市債引受拒否」された宮城・仙台市の言い訳

「絶対安心」といわれる公債から、地元指定金融機関が手を引いた。自治体破綻さえ噂される中、仙台市は「問題ない」と釈明するが…
 今年春、宮城県仙台市と、東北最大の地方銀行・七十七銀行の、市債を巡る『異常事態』が発覚した。「仙台市〇九年度発行『引受債』七十七ゼロ」(「河北新報」二〇一〇年四月二十二日)の見出しで地元紙が報じ、次いで「『交通』除き引受債ゼロ 金利折り合い付かず」(同四月二十三日)と、引受債の内訳が明らかになったのだ(左頁表参照)。
 七十七銀行は、仙台市の指定金融機関。「絶対安全」であるはずの公債を、指定金融機関である地元地銀が引き受けなかったことは、倒産した夕張市でもなかった。
 指定金融機関は、自治体関連の出納手数料を取り扱えるので、独占して安定的に収益が上がる地位にあり、自治体の看板を後ろ盾に、地域の顔となる。その代価として指定金融機関は、公債や自治体向け融資ファンドの面倒を見てきた。つまり、自治体にとっての「メインバンク」である。
 公債の金利は、どの自治体が発行しても大差はない。今回の市債引受拒否の理由が、「金融商品の金利の折り合いが付かなかった」ということであれば、仙台市の財政が破綻の恐れがあって、ジャンク債扱いと見なされたか、引き受け側である七十七銀行に、通常金利の公債を買い取る余力がなかったかの、どちらかだ。引受債は漸減傾向にあったとはいえ、突然のゼロである。自治体倒産か金融破綻を懸念されても仕方ない。
■■■不安な財政事情
 まず、七十七銀行であるが、その経営状況は悪くない。一般に地銀の地元企業に対するメインバンクとしてのシェアは、高くても四〇%台だが、七十七銀行は五〇%を超える。ビジネスの幅が大きい上に、その内容は手堅い。S&P(スタンダード&プアーズ)の格付けは「B」(債務履行能力あり)。その他の同様の指標を見ても、「安定的」の評価は、国内の銀行としては上位だ。メイン取引先の老舗企業のいくつかが経営不振にあるものの、「銀行の経営が逼迫して、市債引受を拒んだとは考えられない」(業界関係者)のである。
 他方、仙台市の財政状況は、政令指定都市としては「普通」だ。累積債務は二〇一〇年度末で、七千四百七十二億円となる見込み。仙台市の一世帯当たり市債残高は、百五十六万円(〇八年)で、各政令指定都市の一世帯当たり市債残高平均百四十八万円をやや上回っているが、一世帯当たりの負債額の順位にせよ、金額にせよ、政令指定都市の中では標準的である。
 ただし「(今後)収支不足は一層拡大する」と仙台市は公言するうえ、財政悪化に拍車をかける懸念材料がある。現在、着工中の地下鉄東西線だ。
 鉄道の新線が開業すれば、その周辺に商業施設や住宅が増えるとの、小林一三氏(阪急阪神東宝グループ創業者)以来の成功の方程式は、不景気で購買が伸びず、また少子高齢化で、住民の中心部回帰傾向にある現在においては、当てはまらない。
 それを実証してしまったのが、仙台空港アクセス線である。〇七年の開業で、仙台駅と仙台空港を二十五分で結び、国内では屈指の利便性を実現した。従来の空港アクセスバスを駆逐し、空港周辺の駐車場を閑散とさせるほど、空港利用客を奪い取ったものの、乗降客数は目論見ほど伸びず、沿線駅に開業したイオンモールからは早々に「三越ダイヤモンドシティ」が撤退し、観光物産館である「伊達の市」は閉鎖、分譲住宅地は、空き地ばかりが目立つあり様である。同様の目論みで開発される、東西線の先行きが心配されるところである。
 中心部と南北の副都心を結んだ地下鉄南北線は開業して二十年以上経つが、利用客数は一九九五年をピークに減少しており、計画段階で想定した開業二十年後の利用者数の半分にも届かず、慢性的赤字が続いている。
 まして、沿線の人口密度が低い東西線の採算性を危ぶむ声は多い。とはいえ、すでに本格着工済みであり、「進めれば静岡空港、止めれば八ッ場ダム」の状態にある。
■■■変わらない「お役所体質」
 こうした中で、市債を七十七銀行が引き受けなかったことを、仙台市役所ではどのように考えているのだろうか。新聞報道直後の市役所内では、反応がないどころか、その報道を知らない職員もいた。知ったとしても、市は慢性的な赤字体質のため、いまさら「職場では全く話題にならなかった」(仙台市役所職員)。あるいは、「単に、担当者のそりが合わなかっただけ」と事態を軽く見る関係者もいた。
 もちろん、財務系の部署では重大視していたが、「指定金融機関としての務めを果たしていない」(事情を知る宮城県庁職員)と、七十七銀行への非難や反発が一般的で、「金融庁から、中小企業融資を強化しろという命令が出て、結果として仙台市への貸出を抑えたのでは」(仙台市役所職員)との声が漏れ聞こえるように、役所に「自己責任」意識はない。
 二〇〇九年度の銀行等引受債発行額は、約百一四億円(一般・特別会計)。編集部からの問い合わせに対して、仙台市財政局は「現行の借入条件で調達を行えたほか、銀行等引受債を含めた市債についても、所要額全額を調達できたこと等から、低利かつ安定した資金調達を行えたものと認識しており、市財政の運営において特段の影響はなかったものと認識している」と話す。
 また、総務省も「結局、従前の条件で引き受けてもらったと聞いている。また、仙台市の財政力指数は〇・八五で、これは他の自治体と比較して悪くない。財政状況について、特別問題があるとは考えていない」と同様のコメントをしている。
 現時点ではその通りであろう。地元最大手の七十七銀行は去ったものの、荘内銀行(鶴岡市)、仙台銀行(仙台市)等が、同じ条件で全額を引き受けたのだから、帳尻だけは合っている。大きな問題にならなかったため、マスコミの続報は、ほとんどない。
■■■市民不在の騒動
 仙台市は「知らしむべからず」と判断しているようで、これをよしとしている。だから、総務省は、指定金融機関が仙台市債を引き受けなかった事実を、把握していなかった。編集部からの取材で、監督官庁が「初めて知り」、事実確認を仙台市に対して行った。「地方自治」の建前からいえば、逐一、報告する義務がある訳ではない。とはいえ、おそらく前代未聞の事態である。総務省は、事を荒立てる立場にはないから、先の「安全保証」のコメントを出した。しかし、民間の投資家が、同様の善意で動いてくれるとは限らない。「初めて知った」が、市場で通用するだろうか。
 仙台市が市場の動きに疎いことは、〇八年にガス事業を民間に競争入札させた際に、市が相場とかけ離れた高額な希望売却額を提示したため、どの事業者も全く届かなかったことが示している。「入札者から失笑を買って破談となった」(売却事業関係者)のである。こうした「前科」を直近に持つ仙台市は、今回の「事件」について、自ら積極的に語ろうとはしない。
 市債を引き受けなかった七十七銀行は、取材に対して「(仙台市を含めた)地方公共団体取引にかかるスタンスが変わったためではない」と強調したうえで、今年度の市債引受については「例年、年度末が中心となっており、借入条件等の交渉も年度末に向けて進めている」「(引き受けるかどうかは)現段階では、わからない」と回答している。もはや、指定金融機関という「メインバンク」であっても、公債を際限なく担保する訳ではないと突き放す一方で、「条件次第」と交渉の余地を残した。
 今回の「騒動」で、公債といえど、金融商品の一つでしかないことが明らかになった。仙台市が、いましなければならないことは、市民不在で発生した「騒動」の顛末を、 率先して仙台市民に説明し、信頼を再構築することである。

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