経営者の言語化・コンテンツ化のサポートをしている竹村俊助さんは、「社長の言葉は360度に効果がある」と語ります。経営者は事業にまつわるあらゆる営みのど真ん中にいます。PR、IR、採用広報、社内を含め、会社のあらゆるコミュニケーションの中心にいる、企業の中で最もレバレッジの効く存在が社長です。
これまで企業はメディアと連携しながら言葉を届けてきました。しかし、時代は変わりました。マスメディアを通じた企業のコミュニケーションがうまく機能しなくなってきたのです。テレビや新聞を見る人が減り、ただ広告を垂れ流すだけでは効果がないどころか逆に嫌われてしまいます。
それらが効果を失れつつある今、何をすべきか? それは「経営者自身がメディアになる」ということです。経営者がメディアを使う、ではなく、経営者自身がメディアになる。その効果は計り知れないものがあります。
経営者の発信のポイントについて、竹村さんの著書『社長の言葉はなぜ届かないのか? 経営者のための情報発信入門』より、一部抜粋してご紹介します。
「情報」では届かない
企業が発信すべきなのは「情報」ではありません。「コンテンツ」です。なぜコンテンツを発信する必要があるのか? そんな話から始めたいと思います。
今は情報過多な時代です。これまでは情報自体が希少で価値があったため、情報を流すだけでも見てもらうことができました。しかし今は、誰もが発信できるようになり、世界には玉石混交の情報が溢れるようになりました。ただの情報では見向きもされませんし、もし見聞きしてもスルーされることがほとんどです。だから、コンテンツにする必要があるのです。
では、コンテンツとはそもそも何なのでしょうか? ここ数年でコンテンツという言葉をひんぱんに耳にするようになりましたが、きちんと説明できる人は多くありません。辞書で調べてみると、意味のひとつに「インターネットなどの情報サービスにおいて、提供される文書・音声・映像などの個々の情報。デジタルコンテンツ」とあります。これも、わかるようでよくわかりません。
僕なりにコンテンツを定義するなら「何かしら心が動くもの」です。映画、音楽、マンガ、小説……これらは言うまでもなく、喜怒哀楽などの「感情が動くもの」なので「コンテンツ」です。例を出してみましょう。
次の内容は「情報」です。株式会社インターネットという会社を設立した。事業内容は通信インフラの整備だ。
次の内容は「コンテンツ」です。私は東日本大震災を岩手県で経験しました。地震発生後はしばらくインターネットが使えなくなり、普段オンラインで人とつながれたり情報が得られたりすることのありがたみを感じたのです。それがきっかけで、通信インフラを整備する会社「株式会社インターネット」を立ち上げました。
両者を読み比べて、コンテンツのほうは「ああ、そういう思いでやってるんだな」と心が動いたはずです。とにかく何かしら心が動けばコンテンツになりうるのです。
驚きのある情報やデータはコンテンツ
ちなみにコンテンツにするためには、エモいエピソードや表現は必須なのでしょうか? 僕は数字が並んでいるただのデータであっても「そうなのか!」と心が動くならコンテンツと呼んでいいのではないかと考えています。
2024年の初めに「スノーピークの2023年12月期連結決算は、純利益が前期比の99.9%減の100万円だった」というニュースが出ました。これはただのデータかもしれませんが、驚いたり、思うところがあったりする人は多かったはずです。こういう驚きのある情報やデータはコンテンツと呼んでも良さそうです。
逆に小説を書いたとしても、その文章によって誰の心も動かないのであればコンテンツではないということです。小説でも何でもないはちゃめちゃな文章でも、誰かの心を動かせたらそれはコンテンツです。コンテンツになり得るかどうかは「感情が生まれるかどうか」が分岐点。この本では、「何かしら心が動くもの」をコンテンツと定義して、話を進めていきたいと思います。
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「情報化社会」から「コンテンツ化社会」へ
やや感覚的な話になりますが、これから世界はますます「コンテンツ化」していくと思っています。「映画や漫画などのコンテンツが増えていく」と言いたいわけではありません。「世界自体がコンテンツ化していく」ということです。世界のあらゆるものごとが感情を動かすコンテンツになっていくのではないか。
理由としては2つあります。
ひとつはデジタル化の進展です。コロナ禍を経て、あらゆるものごとがますますデジタルに移行しました。誰もがスマホやPCなどのデバイスを使うようになった。ネットに接続せずに生活することはかなり難しくなりました。
デジタルの世界では仕事もプライベートも「地続き」になります。あらゆる情報が横並びになります。Netflixも、ECサイトも、採用ページも、お役所のサイトも、すべてが横並びになる。そんな中で「ただ情報を置いておく」だけでは多くの人に届かなくなってきているのです。耳目を集めたいなら、よりわかりやすく、よりおもしろくしなければいけない。そんな時代に突入しています。
もうひとつは生活がより高度化したからです。
現代の日本人の多くは、衣食住に困らない生活を送っています。すると人は次に何を求め、何にお金を使うようになるのか?独立研究者の山口周さんは『ビジネスの未来』(プレジデント社)の中で「人類が長らく夢に見続けた『物質的不足の解消』という宿題をほぼ実現しつつある」とした上で、こう述べています。
「便利さ」よりは「豊かさ」が、「機能」よりは「情緒」が、「効率」よりは「ロマン」が、より価値のあるものとして求められることになるでしょう。そして、一人一人が個性を発揮し、それぞれの領域で「役に立つ」ことよりも「意味がある」ことを追求することで、社会の多様化がすすみ、固有の「意味」に共感する顧客とのあいだで、貨幣交換だけでつながっていた経済的関係とは異なる強い心理的つながりを形成することになるでしょう。
「コンテンツ化」した世界
豊かさ、情緒、ロマン、そして「意味がある」ことが求められる世界。それは言い換えると「コンテンツ化」した世界とも言えるのではないでしょうか?
例えば、水を飲みたいと思ったとき、水道水や適当に買った水ではなく「南アルプスの天然水」や「ボルヴィック」などをわざわざ選んでいたとしたら、そこには自分なりの「意味」があるはずです。その意味の背景には、商品のイメージや企業のストーリーが存在するでしょう。何かしら心を動かすもの、僕の定義する「コンテンツ」が影響しているはずなのです。
衣食住を満たすだけなら、コンテンツは必要ありません。しかし、いいか悪いかは置いておいて、人間はより充実した生活を求める生きものです。人はより豊かで、情緒のある生活を求めます。そういう世界において「コンテンツ」はますます求められていきます。
意味やコンテンツが求められるようになるのは「働く」という分野でも同じです。「お金がもらえるから働く」「生活のために働く」というよりも「この仕事には意味があるのか?」「なぜ、この会社で働くのか?」と多くの人が考えるようになりました。企業であっても「心を動かすようなコンテンツ」を提示できないと選ばれなくなっているのです。
心が動かないものは、存在しないのと同じ 読まれなければ意味がない、届かなければ意味がない
発信を検討している企業から、たまにこんなことを言われます。「うちの会社はコンテンツを出したいわけではないんですよ。自社の魅力を伝えたいだけ。会社のことを知ってほしいだけなんです」と。その気持ちもよくわかります。
コンテンツは「きっかけ」
ただ、じゃあどうすればいいのでしょうか? Xで自社の説明をどんどん発信すればいいのでしょうか? 事業内容をnoteにまとめて公開すればいいのでしょうか? それで果たして、読んでもらえるでしょうか?
前述したように、もはや情報を発信するだけでは届きません。世の中が情報だらけだから埋もれてしまうのです。そこでコンテンツ化によって差別化しましょうというのが僕の提案になります。
言ってみれば、コンテンツは「きっかけ」です。ほとんどの企業はコンテンツを生業にしているわけではないと思いますが、コンテンツは武器になりえます。どんな産業であってもコンテンツを武器にすれば、会社の魅力を伝えることは可能なのです。
読まれなければ意味がない。届かなければ意味がない。心が動かないものは、現代において存在しないも同然なのです。まずは存在を知ってもらえなければ魅力を伝えることだってできません。
より多くの人に届く「コンテンツ化」の威力
経営者の思考も「コンテンツ」にすれば、より多くの人に届けられるようになります。
経営者の頭の中には「暗黙知」が詰まっています。個人の経験や直感、言語化できていない知識やスキルなどの暗黙知には、企業を動かし、世の中を変えるような大きな価値があるでしょう。しかし、脳内に留まっていては誰にも伝わりません。そこで必要なのが「言語化」です。言語化、つまり言葉にすれば、まわりの人に伝えることができます。
言語化したものを文章にまとめるなど「情報化」すれば、経営者や会社のことを知っている人たちにも伝わるでしょう。さらに、その情報をコンテンツ化、つまり「何かしら心が動くもの」に加工すれば、業界外の人やこれまで会社を知らなかった人にまで届きます。
これを採用の側面から見てみるとこうなります。
経営者が「こんな人がいたら会社は成長できるのにな」と思っているだけでは暗黙知のままなので誰にも届きません。そこで経営者が考える「こんな人」を言語化します。すると、まわりの10人くらいに届き「社長はそういう人がほしいと考えているんですね」とわかってもらえます。それをきちんと文章に整理してサイトに載せる。すると、関係者やすでにその会社に興味のある人など100人ぐらいが見てくれます。
さらに「こんな人がほしい」という情報にとどまらず「これまでの会社の歴史」「起業したときの思い」「会社が実現させたい未来」などのコンテンツを出します。すると、それまでその会社を知らなかった1000人以上が見にきてくれるようになるという具合です。コンテンツ化にはそれくらいの威力があるのです。