心配しても92%は意味がない。欧米で注目「考えすぎ」問題への対処法とは

<日本の「繊細さん/HSP」のように、欧米で認知が進む「考えすぎ」の問題。心身の健康に及ぼす影響も大きいが、その原因となる「思考ウイルス」を見つけ出し、健康的に考えることは訓練次第で可能だ>

前の仕事を辞めるべきじゃなかった、リストラに遭って家のローンを払えなくなったらどうしよう……。考えても仕方のないことをついつい考えてしまう「考えすぎ」という状態に、気がつくと追い込まれていることはないだろうか。

ネット上でもさまざまな情報が飛び交うなかで、その状態に陥るのは当然のことかもしれない。「考えすぎ」強要社会とも言える現代を生き抜くのは至難の技だ。

このような気分や不安な状態に対する最先端の治療法として知られる認知行動療法(CBT)を利用し、あらゆる心配や落ち込みを手放す考え方と方法をまとめた書籍『考えすぎてしまうあなたへ』(CCCメディアハウス)が発売された。

著者のグウェンドリン・スミスは、気分障害や不安障害を専門とするニュージーランドの臨床心理学者だ。認知行動療法を用いた「考えすぎ」への対処法をブログで紹介したところ、世界中で話題になった。

そもそも、「考えすぎ」とは、どういう状況を言うのか。著者が最もしっくりきた定義が以下だ。

「考えすぎる」(動詞)
役立つというよりは害になるような方法で、何かについて考えたり分析したりすることに、あまりにも多くの時間を費やすこと。
(Merriam-Webster online dictionary)

欧米ではここ数年、この「考えすぎ(overthinking)」が話題となっている。日本でも近年「繊細さん」という言葉が浸透するとともに「HSP(Highly Sensitive Person)」についての認知が進んだが、「考えすぎ」も同様に、現象に名前がつくことでその存在が浮き彫りになった問題と言えるだろう。

では、この「害になるような」考えすぎ問題に、どのように向き合い、どう対処すればいいのか。認知行動療法の理論に基づきながらも、平易な文章で分かりやすく書かれた本書のエッセンスを紹介する。

ポジティブな考えすぎとネガティブな考えすぎの違い

まず、大切なのが、すべての「考えすぎ」が有害なのではないということ。

我を忘れるほど集中して考えたり、没頭できる状態に幸せを感じられることもある。例えば、結婚式を前に、ヘアスタイルやドレス、式次第について一日中考えていれば多幸感に包まれているだろう。

著者が「ポジティブな考えすぎ」と名付けるこの状況では、ドーパミンやオキシトシン、セロトニン、エンドルフィンなど、いわゆる幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質が活性化している。

しかし次のように考えているとしたら、事情は変わってくる。

どうしよう。ブライズメイドのために用意したドレスの色選びで失敗した。これじゃ新婦の私が太って見えちゃう。「あんなに太っていてドレスのセンスがない女と、なぜ新郎は結婚するんだろう」ってみんなに思われてしまう――。

こうして、ネガティブで破壊的な思考のスパイラルに陥ってしまったら問題発生だ。恐怖心や、ストレスのもととなる過剰反応を引き起こす。

「考えすぎ」に関して医師が心配するのは、それが患者の睡眠の妨げになっているかどうかだ。恐怖心による「考えすぎ」は、睡眠にとって不要な化学物質を脳内で生み出し、睡眠障害を引き起こす可能性がある。

「ネガティブな考えすぎ」により気分に長期的な影響がもたらされるのは明白であり、またそれはうつ病にも深く関わってると、研究で明らかになっている。では、こうした「ネガティブな考えすぎ」を頭から追い出すことはできないのだろうか。

「心配」や「考えすぎ」をやめられない根本原因

なぜ私たちは「ネガティブな考えすぎ」から抜け出せず、心配せずにはいられないのか。実はそれには、子ども時代の経験が大きく影響している。

そもそも子どもが先天的に心配性である確率は25~40%だと著者は言う。そして、子どもは、周りの大人が大丈夫なときにだけ、自分も安全であると生存本能的に考える。

すると、親や周囲の大人が眉間にしわを寄せたり、ため息をついたりしているのを見たときには、大人がそうしているならそれは重要なことで、大人の社会で生きていくために必要なことなのだと認識するのだ。

過剰に心配をする親は、得てしてわが子に対して過保護になりがちだ。そうして親が子どもを心配することで「この世界は、つらいことで満ちあふれた危険な場所だ。安全でいるためには、つねに警戒していなければならない」といったメッセージをいつの間にか子どもが受け取ることになる。

これが、私たちが「心配」や「考えすぎ」をやめられない根本的な原因である。

原因となる「思考ウイルス」は18種類

著者の診察室を訪れる多くの人は、こうした心配が、健康問題や睡眠障害、そして疲労の原因になっていることを理解しているという。にもかかわらず、彼らはそういったクセを手放そうとしない。心配するという行為が、逆に彼らを守ってくれると信じているからだ。反対に、もし心配するのをやめれば、必ず良くないことが起きると思い込んでいる。

このような考えは、迷信にすぎない。心配には、何かを予知したり予防したりする力は備わっていないからだ。

行動は結果を変えるが、モヤモヤと心配をしているだけでは変化をもたらさない。想像上のネガティブな出来事が起きる可能性を小さくするのは、思考ではなく行動だ。事実、心配ごとの92%は、考えたところで結果に影響がないと著者は言う。

では、「やっかいな考えすぎ」には、どう対処すればいいのか。それには、まず自分が何に悩み、不安になっているのかを言語化して書き出すのが一番効果的だ。

ここでは本書に記された、職場で「来週の木曜日にリストラ会議が開かれる」という部署内の一斉メールが送られてきたというシチュエーションで考えてみよう。

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『考えすぎてしまうあなたへ』141ページより

上の表を参考にしながら、以下の手順を試してみてほしい。

(1)A欄に「状況」、つまり起こった事実を簡潔に書く。

(2)B欄にはAの状況を受けて自分が考えたこと、「思考」を素直に書き出してみよう。どんなことでも構わない。人に見せるものでもないので、カッコつける必要はなく、とにかく思ったことを正直に書くことが重要だ。

(3)C欄にはそのときの「感情」(主観でいいので感情の数値化もしてみよう)、「身体反応」、Aの出来事を受けて取った「行動」を書き出してほしい。

(4)最後のD欄には、B欄の思考の中にある「思考ウイルス」を見つけて書き出す。

この表を作る目的は、4の「思考ウイルス」を見つけて取り除くことにある。思考ウイルスとは、簡単に言えば「考え方の悪いクセ」のようなものだ。

事実を極端に0か100かで考えたり(白黒思考)、実際には知りようもない他人の考えを想像したり(読心術)、部内全員に当てられたメールを自分宛てだと思い込んだり(自己関連づけ)と、事実の認知を歪めてしまう思考のバグのようなものを、本書では「思考ウイルス」と呼び、18種類を紹介している。

ついつい「考えすぎ」に捕らわれてしまったときに、こうした思考ウイルスを発見できれば、自分が事実を正確に認識していないことに気がつくだろう。

ほんのちょっとボタンの掛け方を変えるだけで、認識が変われば、言葉の意味が穏やかになり、気分が楽になる。本当に考えるべき諸問題にフォーカスするために、無駄な「考えすぎ」を手放してみてはどうだろう。

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