「家事が苦手でいつも家が散らかっている」「感情のコントロールができずすぐカッとなってしまう」「人づきあいが苦手で集団に馴染めない」「子どもをどう愛していいかわからない」etc.…もしかしてあなたは、こんな悩みを抱えてはいないだろうか?
もし、心当たりがあるという人がいれば、特にお勧めしたいのが、『発達障害に気づかない母親たち』(PHP研究所)だ。というのも、冒頭に挙げた悩みを抱えてしまうその理由は、「発達障害」という病気のせいかもしれないからだ。
自閉症、学習障害、ADHD(注意欠如多動性障害)などの病気の総称である発達障害。子どもの抱える病気というイメージが強い発達障害だが、大人にも発達障害はある。
「発達障害を抱えている日本人の割合は、10人に一人とも言われている」
そんな衝撃的な事実を教えてくれるのは、不登校や発達障害などを専門にする精神科医で本書の著者、星野仁彦氏だ。
■ADHDの2タイプ「ジャイアン型」と「のび太型」
「発達障害を抱えたままでいると、とても生きづらい。しかし女性の発達障害の場合は、幼少期に見逃されやすいのです」と指摘する星野氏によれば、大人が抱える発達障害の中でもADHDには、大きく2つのタイプがあるという。著者はドラえもんのキャラになぞらえこう分類している。
1.ジャイアン型ADHD
男の子に特有の発達障害で、主な症状は、じっとしていられない、すぐキレて暴力をふるうなどの問題行動がみられるため、比較的早めに障害を持つことが発見される。
2.のび太型ADHD
女の子に多くみられる発達障害で、主な症状は、不注意でぼんやりしている、自分の世界に入り込みやすい、など。問題行動とは見られないことが多いため気づかれにくい。
女性が抱えるADHDはのびた型であるため、自身も周囲も「発達障害」を抱えているとは気づかないまま大人に成長してしまうというわけだ。本書には、著者が治療にかかわった13例のそれぞれに違った問題を抱える母親・女性たちが登場する。ここでは2例を紹介する。
(ケース1)母子ともにADHDの例
娘のひきこもりやリストカットに悩まされ、病院にいったところ「うつ」「不注意優勢型ADHD」と診断されたAさんは、子どもの頃からぼんやりしていて叱られてばかりいたため、娘も自分のようになってはいけないと厳しくあたってきた。娘さんにも同じ発達障害があることが判明し、親子で投薬治療を受け、娘さんはその後、就職して一人暮らしもできるようになっているという。
(ケース2)ADHDが原因で夫婦げんかに
子どもの頃から片付けや整理整頓が苦手だったBさんは、忘れっぽく家事ができないことで夫とけんかになることが多かったが、ADHDと診断され薬を服用するようになったことと、障害を自覚できたことで、心がラクになったそう。夫も理解してくれるようになったという。
■「女性に多い不注意型ADHDの特徴」でセルフチェック
では、自分が発達障害の可能性がないかどうか、セルフチェックしてみよう。本書には「女性に多い不注意型ADHDの特徴」として、以下の項目が挙げられている。
1.片づけ、整理整頓ができない
2.忘れ物や、物忘れが多い
3.うっかりミスが多い
4.人の話を聞けず、自分が言いたいことだけ一方的に話してしまう
5.仕事や雑務を計画的にできず、日課をこなすのが苦手
6.やるべきことを最後までやり遂げられずに、何もかも中途半端になってしまう
7.信号の見落としなどで交通事故を起こしやすい
ほかにも、発達障害の女性はストレス耐性が低く、思春期以降に、摂食障害、リストカット、性非行、アルコール依存、買い物依存など自分を傷つける方向へ走ってしまうという特徴がある。また、女性ホルモンの影響を受けやすいため、産後うつ、更年期障害も出やすいという。
さらに、自分のことで精いっぱいのため、イライラが爆発して「虐待」したり、気分が落ち込むと世話を放棄する「ネグレクト」になったりすることも。また自分に似た夫を選びやすい傾向があり、相手も感情のコントロールが苦手な場合が多く、DVの被害者になることもあるという。
■親子に発達障害が起こる、その連鎖を断ち切る
なんとも苦しいことばかり…。しかし発達障害があっても、愛情深く育てられた場合は、情緒が安定し「癒し系」女性になることもあるそうだ。また集中力やこだわりが強く、好きなことには天才的な力を発揮する場合もあるという。
もし発達障害かも、そう思い当たったら「できれば家族を伴って受診してほしい」と著者。うまくいかない原因が発達障害だとわかると心がラクになるという。また、適切な薬を使うことで、不安感がとれ、問題行動をコントロールできるようになるそう。薬の使用期間は大人でも数年間にとどまるということだ。医療機関にかかる費用は公的支援を利用することもできるそうだ。
子どもというのは母親の精神状態を受け止めてしまうものだそう。そのため親も子も発達障害ということが起こるという。その連鎖を断ち切るためにも、「母親が自身の障害に気づき、ラクに生きられるようになってほしい」と著者は強く呼びかけている。
文=泉 ゆりこ