異常な反日デモの盛り上がりを見ていると、やはり韓国では“反日こそが正義”であり、それ以外の意見は受け入れられないという暗澹たる思いに駆られる。だが、それは間違いだ。日韓関係について客観的事実を知る多くの韓国人が、実は「文在寅政権は間違っている」と感じている。その声なき声を国が主導する異常な反日ムードが封殺しているだけだ。
【写真】徴用工研究をしている李宇衍・落星台経済研究所研究委員
少しでも日本に理解ある発言をすれば「親日罪」とのレッテルを貼られるこの国で、リスクを顧みず声を上げる人たちが現われた。彼らは決して“親日派”ではなく、むしろ愛国者である。だからこそ、許せないのだ。韓国を誤った道に導こうとする文在寅政権を──。ジャーナリスト・赤石晋一郎氏がレポートする。
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「日本は隣国に不幸をもたらした過去を省察すべきです。日本の不当な輸出規制に対抗し、私たちは経済強国に向けた道を歩むのです」
8月15日、日本統治から朝鮮半島が解放された記念日である光復節。その記念式典で文在寅大統領はこう演説した。
日本政府が7月に発動した輸出規制、そして8月に閣議決定された韓国をホワイト国から除外するなどの一連の経済措置を機に、韓国内では一気に反日運動が広がっていた。
「反日を煽っているのは文大統領自身なのです。大統領は『北朝鮮との経済協力で平和経済が実現すれば、一気に日本の優位に追い付くことができる』などと挑発的な発言を連発した。もはや韓国政府が率先して、反日運動を煽動しているといっていい状況になっているのです」(ソウル特派員)
過去最悪とも言われる状況にある日韓関係。取材現場からも険悪な空気は随所に感じられた。
両国の懸案事項になっている「経済問題」と「歴史問題」について韓国内の識者に取材を申し込んだものの、立て続けに断わられた。親日発言をしたことで、国内で“売国奴”扱いをされ恫喝や脅迫を受ける例も多い。物言えば唇寒し、という空気が確かに韓国内には充満しているようだ。
そんななか物議を呼んでいるのが、韓国で7月15日に発売された『反日種族主義』という本の存在だ。同書は韓国人学者ら6人による共同著作で、反日種族主義(反日民族主義の意味)の嘘や、その危険性を解説した一冊となっている。
執筆者の一人である李宇衍(イウヨン)・落星台経済研究所研究委員に話を聞いた。
「今まで韓日関係は正常な関係ではありませんでした。なぜならば、歴史問題において韓国側から歪曲された話が多く流布され、日本は大きく傷つけられてきた。特に慰安婦問題と徴用工問題では、事実を歪められ、日本を非難するための道具にされてきた。
今の韓国政府は(日韓基本条約が締結された)1965年以降、最も反日的な政府です。いつこのような事態(日韓経済摩擦など)が爆発してもおかしくない状態でした。だから私たちは、文在寅大統領を始めとする反日種族主義者たちと討論し、正していくことが必要だと考えてこの本を執筆したのです」
昨年、韓国大法院によって下された徴用工裁判における日本企業に対する賠償命令判決は、今日の日韓関係の破局状態を招くきっかけとなった。李宇衍氏は労務問題の専門家として、徴用工問題の研究も行なっている。
「徴用工へのヒアリングを重ね、資料を研究した結果、強制連行や奴隷労働はなかったといえる。韓国人は日帝時代、多くの人が強制的に引っ張られ奴隷のように働かされたと思っています。しかし、日本の制度的にはそうしたものは存在しなかった。それは次の3つのことからも明らかです。
【1】徴用工の賃金は正常に支払われた。【2】労働者には自由があった。【3】お金も自由に使えた。
ある人は真面目に貯金をし、韓国に送金していた。家を建てるために借りた金を返済し、更に農地を買った人もいました。逆に賭博などで賃金を浪費した人も多くいました。徴用工問題は、日本は“絶対悪”、韓国は“絶対善”と考える反日種族主義者たちによって、歴史認識が歪曲されたものだと私は考えています」(李宇衍氏)
7月、スイス・ジュネーブ国連欧州本部で開かれた国連人権理事会のシンポジウムにおいて、徴用工が日本で差別的な扱いを受けてきたという韓国側の主張について、李宇衍氏は「賃金の民族差別はなかった。強制連行や奴隷労働はなかった」と講演した。そのハレーションは大きかった。
「先日も事務所に乱入してきた男にツバを吐きかけられました。電話やメールでも悪口をいわれ、『塩酸をばらまくぞ』など脅迫もたくさん届きました。でも、私はそうした行為に屈するつもりはありません。歴史を正す闘いに挑むつもりです」(同前)
李宇衍氏らが執筆した『反日種族主義』は発売数週間で3万部を売り上げるベストセラーとなっている。反日だけではない新しい考え方は、韓国内でも芽生えつつあるのか。
【プロフィール】赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)/『FRIDAY』『週刊文春』記者を経て今年1月よりフリーに。南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。
※週刊ポスト2019年8月30日号