年収1200万~3000万の家庭が自ら転げ落ちる「高収入貧乏の谷」

「現在、年収1200万円程度ありますが、貯蓄もあまりできないでいます。(中略)当方(41歳)、持ち家(マンション)、ローン(約1000万円)あり。貯蓄額約300万円。何か具体的な策をご教授頂ければ幸いです」(41歳会社員 男性)

今回の原稿はこれに対する答えも含まれています。

さて、ごく普通の人が見ている世界と、富裕層が見ている世界。この違いを考えていきましょう。

「家計の金融行動に関する世論調査2014」(金融広報中央委員会)に面白いデータが載っています。
http://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2014fut/pdf/yoronf14.pdf

調査によれば、金融資産を保有していない世帯は、30.4%です。約3軒に1軒の家庭には金融資産はまったく無いことになります。ただ、これは全部の世帯年収の平均なので無収入の家庭も含まれています。

それでは、年収1000万~1200万円未満の家庭はというと、10.8%の世帯が金融資産を保有していません。さらに年収1200万円以上の世帯では11.8%です。

つまり、年収があるからといって自然と貯金ができるわけではありません。

年収が1000万~1200万円未満の家庭よりも、年収が1200万円以上の家庭のほうが金融資産をまったく保有していない比率は多いわけですから。

この金融広報中央委員会の世論調査は1200万円以上の家庭をひとまとめにしていますが、ここから先は僕の運営している不動産投資の会員サイトである「通販大家さん」に登録している方の傾向を加味してお話しします。

「通販大家さん」の会員には年収1000万円以下の属性の方はほとんどいません。

高年収サラリーマンといわれる年収1500万~3000万円の方をボリュームゾーンとして、1棟ものマンションを販売する事業を展開しています。

会員数は3.5万人です。なので、年収1500万~3000万円の方の貯蓄の傾向については詳しいです。

よくあるパターンが、年収3000万円くらいの高給サラリーマンにもかかわらず、貯金が1000万円くらいしかないというケース(誰か特定の方を指しているのではなく、このパターンは多いです)。

仕事は、医者とか外資系のサラリーマンとか弁護士とかです。

年収3000万円だと所得税と住民税を合わせた実効税率は30%台です。毎年所得税・住民税を1億~2億円以上払っている僕からすれば、彼らの税との戦いはまだ本格化していません。なのに、なぜ貯金が1000万円程度しかないのでしょうか?

それは、彼らは彼らにふさわしい生活をせず、背伸びをしてしまっているということが一因です。

年収3000万円だというのに、あたかも年収億超えの富裕層のイメージで生活してしまっているから、いつまで経ってもお金が溜まらない。

■なぜ、年収1500万円なのに「億超」気取りか

今春のドラマで、女優の木村文乃さんが主演した『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』(TBS系)というのがありました。ごく簡単に要約すると、下 は年収250万円の裕福とは言えない主婦から、上は年収5億3000万円のセレブ家庭のママが、名門幼稚園に子どもを通わせながらお受験をがんばったり、 ママ同士の友情と葛藤があったり、というヒューマンドラマです。

ここで僕が話したいのは、ママの格付けはエルメスのバーキンのランクで決まるとか、車のランクによる、といった話ではなく、すべての階級を経験して きて、かつすべての階級の顧客と取引している僕の独断と偏見による、年収のイメージと実際のギャップです(編集部注:筆者の金森氏は、東大法学部を卒業 後、フリーターでありながら1億円を超える借金を負い、その後、事業に成功)。

●年収750万円 公務員の家庭

まず、年収750万円の公務員の家庭。これは、「通販大家さん」のお客さんでも、年収倍率でいうとすごく貯金がある世帯が多いです。年収750万円で貯蓄額4000万円ということは全然珍しくありません。

だいたいにおいて、公務員の方は生活が地味であったり、官舎にいてコストがかからなかったり、夫婦共に公務員だったりする人が多いです。

当たり前の話ですが、「入るを量りて出(い)ずるを為す」(収入の額を計算し、それに応じた支出を行うこと)ができていることが、家計を運営する大 前提です。年収の5倍以上の4000万円の貯金を持つ公務員の家庭は、このライフスタイルが定着しています。ただし、富裕層になる前提条件は備えているけ ど、これだけで十分とは言えません。

●年収1800万円 大手広告代理店勤務の家庭

次に、前出のドラマでも設定されていた年収1800万円、大手広告代理店勤務の家庭。タワーマンションに住んで、ご主人は会社の女性と不倫して……という話が出てきます。これは、実情に非常に近いです。

先ほどの「家計の金融行動に関する世論調査2014」でも、年収1200万円を超える世帯は、年収1000万~1200万円の家庭より貯蓄ゼロの世帯の比率が多かったですよね。

ここです! 年収1200万~年収3000万円くらいの場所には、ものすごく大きな落とし穴があります。僕はこれを「高収入貧乏の谷」と呼んでいます。

この谷を無事に越えていかないと、富裕層にはなれません。

ここの高収入ゾーンの人たちが谷に転げ落ちる理由は、ずばり見栄と競争心からくる顕示的消費です。

タワーマンション、車、靴、時計、クルーザー、ミシュランのレストラン、海外旅行、他人に対する見栄……で競うようにして顕示的消費を行います。

もちろんローンを組んで買おうとすれば買えますよ。でも、僕に言わせれば、高収入貧乏の谷の人々はレースでいうと「周回遅れ」なのです。

■なぜ富裕層は高級外国車を頻繁に乗り換えるか

たとえば、高級車ベントレーの新車を6年払いで買います。

本体、オプション、税金、自賠責保険を入れて約2700万円、これを6年払いですから月々37万円ほど払えば買えます。年収1200万円の人ではか なりきついかもしれませんが、年収3000万円(手取り2100万円)の人なら、月額175万円の手取りですから払えないことはないです。維持費も、まあ 払えない金額ではないです。ただし、この人はこれを6年間払ったあとで残るのは、やっとローンがなくなった6年落ちの中古車だけです。

富裕層は違います。ほとんど走行距離のないベントレーの中古車をわざと買います。

自動車の法定耐用年数は6年です。中古資産が法定耐用年数の一部を経過しているとき、

耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%(1年未満の端数切捨て。最短2年)

仮に4年落ちの場合、

6-4+4×0.2=2.8

約2年間で、数千万円分の経費を落とすことができます。

まあ、自動車ディーラーの保証がついている3年以内のものにするか4年落ちにするかはそれぞれに考えるところではありますが、簡単に言えば2年ごとに経費でベントレーを買い換えても問題ありません。

つまり、ベントレーを買う行為は同じですが、普通の人が見ている世界と、富裕層が見ている世界は違うということです。

世の中には汗水たらして働いたお金でやっとの思いで外国車を買う人たちと、節税のためにしょうがないから2年ごとに買い換える人たちがいます。

高級外国車を頻繁に乗り換えている人たちが、なぜそんなことが可能であるのか。そこに思いが至らなければ、富の扉は永遠にその人に閉ざされるでしょう。

同じことが、クルーザーや別荘でも言えます。富裕層にとって、これらは福利厚生費用であり、節税の一環なのです。だから、全然経済的負担にはならな い。年収3000万円程度で富裕層と見栄を張り合って競っているように見えても、それは「周回遅れ」だよという話なのです。傍目からは同じように「お金持 ち」に見えても次元が違うのです。

この「高収入貧乏の谷」を超えて、働かなくてもそれらのオモチャが節税で手に入るようになるまでは、「入るを量りて出ずるを為す」ことが大切です。

この年収3000万円くらいまでの「高収入貧乏の谷」を超えるためには、必要最低限の生活費以外の全可処分所得を運用に再投資しなければなりません。

長期間の時間をかけて富裕層になった人はこの谷を通り抜けて来ているため、生活は質素そのものになっていきます。先ほど年収750万円の公務員の家 庭は富裕層になる前提条件を備えているといったのはまさにこの点です。ただし、彼らは全可処分所得を貯蓄には振り向けていても、再投資はしていませんが。

それとは違って、IPO(新規公開株)などで一晩にして資産家になったような人はこの谷を通り抜けないでいきなり金融資産が増えてしまったため、生活は派手になります。

その意味で、時間をかけて富裕層になった人とそうでない人は、同じ富裕層でもライフスタイルにかなりの違いがあります。

(行政書士、不動産投資顧問 金森重樹=文)

タイトルとURLをコピーしました