東日本大震災や東京電力福島第1原発事故からの復興のため、政府が計上した関連予算は2020年度まで10年間の累計で約38兆円に上る。 【図解】復興予算額と使い道 防潮堤の再建や道路の整備は進み、かさ上げされた街も復興を遂げつつある。しかし、人口流出が続く地域では整備されたインフラを活用し切れない誤算も。巨額の支出を支える復興目的の臨時増税は37年まで続く。適正に使われているか、不断の監視が不可欠だ。 津波で市街地が壊滅した岩手県陸前高田市。かさ上げした土地に商業施設や公共施設が整備され、街全体が真新しい。ただ、高い所から見下ろすと目立つのは黄土色の空き地。かさ上げ地の住宅はまばらで、人通りも少ない。市によると、昨年12月時点でかさ上げした民有地の6割以上が未利用のままだ。 かさ上げ地でカフェを営む熊谷幸さん(35)は「地域活性化の役に立てれば」との思いから、震災を機に東京から故郷の陸前高田市にUターンした。だが、店舗兼住宅の建築工事が終わったのは17年になってから。周辺の商業エリアには飲食店などの店舗が立ち並ぶが、住宅地には売地の看板が目立つ。「土地造成が完了するまで時間がかかり過ぎた。ここでの再建を諦めた人もかなりいたと思う」。熊谷さんは淡々と語った。 岩手、宮城、福島の3県では、巨額の復興マネー投入によりインフラの整備が急速に進んだ。住宅再建や道路整備などに充てられた費用は約13兆円。太平洋岸を南北に走る復興道路と、内陸部に延びる復興支援道路の合計570キロの整備は年内に完了する見通しだ。 10年を経て街の再建も進んだ。陸前高田市では、巨大なベルトコンベヤーで土砂を運んで約125ヘクタールの土地をかさ上げ。公共施設や宅地の整備などを含め事業費約1657億円をかけた造成工事は今春おおむね完了する。 しかし、陸前高田市の戸羽太市長はかさ上げ地の未利用が多いことについて、「全国各地に住む地権者2000人以上を探し出し、承諾を得るのに時間を要した」と説明する。事業に時間がかかり過ぎたため、人口流出が助長されてしまった地域も多い。同市の場合、今年2月末の人口は1万8000人強と震災前から2割以上減少した。 慶応大の土居丈朗教授は「高齢化が進んで人口減少傾向にある地域で、造ったものをどう維持するかに神経を使わなければいけなかった」と復興予算の課題を指摘する。 また会計検査院によると、国が支出した予算の一部は基金として自治体などにとどまっており、復興以外の目的に流用された事例もあった。復興庁によると、被災地支援に直接つながらないとして自治体などから国庫に返納された金額は、19年度までで約3000億円に上る。 これら巨額な復興経費の主要財源の一つが、所得税と法人税に上乗せされた臨時増税だ。「負担を後の世代に先送りすべきではなく、被災地以外でも分かち合おうとの考えがあった」。元財務省幹部は振り返る。法人税の増税は予定を繰り上げて打ち切られたが、所得税の2.1%の上乗せはこれからも続く。国民全体が今後も復興を支え続けることになる。