性格の悪い中年はますます淘汰されてゆく。その理由は40代を境に急降下する「EQ」

EQ(Emotional Intelligence Quotient)は、「心の知能指数」と言われており、「頭の知能指数」であるIQに比する存在としてここ最近注目されている指標だ。「自己認識」、「自己管理」、「社会認識」、「人間関係の管理」の4つの枠組みから形成されており、それゆえおのずとEQの高さはコミュニケーション能力の高さに比例してくる。

前回は、今後EQを高めるべき3つの理由のうち、「コミュニケーション不全の弊害」について紹介したが、今回は「労働環境の変化」と「AIの台頭」の2つについて述べていきたい。(前回参照:深刻化する「職場のコミュニケーション」不全。働き方の多様化に併せて対策を講じるべし)

顧客のニーズの細分化や、目まぐるしく変化する世相によって、労働者もが多様化する現代。世代や性別、人種、宗教などを異にした企業内やチーム内の人間同士が同じゴールを目指すのは、決して簡単なことではない。

中でも「世代の違い」による意思疎通の難しさは、多くのビジネスパーソンが抱える最も身近なストレスの1つだろう。前回でも紹介したように、各世代で生じるコミュニケーション手段の違いや、それに伴う「ひと言の価値」の差によって、ここ20年で異世代との間にはかつてないほどのコミュニケーションギャップが生じるようになった。

語気を荒げて現場で社員を怒鳴りつけたり、静かに背中で語ったりすることも、ある種1つのコミュニケーションのカタチだとしてきた40代以降の大人世代と、以前配信した「日本人の”マスク愛”の根源は何なのか? その周辺にある感情を探ってみた」という記事でも紹介したような、他人との関わり合いをマスクで遮断しようとする、いわゆる「対人恐怖症」に悩む人が急増している若者世代との間には、どうしてもコミュニケーションの摩擦が生じやすい。

世代の違い以外にも、男女間にある価値観の違いや、加速する社内のグローバル化によって、不要な衝突が生じることもしばしばだ。外国人労働者の文化的背景を理解しようとせずに“日本スタイル”を一方的に押し付けたり、異性社員に対するひと言がセクハラに発展したりすれば、会社やチーム内でほころびが生じ、全体のパフォーマンスも低下する。

こうした多種多様な社員の間に挟まれる環境に置かれることが多いのが、年代的にもポジション的にも中間層にあたる、40~50代の課長や部長だ。社内やチーム内にある価値観の違いを取りまとめ、潤滑油としての役割を果たさなければならない彼らには、冷静に社員1人ひとりの感情をコントロールする高いEQが必要とされる。

◆AIが台頭すればEQはますます必要とされていく

ところが皮肉なことに、EQが著しく低下すると言われているのも40代ごろから。

社会的経験がモノを言うEQは、年齢を重ねるにつれて自然と高まっていくものだと思われがちだが、人間の感情のコントロールには、前頭葉の働きが深くかかわっており、老化で脳の機能が落ち始めると、感情も乱れやすくなるのだ。無論、何もしなければEQは年を取るにつれ、その後もどんどん落ちていく。高齢者に「キレやすい」人が多いのもこのせいだ。

こうした中、多様性に富んだ部下や上司に挟まれ、背負う責任感も増えると、感情のコントロールはより一層難しくなる。それゆえ、世代においても役職においても中間にあたる40~50代は、他世代よりもEQを高める意識を持つ必要があるのだ。

高いEQが必要になる3つ目の理由が、「AIの台頭」だ。

我々の日常生活において、AIはすでに様々なシーンで実用化されており、同時に人間のワーキングフィールドをも侵食し始めている。2045年には「シンギュラリティ(AIが人間の知能を超えること)」に到達するというのは有名な話だ。

実際は、目まぐるしく変化する現代社会において、誰も30年後の状態を正確に言及することはできないが、1つ言えるのは、ルーティン化された人間の仕事は、今後少しずつAIに代替され、人間の仕事は、AIがタッチできない「人間同士の意思疎通」が必要な業務に絞られていくことだ。

昨年、アメリカの経営学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」で紹介された「The Rise of AI Makes Emotional Intelligence More Important(AI台頭はEQをより重要にさせる)」でも、「今後人間ができるAIにできないことは、今までの経験や習慣を利用すること」、「今後も現職を維持しようとするならば、人類の理解や動機付け、相互理解を追求する必要がある」、「説得力や社会的理解、共感などは、人間が人工知能と差別化できるスキルだ」と、今後のEQの重要性を説き、全米で話題となった。

AIが人間の仕事をするようになれば、人間1人ひとりのIQはビジネス面において、それほど重要なものではなくなってくる。つまり、人間がAIの時代を「労働者」として存在し続けるためには、IQよりもEQをより強化していく必要があるのだ。

インターネットの普及で、同じ空間にいてもメールやSNSで会話するようになった現代。一度は希薄になった人間と人間の繋がりは、今後、加速する職場の多様化や、AIの台頭で、再び強いものになっていく。その中で、自身や周りの感情を管理・利用できることは、これから先、最も必要とされる能力の1つになるに違いない。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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