店員が大声で談笑のフィリピンのセブンが急成長…客も店員もギスギスする日本のコンビニ

店員が実に優雅に、のんびりと商品を並べている。モップをかける店員は、大きな声で歌っている(結構うまい)。レジにいる店員2人は大爆笑しながら、はしゃいでいる。商品を持ってレジへ会計に行くと、「これが好きなのか?」「どうしてこんなにたくさんビールを買うのか?」など、質問攻めにあい、なかなか会計をしてくれない。そのうち、後ろで待つ客も会話に参加し、大いに盛り上がる――。

 そんなセブン-イレブンなど存在しないとみなさんは思われるだろう。しかし、ここフィリピンでは、決して珍しくない光景なのである。

 筆者はフィリピン赴任当初、店を訪れるたびに結構驚いていた。急いでいるときには「早く会計してほしい」と不満を抱いていたように思う。しかし、1年が過ぎようとしている現在、楽しそうな店員たちを見ていると、こちらも幸せな気分になってくる。元気づけられることさえ、たまにはある。

「そんなサービスで、フィリピンのセブンは大丈夫なのか?」との疑問を持たれるかもしれないが、極めて好調な業績となっている。2017年末の店舗数は2285店舗と、前年と比較して15%増となっている。ちなみに、フィリピンのセブンは台湾系企業が筆頭株主であるフィリピン・セブン社によって運営されている。

●日本のサービスが絶対的に正しいのか

 こうしたサービス(働き方)はフィリピンだからよいものの、日本では通用しないと多くの人が思うことだろう。しかしながら、こうしたサービスから日本が見習うべき点もあるのではないか。

 まず、従業員の視点に立てば、キビキビと働くことは気持ちがよいかもしれないが、1分1秒を争うほどのプレッシャーの中で働くことを楽しいと思える人が、どれほどいるのだろうか。客が買う商品に対して、コメントすることは確かに問題かもしれないが、多少の客との談笑は、客と店員の双方にとってプラスになることも多いのではないか。

 次に、管理する店の経営者などの立場になれば、確かに各スタッフの自由を最大限に尊重し、大きな裁量を与えることはリスクを伴うかもしれない。しかしながら、日本でイキイキと楽しく働くコンビニの店員に出会うことは極めてまれであり、サービスを受けるこちら側も、なんとなく悲しい気持ちになることが少なくはない。

 こうした理由のひとつには、多くの細かな決め事に縛られ、とにかく店長や経営者などから注意を受けないようにそつなくこなすという、受け身の姿勢に徹していることが挙げられるだろう。

●なぜ客としての日本人は厳しいのか

 では、なぜ日本の経営者は、スタッフを厳しく管理するのだろうか。

 その理由としては、客の厳しさが挙げられるだろう。筆者は日本の大学に勤めていた頃、多くの留学生と交流があった。概ね真面目で人柄も良い学生が多かった。彼らの多くはコンビニでバイトしていたが、「コンビニで働いていると、日本人が嫌いになってしまう。なぜ日常の生活ではみんな優しいのに、客になると冷たくなってしまうのか?」といった趣旨の発言を聞くことが多かった。

 筆者もコンビニをはじめ、店における客のスタッフへの態度が酷いと感じることが少なくはない。たとえば、会計の際には概ね無言で、なかにはあからさまに「自分は客だ!」という態度をとる人をよく見かける。

 一方、欧米などでは、会計時に多くの客は当たり前のように「Thank you!」と声をかける。本来、客は店に対してお金を恵むわけではなく、単に自らが受けた商品やサービスに対して支払っているにすぎないため、客が当たり前のように「Thank you!」と声をかける社会のほうが理にかなっているように思われる。

 それでは、なぜ日本人は客の立場になると厳しくなってしまうのだろうか。戦後の貧困から奇跡的な経済成長を通じて急激に豊かになったという、ある種の成金気質のようなものが残っているからだろうか。もしくは、他者へのホスピタリティの重要性などを説くキリスト教のようなバックボーンがないからだろうか。

 これまでも、消費者としての日本人の厳しさはたびたび指摘されてきている。海外の大手メーカーのなかには、厳しい消費者が数多く存在する日本市場に最初に進出し、そこでのフィードバックを踏まえ、商品改良などを行い、国際市場に向けて本格的に参入していくというパターンも少なくない。また、厳しい客によって店が鍛えられ、サービスが向上していくというケースもしばしば指摘される。

 このように、厳しい客に対して肯定的に捉えられる場合が多いように思われるが、マイナスの側面にも注目する必要がある。たとえば、厳しい客により確かにサービスが向上する場合もあるだろうが、それに伴うコスト増を価格に転嫁できなければ、単に手間がかかるだけで生産性の低下という事態を招く。実際、製造業とは異なり、日本のサービス業の生産性が国際的にそれほど高くないことは、よく指摘される。

 また、良いサービスを提供するためには従業員満足度が重要となることは、多くの研究によって明らかになっているが、厳しい客に対応するための店側の管理体制やマニュアルにより、従業員満足度が大きく低下する場合も決して少なくはないだろう。

 会計時に「5000円札を切らしているため、1000円札でのお返しになります」などと、わざわざ店員が言わなければならない現代の日本社会に対し、大きな違和感を覚えるのは、果たして筆者だけだろうか。さらに、この先、「新券(ピン札)を切らしているため……」と断らなければならない事態にまでエスカレートするのではないか、と危惧する次第である。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

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