広がるコロナ解雇 20代の希望退職、水面下の内定取り消しも

第3波襲来の声も聞かれるコロナ禍が庶民生活に重苦を与えている。厚労省は見込みを含む“コロナ解雇”が全国で7万人を超えたことを明らかにした(11月6日時点)。上場企業の早期・希望退職募集も増え続けている。さらに、新卒者には内定取り消しの動きが。日本中に「雇用崩壊」が広がっているが、その実情はどうなっているのか──。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。

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 長期化するコロナ禍の影響が街のいたるところで表面化している。

 若者の街・原宿の竹下通りを歩くとシャッターを下ろした店が何軒もある。落書きが書かれたシャッターには「10月31日現在で閉店しました。皆様のご愛顧に感謝いたします」との貼り紙。昨年閉店したクレープ店は、店舗が残されたままだ。

 多彩な飲食店が軒を連ねる吉祥寺(武蔵野市)も様相が一変。大手予約サイトの掲載店舗数が年初の約1680店から数百店も減ったと報じられている。完全なコロナ不況である。

 雇用現場では解雇の嵐が吹きまくっている。厚労省の「新型コロナウイルスに係る雇用調整」のまとめによると、「解雇等見込み労働者数」は7万242人に達した(11月6日現在)。いわゆる「コロナ解雇」である。最も多いのは製造業で1万2979人、次いで飲食業が1万445人(この数値は10月30日時点)。これに小売業、宿泊業が続く。

 都道府県別(10月30日時点)では、(1)東京都1万6918人(2)大阪府6154人(3)愛知県3805人 (4)神奈川県3149人(5)北海道2502人──の順。総人口が少ない沖縄県でも1383人となっている。これらは都道府県労働局・ハローワーク管内の事業所から寄せられた相談・報告等による集計であり、実際の解雇者はさらに多くなっている可能性がある。

エイベックスやセガサミーも希望退職募集

 消滅する企業が増えているのも気がかりだ。

 東京商工リサーチの「2020年1─8月 休廃業・解散企業動向調査」(速報値)によると、今年1─8月の倒産件数は5457件で昨年同期に比べて0.2%減と抑制されているが、同時期に休廃業・解散した企業は3万5816件で前年同期比23.9%増と、大幅に増えているのだ。

 倒産の場合には事業が継承されるケースがあるが、休廃業・解散は市場からの撤退・消滅である。同レポートは「大廃業時代」が現実味を帯びてきたと指摘。2020年の倒産件数は年間8000~1万件、休廃業・倒産を含めると、〈市場から撤退する企業は2018年の5万4959件を更新し、初めて6万件を超える事態も想定される〉と警告している。

 苦境に立たされているのは大企業も例外ではない。早期・希望退職を募集する企業が続出しているのだ。

 東京商工リサーチのまとめによると、11月5日現在で募集企業は74社となった。最多は日立金属の1030人(2021年3月期と2022年3月期)、次いでレオパレス21の1000人、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス900人、ファミリーマート800人(応募1025人)などとなっている。

 最近では、音楽関連の事業を手掛けるエイベックスが11月5日に、初の希望退職募集(100人)を発表して話題になった。

 11月6日には、セガサミーホールディングスもグループ7社で650人の希望退職者募集を発表した。7社のうちセガサミーHDは一般社員は35歳以上(部長を除く管理職は45歳以上)と、募集対象が低年齢化しているのが際立っている。

 東京商工リサーチによると、実施企業の半数以上は直近通期で赤字を計上、「赤字リストラ」が再び増加している。また、一刻も早い人件費削減を迫られる局面にある一部企業では対象年齢を30代や20代まで下げているというから、雇用最前線はかなり危機的な状況だ。早期・希望退職募集の総募集人数は約1万5000人となっている。

サイレント内定取り消しも横行

 雇用の危機にさらされているのは現役の社員ばかりではない。来春卒業する大学生の内定取り消しが相次いでいる。

 厚労省のまとめでは9月末現在の「内定取り消し」者は201人に上った卸売り、小売りが最多となっている。200人を超えるのは東日本大震災が直撃した2011年以来9年ぶりだ。201人のうち102人は新たな就職先を確保したという。

 卑劣な動きも報じられている。IT企業に内定した男性(22)のもとには、4月の緊急事態宣言直後に会社から「辞退をご希望される方はご連絡ください」というLINE通知が届いたという。入社辞退を促すかのような文面だ。“サイレント内定取り消し”と言われている。企業側が取り消さなければ、ハローワークへの通知義務がないため、統計から漏れる。つまり、水面下での内定取り消しが相当数あるかもしれないということだ。

 まさに日本国中が「雇用崩壊」寸前といった事態となっている。完全失業者数は210万人(9月の労働力調査)だが、統計にカウントされないその数倍の隠れ失業者がいるとの指摘もある。

 ネット上にも不安の声、悲痛な叫びがあふれかえっている。

〈一部の自動車以外は軒並み大赤字。希望退職は大恐慌の入り口に立っただけ。年明けから地獄の時代が始まる〉
〈正直な話、年末に派遣村ができる可能性が出てきた。GO TOよりも手厚い支援が必要〉
〈年末に向かって解雇、破産、自殺が増えると思います〉
〈先月で仕事がなくなりました。夏から仕事を探していますが採用に至りません〉
〈来月から品質管理の仕事に内定していたが、就業の返答をした翌日に会社都合による内定取り消しをされた〉
〈20年勤めた会社から解雇されました。会社は倒産、収入は失業保険だけ。若干の貯蓄を食いつぶしながら生きています〉

 休業などで窮地に追いやられた会社や人々にとっての命綱である雇用調整助成金(1日上限1万5000円)の特例措置は、9月30日から12月31日まで延長された。政府はその後の延長も明らかにしている。これまでの支給実績(11月8日時点)は182万7564件の申請に対し、支給決定件数は174万628件。コロナ禍の長期化・拡大傾向にどこまで対応しきれるだろうか。

ボーナス大幅減、住宅ローン危機も追い打ち

 サラリーマンにとっては、この冬のボーナス減が痛い。東証1部上場企業の全産業平均額は約74万円で前年同期比3.2%減。それでも70万円ももらえる人たちは恵まれている。JTBは冬ボーナスがゼロ。大丸松坂屋は前年比5割減である。ANAは冬ボーナスゼロ、基本給引き下げを労働組合に提案した。大幅減であっても、もらえるだけマシという状況だ。

 そこでささやかれているのが住宅ローン危機だ。12月のボーナス払いが払えず、滞納が始まり、やがては手放さざるを得なくなる状況に陥る。そんな悪夢が待ち構えているかもしれない。

 政府はGO TOトラベルの期間延長を検討するとか言っているが、特定の業界を対象にした救済策を行っている場合ではないはず。そもそも不況の引き金となった昨年秋の消費税増税を見直し、引き下げや廃止を求める声も多い。

「このままでは年を越せない」という庶民の悲痛な声に、政治はどう向き合うのか。自殺者は7月から4か月連続で前年比を上回っている。師走から年末にかけ、閉塞感、絶望感にうちひしがれる人々の増加が懸念される。

 来年度予算の見直しも含め、雇用と国民生活を守る政策を打ち出さないと日本は「雇用崩壊」が現実となり、出口が見えない衰退のトンネルに入ることになってしまう。

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