわかるハッシュタグや、就活を控えた学生に、学生生活や就活のアドバイスと称して、現役学生や卒業生の信者が近づいてくるという。

 摂理は、主に大学生らの若者を勧誘のターゲットにしている。SDGs以外にも、環境問題やボランティアなどに関心のある「意識の高い学生」を狙い、有名企業で活躍する信者らが登場するイベントに誘ったりする。その道に興味がある学生にとって、勧誘の入り口を魅力的に仕上げているのだ。そうした徹底的な正体隠しによって、警戒心を抱かせずに関係をつくった後、「聖書を学ぼう」などと徐々に宗教色を出し始め取り込んでいく。

 一方で、統一教会のメーンターゲットは中高年の裕福な女性である。

 特に狙われやすいのが、山上容疑者の母親のように、配偶者と死別するなどし、深い悲しみや孤独を抱えている人だという。

 2人1組で家を訪問し、「手相を見る」などと話しかけるのが常套の手口。普通はここで断りそうなものだが、悲しみの底にいる人は誰かに話を聞いてほしかったり孤独を抱えたりしているため、会話に応じてしまうのだという。

「彼らは本当によく話を聞きます。長い時間をかけて、その人が抱えているつらさや思いにじっくり耳を傾けます。苦しい時に話を聞いてくれるので、信頼が生まれてしまうのです」(渡辺弁護士)

 次のステップは、集会への勧誘だ。名目は「供養を学ぶ会」であったり、「大病を克服して生きている人の話を聞く会」だったりするのだが、2人1組の信者には役割分担がある。一人が熱心に誘う役目で、もう一人は「私も誘われて参加してみたら、とても勉強になったんですよ」などと相づちを打ち、不安を取り除くのだ。

「人間関係が出来上がった後になって『因縁や祟り』などの話を持ち出します。『先祖が地獄で苦しんでいますから、今できることを精いっぱいやりましょう』などと、一気に数千万円の献金をさせる。世界平和統一家庭連合の名前を出し正体を明かす前に、献金させてしまうこともあります」(渡辺弁護士)

 渡辺弁護士によると、過去には、若くして税理士の夫を亡くし、悲しみにくれていた40代の女性が、こうした手口で取り込まれた。

 子どもの将来のために使うはずだった夫の生命保険金を全額献金し、実家の両親にも高額の壺を買わせた。教団からはさらに高麗ニンジンを使った商品の販売ノルマを課せられており、両親に数百万円で買い取るよう要求したところ、拒否された。

 ノルマが苦になったのか、女性はその後、実家近くの川で自殺したという。

 大学などで若者をターゲットにする際は、一人でいる人を狙うケースが圧倒的に多いと渡辺弁護士は言う。

 全国の多くの大学が「カルト宗教による勧誘が続いている」としてホームページ(HP)や入学時のオリエンテーションなどで学生たちに注意を促している。大阪大学は「ボランティアやスポーツサークルを隠れみのにしたカルト団体に要注意」として、勧誘のパターンを動画にまとめて公開した。青山学院大は旧統一教会と摂理を「危険な宗教団体」と名指しして、HPで勧誘活動への注意を呼び掛けている。スポーツ活動やコンサート、ボランティアなど声かけの手口はさまざまだが、首都圏のある私大の担当者は「ラウンジや共有スペースに一人でいるときに声を掛けられることが多い」と説明する。

 学内や学校の近くで一人でいるときに話しかけられたら、一度注意をした方がいい。イベントが魅力的でもまずは主催者を確認し、何者かが分からなければ学生課に相談するのも手だ。

「入信してからの対応は難しいので、声をかけられた時点ですぐに相談にきてほしい」(前出の担当者)

 こうした宗教団体は勧誘していることを誰かに話されるのを嫌がるため、渡辺弁護士もすぐ誰かに話すことを推奨する。

「勧誘された時、『友達に相談しますね』などと言ってみること。また、友人でも親でもいいので、誰かと会ったり、誘われたことを話すことが大切です。自分はいい人だと思っていても、第三者は冷静ですから、何かおかしいと気づいてくれることがよくあります」

 渡辺弁護士らは、旧統一教会の反社会的行為は明らかだとして安倍元首相を含め多くの政治家たちに、旧統一教会と関係を持たないよう要請する文書を送り続けてきた。ただ、「選挙の手伝いなど、政治家が助けてほしいと思っている場面に巧妙に登場するのが旧統一教会」(渡辺弁護士)といい、ずるずると関係が続いている現状がある。ただ、政治家とのつながりを示すことで教団の活動を正当化し、さらには捜査当局の忖度までも生んでいるというのが団体と対峙してきた専門家らの見解だ。

 渡辺弁護士がかつて会った統一教会の信者は、「狙った人は全員落とす自信がある。ただ、落とすまでに手間がかかる人は避け、手間のかからない人を狙う」と話したという。

 政治には頼れず、捜査当局も動かないなら自分で身を守るしかない。どんなに魅力的な誘いに映ったとしても、信じる前に何か一つでも行動する。そして、相手に「面倒くさそうだ」と感じさせることが必要なのかもしれない。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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