常識破りの低価格LEDで業界衝撃 アイリスオーヤマの開発哲学

一般的な白熱電球や蛍光灯に比べて大幅に消費電力を削減でき、しかも長寿命。まさに“次世代照明”として普及が進んでいるのがLED(発光ダイオード)照明だ。2011年3月の東日本大震災後の省エネ意識の高まりや、政府の業界に対する白熱電球の販売・製造自粛要請もあって、販売が急拡大している。家電に新規参入したアイリスオーヤマが2009年に投入した「エコハイルクス」は、当時約5000円もしたLED電球を1980円の低価格で販売。業界に衝撃を与え、一躍LED電球のトップグループに躍り出た。低価格化を実現した背景にはアイリスオーヤマが掲げる「消費者目線での商品開発」という企業哲学があった。
 「当時のLED電球は、節電できて長寿命とわかっていても高すぎて、実際に買い替えに動く消費者はまだ少なかった」。「エコハイルクス」の生みの親であるアイリスオーヤマの阿部裕之HE(ホームエレクトロニクス)事業部長は、販売前の市場環境をこう振り返る。
 エコハイルクスが開発された09年当時、アイリスオーヤマの主力である家庭用プラスチック製品の売り上げは踊り場に差し掛かっていた。そんな中、次の商材のテーマとして挙がっていたのが家電分野だった。家電は、日本の代表産業で技術や機能ありきの商品が主流になっている。技術、機能重視の開発は、裏返せば“過剰な付加価値”を生み出すケースもある。こうした場合、必然的に値段が高くなり、売れないというジレンマに陥りがちだ。
 「消費者が求める機能を備え、満足できる価格で提供するアイリスの商品であれば十分勝機はある」。消費者の求める価格と乖離(かいり)していたLED照明に目を付けた理由を阿部事業部長はこう語る。もともとクリスマスイルミネーション用に小型のLED照明を製造しており、ノウハウを蓄積していたことも参入の背中を押した。
 LED電球は白熱球に比べて電気代が5分の1で、しかも約40倍長持ちするとされる。しかし、アイリスは目標を高く据えた。「白熱球の買い替えコストを含め10年使えばもとが取れる価格ではダメだ。3年でもとがとれなければ消費者は振り向かない」(阿部事業部長)。最初に設定したLED電球の価格は2980円。同社が企画・品質管理を行い、中国メーカーに製造を委託したが、目標とする3年でのイニシャルコスト回収には至らなかった。
 「素材を見直し、できる限り内製化できないか」。さらなる低価格化への挑戦が始まった。ヒントは社内に落ちていた。アイリスの“お家芸”であるプラスチックだ。当時、LED照明は他社を含めアルミ製のボディーが使われていたが、プラスチックは成形が簡単でコストも低い。しかも自社工場で内製化できる強みもある。
 ネックになったのは放熱性だ。電球のボディーには、熱に強くかつたまった熱を逃しやすい特性が求められる。樹脂メーカーと何度も開発を重ね、LED電球に耐えられる特性とコストを両立したプラスチックを生み出すことに成功。さらにLEDチップを除くすべての部材を自社で内製化し、1980円という当時のLED電球としては“常識破り”の価格を実現した。
 このLED電球には大手家電量販店からの引き合いが急増。これまで主要な取引先だったホームセンター以外の販売チャンネルの獲得も果たした。この結果、同社によると11年のLED電球の国内シェアは20%を獲得。12年も競争が激化する中、15%を確保した。
 人の体温に反応して照明のオンオフを自動で行う人感センサーを内蔵したLED電球や、部屋の明るさに応じて照度を自動でコントロールする照明-。アイリスは切れ目なく新製品を投入し、市場での存在感を高めている。11年10月には、リビングや寝室を照らすシーリングライトを他社の3分の1を切る1万5000円で売り出した。エコハイルクスシリーズは、電球の販売から約3年でトータルで150アイテムに達した。
 こうした商品開発のスピードを支えるのが毎週月曜日に行われる「新商品開発会議」だ。8時間を超える“マラソン会議”になることも珍しくない。会議のテーマはもちろん「消費者目線の商品開発」だ。実際にホームセンターの売り場に立って消費者から意見を聞き、新商品を用意して会議に臨む社員もいるという。また、大山健太郎社長自らがその場で決済を行うため商品開発のスピードは驚くほど速く、同社が生み出す商品は年間1000アイテムを超える。アイリスでは昨年から電機メーカーを退職した技術者の採用を進めているが「移籍組は、最初はスピードについていくのがやっと」(同)と笑う。
 アイリスが次に仕掛けるLED照明は、消費者の生活シーンに合わせた“明るさ”の提案だ。同じ6畳用の明るさでも、20代が感じる明るさと40代、60代で感じる明るさは異なる。阿部事業部長は「年齢や生活スタイルに合わせた明かりを提供していきたい」と意気込む。また、食べ物がおいしく感じられる色調、文字がきれいに読める色調の照明も開発中だ。消費者目線のものづくりで、新規参入ながらLED照明市場で暴れ回るアイリスオーヤマ。成熟した国内市場でも工夫次第で食い込めることを証明した意義は小さくない。

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