急増する「お酒で突然キレて暴言や暴力をふるう人」を元に戻す声かけの”3つのポイント”

お酒を飲むと人が変わり、家族に対してキレて暴言を吐いたり暴力をふるったりする。産業医で精神科医の井上智介さんは「コロナ禍でリモートワークが広がり、家でお酒を飲み過ぎてトラブルを起こすという相談が急増している。特に家族は実害を受け、深い悩みを抱えて苦しんでいる」という――。

■在宅ワークで飲酒トラブルの相談が増えている

コロナ禍でリモートワークが広がり、お酒が好きな人は、早い時間から夜遅くまで、好きな時に家で飲めるようになりました。そのためか、適量を超えて飲んでしまうことが増え、「飲むと人が変わり、暴言を吐いたり暴力をふるったりする」という家族に悩んで疲れ果てて私のところに相談に来るというケースが最近特に増えています。また、リモートワークの残業時間中に、飲酒をしながら仕事をしている社員がいて、ほかの人とのトラブルになって困っているといった、今までになかったような相談も出てきています。

夕方早くから飲み始めて、食事でさらに酒が進む。酔っぱらってだんだん目が座ってきて、スイッチが入ってしまい、家族に向かって「お前はダメな人間だ」「子どものしつけがなっていない」などとなじり始める。ささいなことでキレて怒り出し、暴言を吐いたりモノを壊したり、暴力をふるったりすることもあります。そもそもお酒には、気を大きくする作用があるので、飲むと万能感が生まれ、理性が働かなくなってしまうのです。

■酔っている人には何を言っても届かない

飲んでキレてしまう、暴言を吐いたり暴力をふるってしまう家族に、周りはつい「迷惑だからやめて」「飲み過ぎだから、もうお酒はやめて」と言いたくなりますが、本人の耳にはまったく届きません。もともと人は自分の行動を制限されたり、コントロールされたりするとイヤになりますから、お酒でタガが外れている人にこうした苦言を呈しても、火に油を注ぐばかりで、さらなるトラブルに発展してしまいます。危険なNG対応だと言えるでしょう。

また、家族がこうした問題行動を起こすと、「私が何とかしなくては」と頑張ってしまう人も多いですが、それもやめた方がいいでしょう。

例えば、二日酔いがひどくて会社を休むときに、本人の代わりに家族が会社に連絡を入れる、といったことです。これは本人がやるべきです。自分が招いたことですから、自分で責任を取らなくてはなりません。お酒の失敗の後始末は自分でしないと、ますます「お酒を飲み過ぎる」ということに対して抑制が利かなくなります。

また、「家にお酒がないと怒ってケンカになるから」と、家族が準備しておくのもよくありません。これではいつまでたっても飲む量は減りません。

飲酒の問題に限りませんが、やはり家族であっても、それが相手の問題なのか、自分の問題なのか、その境界線はしっかり引いておかなければ、相手に振り回されて共倒れになりかねません。

■自分とパートナーの関係を見つめ直す

では、こうした場合はどうしたらよいのでしょうか。

まずは、夫婦は対等であるという立ち位置をしっかり確認し、「自分がどうしたいのか」を見直すことが大切です。「夫なのだから、妻なのだから、こうするのが義務」「世間体を考えて、私が我慢しなければ」ということではなく、自分の望みにしっかりと向き合ってください。

「お酒を飲んでいる時はひどいけれど、しらふの時はすばらしいパートナーだと思う。だから私はやはり支えたい」「しらふの時はよいけれど、やはりお酒を飲んだ時の様子は耐えられないからもう我慢できない」など、本音ではいろいろと望みがあると思います。義務や世間体を優先して、自分の望みを後回しにしないでほしいと思います。

■しらふの時間をどう増やすか

自分の願望を捉え直したうえで、もし離れたいなら、その方向で話を進めていくしかありません。でも、もし「また以前のような、楽しい時間を取り戻したい」ということであれば、簡単なことではありませんが、いくつかお勧めしている方法があります。

まず、「お酒をやめさせる」など、本人を変えようとするのは難しいでしょう。でも、しらふの時間を増やすよう、環境を変えることを考えてください。例えば、簡単な家事をお願いする、一緒にお弁当を持って近所の公園に行く。本人が好きなことを「一緒にやろう」と誘うようにします。日帰り温泉や、スポーツ観戦に誘うのもいいでしょう。1日24時間の中で、いかにお酒を飲む時間を減らして、しらふで楽しめる時間を増やせるかを考えるのです。

お酒を飲み過ぎる人は、ストレス解消法の選択肢が少なく、時間があれば飲むことでストレス解消しようとする傾向があります。ですから、なるべくお酒以外のストレス解消を促して、しらふの時間を増やしていきます。

そして、しらふの時間をしっかり肯定してあげてください。たとえば、家事をしてくれたら「ありがとう」「本当に助かった」、一緒に出掛けたときは「楽しかった」「つき合ってくれてうれしかった」と、言葉にして伝えます。「お酒を飲まなくても満たされる」状態を増やすことで、「お酒を飲む必要のない環境」をつくるサポートをしましょう。

■しらふの時を選んで伝える

さきほど、酔っている人には、いくら苦言を呈しても届かないとお伝えしました。ですから、「こうしてほしい」という希望を伝えるときには、本人がしらふの時を選びましょう。

ただ、酔っている時に受けた暴言や暴力に対する怒りやフラストレーションを、そのまま伝えると、どうしてもとげのある言い方になり、相手を怒らせてしまうばかりです。伝え方には工夫が必要です。ポイントは3つあります。

お酒が入ったグラスを取ろうとする男性を止める女性

写真=iStock.com/yacobchuk

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/yacobchuk

■伝えるときは「アイ(I)メッセージ」で

1点目は、「アイ(I)メッセージで話す」ことです。アイメッセージとは、「I(アイ)」、つまり「私」を主語にして伝えるメッセージです。大人同士だけでなく、子どもに伝えるときにも役立ちます。

「(あなたは)お酒を減らすべき」「あなたがお酒を飲むと、みんなが迷惑する」など、「私」以外を主語にした言い方をすると、ケンカになってしまいます。そうではなく「私はあなたの体調が心配なんだ」「私は、お酒を飲んで怒ったあなたの顔を見るのがつらい」など、「自分はこう思っている。こう感じている」といった伝え方をします。

■「禁止」の表現を使わない

2点目は、「肯定的な表現をする」ことです。「~しないで」「~はダメ」といった、否定形の言い方ではなく、「~をして」といった表現にします。

例えば「休日だからって、朝から飲まないで」と、何かを禁止されるような言い方をされると、相手は自分を否定されたような気持ちになり反発したくなります。そうではなく、「仕事が終わってすぐよりも、晩ごはんの時に一緒にビールで乾杯する方が楽しいよ!」など、否定的な表現を避けて、前向きな言い方でこちらの希望を伝えましょう。

■伝えることは一つに絞る

3点目は、一度にいくつも言わず、簡潔に一つだけ伝えることです。家族としては、あれもこれも言いたくなりますが、言いたいことを一度に全部伝えようとすると、感情的になってしまいますし、相手も説教をされているように感じて素直に受け取ることができません。ですから、伝えるなら1日1個だけにします。「あなたが飲むと声が大きくなって、私はこわい思いをするのよ」。これだけで十分です。

■「依存症に片足を突っ込んでいる」状態

常にお酒がないと我慢できないというほどではなく、日常生活も送れているし、仕事にも休まず行けている。こうした状態は、アルコール依存症とは言い難いですが、お酒を飲むと人が変わり、突然キレて暴言を吐いたり、暴力をふるったりするなどして、家族は大きな悩みを抱えて苦しんでいます。

お酒を飲むと人が変わってしまい、飲む量をコントロールできないというのはかなり問題で、アルコール依存症に片足を突っ込んでいると言ってもよいでしょう。いかに早い段階で手を打てるかが重要になります。しかし、コロナ禍でテレワークが進み、会社の飲み会が減って、「家で飲むことができる時間」が増えています。「片足を突っ込んでいる状態」から「両足を突っ込む状態」に移行しやすい環境になっています。

アルコール依存症になると、どんなものよりも酒が大切になってしまい、場合によっては家族や仕事よりもお酒を優先してしまいます。人生の中で大切なものの優先順位が変わってしまうのです。

■不安やつらさを吐き出せる場を

ただ、そうならないためには、本人の意思の力だけではどうにもなりません。飲酒の習慣は、自分の力だけで断ち切るのが非常に難しく、家族の力が重要になります。しかし家族にしてみれば、逃げ場がなくて本当に大変です。

お酒の悩みは、直接実害を受けるのも家族ですし、どうしても家庭で抱え込みがちです。なかなか友人や知人には相談しにくく、依存症までいかないのであれば、本人に病院に行くよう促すべきなのかも判断がつきにくいでしょう。

だからこそ、不安やつらさを吐き出せる場所を持ってほしいと思います。カウンセリングや、お酒の問題を抱える人やその家族を支援するNPO法人に相談するのもよいでしょう。話を聞いてもらう場所を持ち、ひとりで悩みを抱えて孤立することを避けてください。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)

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