当たり前を見直す大切さ 子供の「生活力」高めて

ひもが結べない、ぞうきんが絞れない-。日常生活での当たり前の営みに“苦戦”する子供が増えているという。ボタン一つで家事が済む生活環境の変化や核家族化、子供に家事を教える余裕のない親の事情…。今こそ子供の「生活力」向上が求められている。
 今年3月、小学館から発売された小学校低学年向けの『せいかつの図鑑』が、半年で発行部数15万部の異例の売れ行きをみせている。
 ほうきの掃き方をはじめ、洗濯、入浴のほか、はしや包丁の使い方、コメの研ぎ方や時計の見方など生活していくうえで欠かせない衣食住の基礎を写真入りで分かりやすく解説。保護者向けにも「ぞうきんを絞ると指先が鍛えられ、筆力が向上して字が上手になる」などとアドバイスを付記し、親子一緒に学べるのが特徴だ。
 編集した同社生活編集部の青山明子編集長代理は「これだけ売れるとは想定外。あまりに当たり前のことが本として売れることに驚いている。若いお母さんが購入するケースが多い」という。
 「和式トイレの使い方が分からない」「ボタンを掛けられない」「鉢巻きが結べない」。学校現場で実際に子供が直面している現実の事例だ。
 教員生活30年の東京都台東区立大正小学校の東川久美子教諭によると、約15年前から子供の生活力の低下が目立ち始め、年々こうした傾向は強まっているという。
 生活様式の変化など環境要因を指摘したうえで、東川教諭は「忙しさからつい親も手っ取り早く家事を自分で済ませてしまう。好奇心が旺盛な子供から体験する機会を奪ってしまっている」と訴える。
 「掃除は高いところから始めて。ほうきは畳の目に合わせ端から順に。配膳(はいぜん)は音を立てず、皿は重ねない」
 神奈川県茅ケ崎市の「家事塾」((電)0467・73・8076)は、1泊2日で掃除や食事の作法、後片付けなどを親子で学ぶ体験型講座を開いている。3歳の長女、はるちゃんと参加した東京都港区の会社員、宇都宮紘子さん(33)は親の教育方針で子供のころから家事を一切しなかった。「結婚して一から学んだ。この子には家事の面白さを知って自立できる女性になってほしい」と願っている。
 家事塾の辰巳渚代表は「家事に主体的にかかわることで子供は自己発見する。家事に正解はないので親は子供に自信を持って伝えてほしい」とアドバイスする。
 児童教育が専門の十文字学園女子大の流田直教授は「便利な物が増えてお手伝いの原風景が消えていくのは時代の流れで誰も責められない。ただ、慌ただしい日々の中で立ち止まり、親子で“当たり前”を見つめ直してほしい。人間らしさを取り戻す絶好の機会になる」と話している。

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