この10年ほどで、建設業界の勢力図が大きく変わっている。そして、その中でハウスメーカーがゼネコンを傘下に収めるという出来事が起こっている。それはなぜ起こったのか、そして傘下に収めるにあたりどのような狙いがあり、その取り組みでどのような成果を上げようとしているのか、本稿で紹介する。
まず、建設業界を売上高(連結ベース)でみると2018年度は以下のようになっている。
ランキングからわかるのは現在、ハウスメーカーが大林組をはじめとする「スーパーゼネコン」をしのぐ、あるいは肩を並べる規模となっていることである。
次に、ここ10年ほどでハウスメーカーがゼネコンを傘下に収めてきた出来事を、主要なものの中から時系列で挙げると以下のようになる。
・2007年 大和ハウス工業が小田急建設に資本参加することで合意
・2012年 大和ハウス工業がフジタを買収(2015年にフジタと大和小田急建設が統合)
・2015年 積水ハウスが鴻池組(鳳ホールディングス)に資本参加(現在は連結子会社化)
・2016年 旭化成ホームズが森組に資本参加
・2017年 住友林業が熊谷組に資本参加
・2018年 ミサワホームが大末建設に資本参加(現在は持分法適用関連会社化)
大和ハウス工業はM&Aで規模拡大
ランキング1位の大和ハウス工業はこの10年で売上高を約2.5倍(2008年度は1兆6909億円)にしている。これはフジタを含むゼネコン、マンションデベロッパーのコスモスイニシアを含むM&A効果が大きい。
大和ハウス工業が建設している静岡県最大の物流施設開発「DPL新富士Ⅱ」の外観イメージ(大和ハウス工業提供)
そして、業態そのものも従来の戸建て住宅、賃貸住宅の供給を行う住宅事業主体から、マンションや事業施設、商業施設、海外事業、そして住生活サービス事業など多角化を図り、もはや従来とは異なる意味でのスーパーゼネコンと呼ぶべき存在となっている。
2位の積水ハウスは、戸建て住宅や賃貸住宅の建設とその関連事業を収益源としながら、医療や介護、福祉などの非住宅分野、海外での住宅供給などへ事業の裾野を広げている。大和ハウス工業ほどの派手さはないものの、着実に規模拡大に結びつけてきた。
ハウスメーカーはゼネコンに比べ、非住宅建設というこれまで進出してこなかった分野があったこと、また住関連サービス提供という「日銭商売」(例えば賃貸住宅のサブリースによる収益)で比較的安定的に収益を確保できる体質であったことが、成長の土台としてあった。
また、ハウスメーカーは住宅であれ非住宅であれ、建材などについてある程度の標準化を行うことができた。大和ハウス工業、積水ハウスは住宅企業の中でも標準化率が高いプレハブ(工業化)ハウスメーカーである。
ビルやインフラ関連は標準化しづらい
一方、ゼネコンの場合は一つひとつの事業はビル、マンションやインフラなど規模や売上が大きなものが多いが、それぞれは標準化しにくい一点モノという側面がある。そのため資材や職人の獲得なども含め無駄が発生しやすく、収益が安定せず、拡大のための投資をしにくいという側面もあった。
加えて、バブル期以降、建設不況が長く続いたゼネコン業界と、減少傾向とはいえ年間新設住宅着工約80~100万戸台で比較的安定的に推移してきた住宅業界という明暗も、建設業界の勢力図の変更に大きな影響を与えたと考えられる。
熊谷組には海外での実績も。写真は100%子会社「華熊營造」が施工したマンション「陶朱隠園」の外観(熊谷組提供)
さて、ハウスメーカーが傘下に収めてきたのは中堅ゼネコンであるが、ではなぜ、ハウスメーカーは彼らに白羽の矢を立てたのだろうか。住友林業と熊谷組の事例から考えてみる。
住友林業は木造住宅事業のほか、木材・建材事業、山林事業、エネルギー事業などを展開する企業だ。近年は、海外の住宅企業のM&Aを積極化することで、海外住宅供給で国内企業トップクラスの実績を上げている。
熊谷組は、黒部川第四発電所の成否を決めた大町トンネル(現関電トンネル)の難工事などを担当した企業として知名度が高い。バブル期の巨額不動産投資の失敗、建設不況により業績不振に陥っていた。2018年度の連結業績は売上高3890億円だった。
2社は2017年11月、住友林業が熊谷組に20%を、熊谷組が住友林業に2.85%を相互出資するかたちで業務・資本提携を結んだ。住友林業は1691(元禄4)年、住友家の別子銅山開坑、銅山備林経営開始をルーツに持ち、熊谷組も1898年に創業した歴史ある企業同士の提携でもある。
提携の狙いは、①木化・緑化関連建設事業、②再生可能エネルギー事業、③海外事業、④周辺事業(ヘルスケア・開発商品販売など)、⑤共同研究開発(新工法・部材・ロボティクスなど)の事業領域拡大となっていた。
350mの木造超高層建築物の実現へ
このうち木化とは、木材を使った大規模建築物のこと。住友林業は、2041年を目標に高さ350mの木造超高層建築物を実現する研究開発構想「W350計画」を打ち出しており、木化は「提携の狙いの本丸」という位置付けである。要するに、住友林業もまた都市開発という非住宅分野に活路を見出そうとしているわけだ。
住友林業が進める研究開発構想「W350計画」のイメージ(住友林業提供)
これを実現するためには、RC(鉄筋コンクリート)と鉄骨、そして住友林業が有する木のノウハウを融合、それによる耐火建築技術の向上を加速させることが求められ、熊谷組が持つ技術やノウハウを必要とし、それが提携につながった理由の1つとなっている。
提携から約1年半。とはいえ、シナジー創出や収益的にはまだまだ成功しているとは言いがたい状況である。そこで、両社は「緑化」を軸にシナジー効果の発現をすべく、取り組みを強化している。
その一例が、今年7月24日に熊谷組本社ビル(東京都新宿区)の大会議室で、熊谷組の社員と住友林業の社員が参加し開催されたセミナーだ。内容は「SDGs」経営についてであった。
SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略。2030年までに国際社会が取り組むべき普遍的な共通言語(目標)として17の項目が挙げられている。この中で、緑化が大きな価値を生み出すと考えられている。
セミナーでは、住友林業のグループ会社、住友林業緑化、熊谷組(現在は緑化事業を停止)を含めた緑化事業の実例紹介に加え、三井住友信託銀行フェロー役員兼チーフ・サステナビリティ・オフィサー経営企画部長の金井司氏による基調講演も行われた。
住友林業緑化はこの分野で多くの実績があり、「イニシアチブを取っている企業」(関係者)。熊谷組による都市開発のノウハウと合わせれば、提携のシナジー効果を発揮しやすく、SDGs経営を行いやすいというわけだ。
両社は提携から現在まで、シナジー効果発現のためのさまざまな検討を行ってきた。その中で、例えば森林開発に災害復旧の際に林道を造る際の無人土木技術が応用できるなど、「シナジーを新たに発現できる分野が見つかった」(川田辰己・住友林業 取締役 常務執行役員)という。
中長期的な相乗効果は?
これについては、今年1月、両社を含む4社は「林業機械システムの自動化による省力化の研究(林業機械システムの月面での運用)」でJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究契約を締結している。
住友林業緑化が施工した緑化の事例「三井住友海上駿河台ビル」の様子(住友林業提供)
このような従来とは異なる経営環境になったことについて、熊谷組の櫻野泰則社長は「当社は世の中の動きに遅れていた側面があった。協業により新たな刺激を受けながら視野を広げて、しっかりと成果を上げていきたい」と話していた。
住友林業の佐藤建副社長も「今は緑化が先行しているかたちだが、ビジネスチャンスは増えている。中長期的に売上高約1500億円、営業利益で約100億円(いずれも両社合算)規模の相乗効果確保に向け邁進したい」と語っていた。
ところで、建設業界の勢力図の変化は、かつての住宅=ハウスメーカー、大規模建築物・インフラ=ゼネコンというすみ分けが崩れてきたことが、大きな要因と考えられる。住友林業が非住宅、都市開発分野に参入しているのがいい事例で、そのほか、ハウスメーカーも似たような背景がある。
東京五輪が開催される来年以降、建設市場の縮小が見込まれ、さらに住宅市場も人口減の中で同じく縮小するとみられるなど、いずれも先行きに懸念がある。その中で今後、さらに勢力図が変化していくだろうと筆者には考えられる。