広告業界3位のADKトップ逮捕、「五輪熱」強くプロジェクトに直接関与

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件は19日、広告業界3位のトップが逮捕される事態へと発展した。大会組織委員会理事だった高橋治之容疑者(78)に対する贈賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された「ADKホールディングス」(東京)社長・植野伸一容疑者(68)は、五輪事業参入を熱望していた。「まさか逮捕されるとは」。社内に衝撃が広がった。

■協力店選定「高橋頼み」

■イベント自ら出席

 「賄賂を渡すようなことはしない人だと思っていた。とてもショックだ」。ADKのある社員は、「社長逮捕」の事態に困惑した様子で語った。

 ADK関係者によると、植野容疑者は2012年ロンドン大会で現地を訪問した頃から五輪への思いを周囲に語っていたという。13年3月に前身の「アサツーディ・ケイ」社長に就き、19年に持ち株会社体制に移行後も引き続き社長を務めたが、「五輪熱」は変わらず、東京大会でも関連イベントに出席。関係者は「数ある事業の中で、五輪は特に思い入れが強く、プロジェクトに直接関わっていた」と話す。

 13年7月から、ADKは高橋容疑者のコンサルタント会社「コモンズ」との契約に基づいて月額50万円の支払いを始めた。表向きは「スポーツ全般のコンサル」。だが特捜部は、22年1月頃までに支払った計5000万円超のうち約2700万円については、ADK側がスポンサー募集業務を担う「販売協力代理店」に選定されるために高橋容疑者へ渡した賄賂にあたると判断した。

 ADKは「多大なご迷惑とご心配をおかけし、深くおわび申し上げる」とコメントした。

■実績のため

 東京大会のスポンサー募集業務は、組織委からの委託で、大手広告会社「電通」が「マーケティング専任代理店」として担当。組織委、電通双方の承認が得られれば、別の広告会社も協力店として電通から再委託を受け、スポンサー募集業務を行うことができた。

 スポーツビジネスを手がける広告代理店の業界では、五輪事業への参入は「できるものならば、実績のためにも当然やりたい仕事」(大手広告会社社員)とされる。ADKも、東京大会でスポンサーの契約業務を手がけることを目指した。

 関係者によると、ADK内では植野容疑者の主導のもと、担当本部長だった多田俊明容疑者(60)(贈賄容疑で逮捕)が協力店として参画できるよう高橋容疑者に依頼したとみられるという。

■休眠状態

 高橋容疑者は今回、大会マスコットのぬいぐるみを販売した「サン・アロー」から約700万円を受領した疑いでも逮捕された。

 ADK、サン・アローの両ルートで賄賂の受け皿の一つとなったのは、高橋容疑者の知人が代表を務めるコンサル会社。登記上の住所に事務所がないなど休眠状態だったこの会社の口座に、サン・アローの約700万円全額と、ADKが18年12月に提供した約2000万円が振り込まれていたとされる。

 高橋容疑者は、出版大手「KADOKAWA」、大手広告会社「大広」の両ルートでは、電通時代の後輩の深見和政被告(73)(受託収賄罪で起訴)が代表だったコンサル会社を受け皿にして約9100万円の賄賂を受領したとされる。特捜部は、高橋容疑者が複数の会社を「隠れみの」に使い、資金の流れをより見えにくくしていた疑いがあるとみている。

■ぬいぐるみ販売でも癒着

 一連の事件では、大会マスコットのぬいぐるみの販売を巡っても組織委元理事と企業側が癒着していた実態が浮かび上がり、五輪・パラへのイメージは大きく損なわれる事態となった。

 サン・アローは大会マスコット「ミライトワ」「ソメイティ」のぬいぐるみを販売。前会長らが起訴されている紳士服大手「AOKIホールディングス」は五輪エンブレム入りのスーツなどの公式ライセンス商品を一般向けに販売し、KADOKAWAは公式ガイドブックなどを手がけた。贈賄側の5社から高橋容疑者に提供された賄賂は2億円近くに上る。

 日本オリンピック委員会(JOC)理事を務めた山口香・筑波大教授(スポーツウェルネス学)は「事件が五つのルートに拡大し、五輪事業で金もうけをしようと考えていた意図が鮮明になった。組織委などのコンプライアンス体制が甘すぎた」と指摘した。

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