河北新報社は2014年の「東北十大ニュース」を選んだ。トップはソチ五輪で羽生結弦選手が金メダルを獲得した快挙で、地元の仙台市であったパレードは大いに沸き上がった。
東日本大震災から4年目。復興の前進を実感できる年だった。被災地・東北への医学部新設は東北薬科大が設置者に決まった。宮城、岩手両県ではがれき処理がようやく終了。三陸鉄道は全線で運行を再開し、国道6号も全線通行可能となったほか、常磐道は2区間が新たに開通した。
一方、福島第1原発では汚染水が増え続けている。福島県は除染廃棄物中間貯蔵施設の受け入れ容認という苦渋の決断をした。指定廃棄物の最終処分場建設では宮城の3カ所が候補となったが、住民の反発が相次いだ。
師走の衆院選は東北でも与党が圧勝。14年産米の概算金が大幅下落した。仙台市出身の俳優菅原文太さんが死去し、昭和が遠のいていることも感じさせた。
(1)ソチ五輪で羽生が金、凱旋パレード
ソチ冬季五輪フィギュアスケート男子で日本初の金メダルを獲得した仙台市出身の羽生結弦選手(ANA、宮城・東北高-早大)の凱旋(がいせん)パレードが4月26日、同市青葉区の東二番丁通で行われた。
地元で育った若き五輪王者をたたえようと、沿道には約9万2000人(主催者発表)が詰め掛けた。「ありがとう」「おめでとう」の声に、金メダルを掛けた羽生選手は手を振って応えた。
羽生選手はことし2月の五輪ショートプログラムで、4回転ジャンプなどを全て決めて世界歴代最高の101.45点を記録。フリーではジャンプでミスをしたが、補って余りある演技を見せた。
(2)医学部新設東北薬科大に
文部科学省の有識者審査会は8月28日、東日本大震災からの復興支援のため、東北地方に1校だけ新設する医学部の設置者に東北薬科大(仙台市青葉区)を選定した。
新医学部の構想募集には、宮城県と脳神経疾患研究所(郡山市)も応募した。審査会は薬科大の構想を「最も具体的」と評価。応募締め切り直前に名乗りを上げた宮城県の宮城大などを退けた。
わが国の医学部新設は1979年の琉球大以来。薬科大では2016年春の開学を目指して急ピッチで準備作業が進む。大学名は「東北医科薬科大」に改称し、入学定員は東北出身者限定の復興支援特別枠20人を含む120人の予定だ。
(3)衆院選東北でも自民圧勝
第47回衆院選(12月14日投開票)は自民、公明両党が定数475議席の3分の2を上回る325議席を獲得し、圧勝した。東北でも自民は前回2012年の24議席を維持し、公明は悲願の2議席目に届いた。
野党は候補者調整を軸とする選挙協力で巨大与党に対抗したが、民主党が公示前から1議席増の8議席、維新の党は同数の3議席にとどまった。
投票率は全国で軒並み戦後最低に低迷。東北では青森、宮城両県が50%を下回った。
公示日の2日、東北から遊説をスタートした安倍晋三首相は相馬、仙台両市などで「アベノミクスを進め、賃金、雇用を増やす」などと訴えた。
(4)がれき処理宮城・岩手で終了
東日本大震災で発生した宮城、岩手両県の震災廃棄物処理が3月末で終了した。処理量は宮城が約1950万トン、岩手が約580万トンに上った。
1トン当たりの処理単価は宮城約3万6500円、岩手約4万3400円で、1995年の阪神大震災と2004年の新潟県中越地震を上回った。
福島第1原発事故で発生した指定廃棄物の最終処分場建設をめぐり、環境省は1月、宮城の候補地として栗原、大和、加美3市町を提示した。
10月にはボーリング調査に向けた準備作業を試みたが、加美町で住民の抗議を受け見送った。望月義夫環境相は11月、調査を来春以降に先送りする意向を表明した。
(5)三陸鉄道全線開通
東日本大震災で被災し、不通区間が残っていた第三セクター三陸鉄道(宮古市)の南リアス線(盛-釜石間)が4月5日、北リアス線(宮古-久慈間)が翌6日、それぞれ全線で運行を再開した。南北線計107.6キロが震災から3年余りで完全復旧した。
三陸復興の象徴に沿線住民は喜びに沸き、多くの観光客も詰め掛けた。4~9月の経常収支は6000万円超で21年ぶりの黒字。一方で沿線の人口減少は著しく、安定経営が課題となる。
12月24日にはJR山田線の三鉄への移管に岩手県と地元自治体が合意。三鉄南北リアス線は山田線を挟み、1本の鉄路でつながることになった。
(6)国道6号も通行可能
国道6号は東京電力福島第1原発事故の帰還困難区域を通る福島県富岡町-双葉町間(14.1キロ)の通行規制が9月15日に解除され、3年半ぶりに全線通行が可能になった。12月6日には常磐自動車道浪江-南相馬インターチェンジ(IC)間(18.4キロ)と相馬-山元IC間(23.3キロ)が開通。復興の加速に期待が高まっている。
通行量は国道6号の規制解除区間で平日約60%増に。常磐道も開通区間とつながる既存区間で約30%増えている。
常磐道は来年3月1日に常磐富岡-浪江IC間(14.3キロ)が開通する見通しで、三郷(埼玉県)-亘理IC間(約300キロ)の全線が開通する。
(7)菅原文太さん死去
「仁義なき戦い」「トラック野郎」などの映画作品で熱い支持を集めた仙台市出身の俳優菅原文太さんが11月28日、81歳で亡くなった。同月10日には俳優の高倉健さんも83歳で死去。昭和を代表する映画スターの訃報が続いた。
菅原さんは哀感あふれる演技で人々の心を引きつけた。近年は脱原発や反戦・平和について積極的にメッセージを発信。東日本大震災後は被災者を励まし続けた。とわの別れを惜しむ声が被災地でも相次いだ。
高倉さんも被災地のことを常に心に刻んでいた。がれきの中で唇をかみしめて水を運ぶ気仙沼市の少年の写真を持ち歩き、心の交流を続けた。
(8)中間貯蔵施設受け入れ
福島第1原発事故に伴う除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設計画で8月30日、福島県の佐藤雄平知事(当時)が受け入れを正式に表明し9月1日、候補地の大熊、双葉両町長とともに安倍晋三首相に伝えた。
30年間で総額3010億円を拠出する国の地域振興策などを評価。一方で、廃棄物搬入は別と主張し(1)県外での最終処分の法制化(2)搬入ルートの維持管理と周辺対策-など5項目を搬入開始の条件として提示した。
施設は16平方キロで、地権者は2300人を超える。国は来年1月の搬入開始を目指したが、地権者との用地交渉が難航。目標を「本年度内」に変更する方針を決めた。
(9)14年産米概算金大幅下落
2014年産の米価は全国的な需要減と過剰な在庫量、東日本の豊作などで激しい暴落に見舞われた。東北各県の主要銘柄の概算金(60キロ、1等米)は前年比1200~4200円の大幅な下落となり、おしなべて過去最低を記録した。
宮城県の主力品種ひとめぼれは前年より2800円(25.0%)減の8400円。福島第1原発事故の風評被害に苦しむ福島・浜通り産コシヒカリは37.8%減で、最も下落率が大きかった。
18年度をめどとした生産調整(減反)廃止など、政府が進める新コメ政策の初年度。生産現場からは米価や農業者所得の安定化など抜本的な対策を求める声が相次いだ。
(10)福島第1汚染水流出続く
福島第1原発事故で、原子炉建屋に地下水が流れ込み、汚染水が増え続けている。東電は5月、建屋山側で地下水をくみ上げて海洋放出する「地下水バイパス」を開始したが、いまだに1日約300トンの汚染水が発生し、廃炉作業の足かせになっている。
高濃度汚染水がたまる2号機建屋海側のトレンチ(電源ケーブルが通る地下道)では4月、凍結による止水作業を開始したが失敗。セメントで充填(じゅうてん)する方法に移行した。
来年3月には建屋周辺の地盤を凍らせる「凍土遮水壁」の運用開始を目指しているが、トレンチ止水の難航により先行きが不透明になっている。
◎順位一覧
(1)ソチ五輪フィギュアで羽生が金、仙台でVパレード
(2)医学部新設、東北薬科大に決定。宮城大選出されず
(3)衆院選で東北でも自民が圧勝、野党は共闘実らず
(4)がれき処理が宮城、岩手で終了。指定廃処分場で宮城の3カ所候補に
(5)三陸鉄道の南・北リアス線が復旧、全線で開通
(6)国道6号が全線通行可能に。常磐道は2区間が新たに開通
(7)菅原文太さんが死去、高倉健さんは被災地少年との交流話題に
(8)福島県が中間貯蔵施設受け入れを容認、大熊・双葉両町に
(9)14年産米の概算金が大幅下落、減収支援策求める
(10)福島第1原発で汚染水流出、地下水バイパスで放出も
(11)東北楽天の闘将星野監督が辞任、後任は大久保氏
(12)仙台空港が民営化第1号に決定、4グループ応募
(13)福島県知事に内堀氏、現職佐藤氏は出馬せず
(14)蕃山などで土砂採取目的の違法伐採相次ぐ、刑事事件に
(15)大川小津波災害で遺族が提訴、日和幼稚園訴訟は和解
(16)平川市長選で市議15人と前市長逮捕、市政が混乱
(17)東通原発と再処理工場の安全審査を申請
(18)日本海側で津波最大23メートルと政府推計、秋田・山形対策急ぐ
(19)東日本で2週続けて記録的な大雪、雪崩や立ち往生相次ぐ
(20)大規模災害訓練「みちのくアラート」でオスプレイ初飛来