他人と自分を比較したり、劣等感の意識が強かったり、「自己肯定感の低さ」が原因で、仕事や人間関係がうまくいかないと悩む人は少なくありません。なかには、そんな自分を変えようと、「どんな状況でも前向きでいなきゃ!」と言い聞かせて、素の感情を無視、あるいは否定し、不健康なメンタル状態になってしまう人も…。 【写真】すべての女性にエール!世界の女性リーダーたちが贈るポジティブな名言集 そこで今回は、「自己肯定感」の本来の意味や、自己肯定感が低い人の特徴と心がけたい意識、有毒なポジティブ思考「トキシック・ポジティビティ」について、心理カウンセラーの山根洋士先生にお話しを伺いました。 解説:山根洋士先生(心理カウンセラー) 一般社団法人メンタルノイズ心理学協会チェアマン(会長)。心理カウンセラーとして8,000人以上の悩みを解決。
自己肯定感とは
最近は「自己肯定感」という言葉がひとり歩きして、常にポジティブでいること=自己肯定感が高いと誤解されがちですが、本来の自己肯定感の定義は、「自分はありのままでいい。生きているだけで価値がある」と思えること。 良いところも悪いところも、良いときも悪いときも、すべてを受け入れられることが、本来の意味なのです。
自己肯定感が低い人の特徴
日本人はもともと愛情表現が乏しい傾向にあります。さらに、学校や家庭など、抑制が強い環境などが影響し、日本人の約9割は自己肯定感が低いと言われています。 そのなかでも、自信がない人、劣等感が強い人、何かと過剰に緊張してしまう人は特に低い傾向が見受けられますね。とはいえ、自己肯定感の低さは一概に言えるものではなく、たとえば恋愛や友人関係においては自己肯定感が高いけれど、仕事面では低いという場合もよくあります。 ただし、自分と他人を比較してしまうときは注意すべきサイン。素の状態でいられず、自分を取り繕わなくてはいけない状況が続いてしまうと、心身に負荷がかかってしまいます。
自己肯定感の低さが人間関係に及ぼす影響
自己肯定感が低くなると、物事を天秤ではかり、自分との釣り合いを考えるようになります。この状態が続くと、自分を粗末に扱う人に自ら近づいたり、引き寄せたりする傾向が。 たとえば約束をドタキャンされたり、相手が不機嫌になることが増えたり、依存されたりしても、「しょうがない」と納得してしまう人が多いですね。極度に自己肯定感が低いことが原因で、DVや詐欺の被害にあってしまうケースもあります。
SNSで自己肯定感が低くなるのは本当?
自己肯定感が低くなる要因としてよく挙げられるのが、SNS。たとえば、「SNSで幸せな投稿を見ると焦る」「他人の目が怖くて投稿するのが怖い」など、好きで始めたことが裏目に出ていることも。 しかし、SNSは悪者ではありません。SNSで自己肯定感が低下するのではなく、もともとそういった傾向がある人がSNSを通して周りと比べてしまうことで、さらに低下する と言った方が正しいでしょう。また、今まで自己肯定感の低さを自覚していなくても、SNSをきっかけに意識するようになるパターンも。 心が不安定な状態になったときは、SNSを見ないのも手ですが、利用する場合は、以下の言葉を意識して、他人と比較しないようにしましょう。
自己肯定感が低い人が意識すべき行動
自己肯定感を上げたい人は、自己肯定感の高い人と一緒に過ごすのが一番です。自己肯定感が高い人の多くは、自分のことを大事にできます。だからこそ、周囲のことも大切にできるのです。自然とポジティブな声がけや接し方ができる人が多いので、自己肯定感が低い人も自分を取り戻せるようになり、徐々に自尊心が高まっていくはずです。 自己肯定感が低い人にとって、自己肯定感が高い人は眩しすぎる存在で、近寄りがたいと思ってしまう場合もありますが、勇気を出して付き合っていくことを推奨します。 しかし、自己肯定感が高そうに見える人でも、いつも元気溌剌で無理をしている感じがあるなど、過剰な行動が見られる場合や、ポジティブを押し付ける人とは距離を置きましょう。
「トキシック・ポジティビティ」とは
最近ではSNSなどで、「自己肯定感」に関連して「トキシック・ポジティビティ」という言葉がよく使われています。直訳すると、「有毒なポジティブ思考」という意味で、心の痛みを抱えていたり、辛い困難な状況であったりしても、ネガティブな感情を完全に無視、あるいは排除して、「ポジティブな考え方をするべき」「ポジティブな態度や言葉を発するべき」と、自分や他者による過剰な決めつけのこと。専門家の間では「偽ポジ」「エセポジ」「嘘ポジ」と表現する場合もあります。 ヨーロッパのスポーツ選手が様々なメンタルトレーニングでポジティブ思考を積極的に取り入れた結果、メンタルヘルスが悪化したという事例もあり、過剰なポジティブ思考である「トキシック・ポジティビティ」が危険視されています。
自己肯定感が低い人への寄り添い方
心が弱っている人に「頑張って」「前向きでいなよ!」という言葉はタブーです。頑張ってきた結果、落ち込んでいるので、こういった言葉は傷に塩を塗る行為になってしまうことも。 まずは、その人の話を「聞く・信じる・受け止める」を実践してください。その際に大切なのが、相手を「自己肯定感が低い人」として接しないこと。相手を心配してアドバイスをしたり、特別な声かけをする必要はなく、ただ聞いて、共感してあげるだけで大丈夫。 そのうえで、相手の良いところも悪いところも、すべて受け入れて信じる。そうすることで、当事者も自分のあらゆる側面を受け止められるようになり、「自己納得感」を得られて、結果的に「自己肯定感」を取り戻すことができます。
自己納得感を得るためには
自己納得感を得るには、自分の好き・嫌いを明確にすることから始めます。嫌いなモノ・コト・ヒトが自分でわかってくると、距離が取れるようになりますよね。無理して好きになる必要はないので、ネガティブな要素とは距離を置いて、深追いしたり、願望を抱いたりしなければいいのです。 すると次第に、「やりたくない! でも頑張る」「この上司は嫌い…でもしょうがないからやろう」、というふうに「でも」が生まれ、うまく対処できるように。 悩みや問題に直面したときに自分を責めるのではなく、「自分はこういう人なんだ」と納得できるようになると、「自己納得感」が得られますよね。多くの人は、ありのままの自分を受け入れるようになると、自己肯定感の高い・低いが気にならなくなるところまで辿り付きます。前述の通り、それが本来の「自己肯定感」の意味であり、最終的なゴールなのです。