後継者不足に悩む建設業者の深刻度が増している。
帝国データバンクが2020年11月末にまとめた2020年の「後継者不在率」動向調査によると、事業承継の実態について分析可能な約26.6万社(全国・全業種)のうち、全体の65%に当たる約17万社で後継者が不在であることがわかった。
業種別にみると、建設業の後継者不在率がもっとも高く、70.5%だった。建設業の後継者不在率が70%台となるのは6年連続で、2020年調査では全業種で唯一の70%台となった。
倒産や廃業を決断する事業者も
帝国データバンク情報統括課の飯島大介氏は「7割が後継者不足というのは、深刻な状況と言わざるをえない。しかも、建設業者は(全国で約46万社と)事業者数が多いので、絶対数にすると相当な数の事業者が後継者難に陥っていることになる」と語る。
さらに最近の特徴としては、後継者不足を理由に倒産や自主廃業を決断した建設業者が増えていることがある。帝国データバンクの2020年1~11月の調査によると、その数は92社と「全産業の中で突出して多い」(飯島氏)。後継者不在に加え、昨今の受注環境の厳しさが加わって事業継続を断念した企業がほとんどで、11月までの数字に12月分が加算されると、7年ぶりに通年で100社を超えてくる可能性が高いという。
なぜ、建設業は後継者不在率が他業種に比べて高いのか。その理由は、大きく3つある。
1つ目は、業界全体で就業者の高齢化が進む一方で、「若者離れ」が顕著なことだ。建設業就業者のうち55歳以上の比率は35%と、全産業平均の30%を上回る。逆に、29歳以下の比率は11%と、全産業平均の16%を下回る。
建設業界に関する著書もあるMABコンサルティングの阿部守代表は、「仕事がきついうえに、それに見合う収入も望めないので、建設業で働きたい、あるいは親が経営する会社の後を継ぎたいと思う若者が少ないのだろう」と指摘する。
希薄な後継者育成の意識
バブル崩壊や世界金融危機時に職人離れが加速し、「きつい、汚い、危険」という『3K』のイメージが定着した建設業は、若者の間の印象はけっして良くはない。「最近は大学の『土木工学科』が減っている印象がある。実質は土木工学を教えているのだが、『社会環境工学科』や『都市創造工学科』など土木の名称を使わない学科名に変えている大学は少なくない」(阿部氏)というほどだ。
2つ目に、経営者も後継者を育てる意識が希薄なことがあげられる。元来、職人気質の経営者が多いこともあり、「2代目育成セミナーなどが開催されても、受講したがる経営者はほぼいない」(鉄筋業界関係者)。
また、建設業は資本金5000万円未満の中小・零細事業者が全体の95%以上を占めている。「大きな工場や設備を保有しているわけでもないので、そういった資産の継承に考えをめぐらせる必要もなく、後継者の育成を意識しない経営者が多い」(別の業界関係者)。
子どもに継がせても、経営がうまくいかないケースも後を絶たないようだ。前述の鉄筋業界関係者は、「親父の時代に勢いがあった企業の子どもは、遊び人になりやすい。先代が関係を築いた取引先や職人さんのいることを、当たり前のように考えてしまいがち。そうなると、総作業長や工事部長といった現場を仕切っている人が『この社長ではやっていけない』と見切りをつけて、職人さんを連れて出て行ってしまう」と話す。
実際、東京都鉄筋業協同組合に所属する約50社の企業のうち、2代以上続いている事業者は10社程度しかないという。
3つ目の理由として、免許の問題がある。建設業者は建設業法3条に基づき、建設業の許可を受けなければならない。法人ならば役員や株主が変わっても許可を引き継げるが、事業承継時に要件を満たさなければ免許を取り消されてしまう。
建設業の許可を得るには、「経営業務管理責任者」(5年以上経営業務の管理責任者としての経験があるなど)と「専任技術者」(指定学科修了者で高卒後5年以上、もしくは大卒後3年以上の実務の経験を有するもの)の在籍が求められる。
後継者へ引き継げたとしても、経営業務管理責任者と専任技術者がいなくて許可が取得できないケースがある。「この問題に現経営者が悩まされ、経営譲渡を足踏みしてしまうこともある」(前出の業界関係者)。例えば、先代社長自身が経営業務管理責任者と専任技術者の要件を満たしていたが、後継者は経営業務管理責任者の要件しか満たしていない場合は、新たに専任技術者を雇わなくてはならない。
五輪後とコロナで激化する競争環境
ただ、建設業の許可要件は2020年10月に緩和された。経営業務管理責任者については、建設業での役員経験が2年あれば、残りの3年は建設業以外の役員経験でも認められるようになった。厳格すぎるとの指摘があった許可の要件が緩和されたことによって、後継者問題が和らぐことを期待する向きもある。
今後気になるのは、建設業の事業環境が厳しさを増していることだ。2019年までは東京五輪関連などの大型工事が相次いでいたが、2020年は一服し、新型コロナウイルスで民間工事の延期も続出した。売り上げ確保を焦るスーパーゼネコンも、工事高10億~50億円程度の小型工事にまで手を出すようになった。
受注競争が激化すれば、工事採算も低下していく。そのシワ寄せは下請けの専門業者に及ぶ。ゼネコンからの熾烈な値下げ要請に、資金ショート寸前の専門業者は少なくない。「2019年までの受注好調時に設備投資に踏み切った会社などは、いまは減価償却費の負担などによって採算ギリギリという会社が多い」と、帝国データバンクの飯島氏は話す。
コロナ支援策である保証付き融資を受けて一時的に急場をしのいでも、結局のところ借金は残る。将来の展望が立たないことを引き金に、そもそも後継者不在で悩んでいた企業が、事業継続を断念するケースは今後も増えそうだ。
建設業界の後継者問題の根本には、職人気質を残したままで、マネジメント意識の希薄な非効率経営がいまだ払拭されていない業界の特質がある。業界の新陳代謝を図るためには、生産性の高い会社に人材を集約していく業界再編のほか、省人化や遠隔操作を可能にするIT・ロボット技術の進化といった大胆な取り組みが求められる。