希少資源獲得へ総力戦 日本の探査数、過去最高

 電気自動車(EV)の電池に使うリチウムなど希少資源をめぐり、今年度の日本の探査プロジェクトの件数が過去最高に達することが20日分かった。環境対応車(エコカー)の需要拡大を受けた希少資源の世界的な争奪戦の激化が背景にある。日本は、採掘権の獲得交渉で地上デジタル放送事業といった周辺開発を同時に提案するなどオールジャパン態勢で希少資源の獲得を目指す。(鈴木正行、那須慎一)
 日本の資源確保事業は、経済産業省が所管する独立行政法人、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がかじ取りを担う。
 JOGMECは平成20年度に希少資源に特化した自主探査プロジェクトに踏み切り、その年に13件の契約にこぎつけた。その後プロジェクトを強化し、継続案件を含めて昨年度は21件、今年度は4月からの3カ月弱ですでに19件の探査契約を結んでいる。現在交渉中の案件もあり、年度内に前年度実績を上回り過去最高になることが確実だ。
 リチウムの世界的な争奪戦は激化するばかりだ。複数の調査会社によると、EVの本格的な普及が見込まれる32年にはリチウムの世界需要が9万~22万トンとなり、このうちエコカー向けが約6割を占める。21年の約10万トンと比べると最大2倍になる計算だ。取引価格も高騰し、昨年末時点で1キロ当たり5ドルと、17年の約2・5倍になった。
 JOGMECは今年2月、世界最大級とされる南米ボリビアの標高約3700メートルにあるウユニ塩湖のリチウム鉱床をめぐり、同国の政府関係者ら約160人を招いて中心都市ラパスで経済開発セミナーを開いた。経産省の高橋千秋政務官は席上、リチウムの採掘権交渉にあわせて、地熱発電、日本式地上波デジタルの技術協力、獣毛産業開発などの支援を提案し、日本と組むメリットを強調した。
 ウユニの採掘権をめぐっては、フランス企業が20年10月にボリビアのモラレス大統領に接触、韓国鉱物資源公社も21年4月にボリビアの鉱業公社とリチウムの共同開発の覚書を締結した。中国も水面下の動きを活発化させており、獲得競争は過熱するばかりだ。
 商社も希少資源を狙って独自の対応を取り始めた。
 住友商事は4月、中央アジアのカザフスタンで、ウラン残土の回収や再利用について、同国の原子力公社と合弁工場の設立に調印した。残土からモーターの磁石の主原料となるネオジムやディスプロシウムなどを取り出すのが目的だ。
 ネオジムやディスプロシウムは産出量の9割を中国が占めており、中国への依存が避けられない。だが、中国が輸出規制の強化など政策をいつ変更するかわからないところが、各国にとって頭痛の種だ。カザフスタンでの残土活用事業は、鉱山開発よりもコストが割安なうえ、「中国以外からの調達を本格化させることで、チャイナリスクを分散できる」(住商の伊藤令無機・鉱産事業部長)との狙いもある。23年中に工場を本格稼働させ、日本への供給を開始する計画だ。
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【用語解説】希少資源
 地球上に存在量がまれであるか、技術的、経済的な理由で産出が困難な資源のこと。リチウムやチタン、ニッケルなどのレアメタル(希少金属)と、ネオジムやディスプロシウムなどのレアアース(希土類)がある。希少資源は産出国が偏っており、リチウムではチリ、アルゼンチン、ボリビア、中国の4カ国で全体の約85%を占める=グラフ。リチウムは電池の、ネオジムは磁石の主原料として不可欠で、これらの資源がないと電気自動車(EV)の生産ができない。

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