怖い話や恐怖映像といえば、季節を問わず盛り上がるテレビの定番コンテンツ。
今年も『ほんとにあった怖い話-夏の特別編2017-』(フジテレビ系)や『最恐映像ノンストップ5』(テレビ東京系)などの人気シリーズが夏の夜をにぎわせたが、そんななか『世界の怖い夜!』(TBS系)が心霊写真の合成疑惑で炎上したのは記憶に新しい。
【写真】『これも怪談!?~2016秋~』で怪談を披露する吉田悠軌さん
ホラードラマやフェイクドキュメンタリーと違って、現実に起きた(とされる)モノ、コトを扱うスタンスの番組、特に霊が映りこんだ写真・映像を扱う番組には、「非科学的」「やらせ」「捏造(ねつぞう)」などの批判が寄せられやすい。それゆえネットなどでは、「心霊番組が放送しづらくなっている」とささやかれている。
全国ネットの放送がリスキーな番組は、主戦場をCSやインターネット放送などの比較的クローズドな場に移す傾向にあるが、「近年、クローズドな放送局で勢いがあるのは、心霊モノより怪談モノです」との指摘もある。発言主は、怪談サークル「とうもろこしの会」会長で、オカルト・怪談研究家として『クレイジージャーニー』(TBS系)などにも出演する、文筆家の吉田悠軌さんだ。
なぜ心霊モノより怪談モノ? そもそも怪談系の番組とはいったい? 吉田さんに話を聞いた。
――近年、心霊番組に逆風が吹いているとの指摘があります。さまざまな理由がささやかれていますが、吉田さんはどう見ていますか?
吉田さん たとえば80年代に黄金期を迎えた、心霊スポットで霊視するような番組がありますよね。あのロケって相当なお金がかかるんです。そのわりに、使える素材はほぼ撮れない。そうそう奇怪な現象なんて起きませんからね。そこで重宝されていたのが、宜保愛子さんや稲川淳二さんです。決定的な映像や音声が押さえられなくても、彼らが「いますよ……ほらここに」と言えば、視聴者に恐怖が伝わった。それで番組が成立していたわけです。ところが今は、彼らと同じレベルで「何も起きなくてもコンテンツとして成立させられる人」がいなくなってしまった。だからといって、放送倫理が厳しく問われる中、やらせを疑われる過剰な演出や、本物か疑わしい写真・映像で乗り切るのはリスクが高すぎる。そうした理由で、徐々に全国ネットで放送しにくくなっていったのだと思います。
――クレームや炎上を避けるなら、CSやネットなどの比較的クローズドな場で放送する手もありそうですが、それらの局で実際に広がりを見せているのは「怪談モノ」と指摘されていますよね。そもそも怪談系の番組とは、どんなものでしょう?
吉田さん 心霊モノのような映像・画像が主体の番組と違って、「スタジオに語り部が集まり怖い話をする」という比較的シンプルな構造の番組です。代表的なところでいえば、関西テレビの『怪談グランプリ』。他にも、『実話怪談倶楽部』(フジテレビ ONE TWO NEXT)、『怪談のシーハナ聞かせてよ。』(エンタメ~テレ)、『これも怪談!?』(AbemaTV)など、いろいろあります。私が怪談の語り部を始めたのは12年近く前ですが、当時は怪談系の番組自体がほぼ皆無。そこから考えると、コンテンツとして大きく広がっています。
――「怪談」というと古典的な怖い話をイメージしますが。
吉田さん もちろん四谷怪談のような事実を基にした創作モノもありますが、私は最近の事件・事故にまつわる奇怪な話を含め、近代科学では説明がつかない恐ろしい体験談を採集し、披露しています。
――なぜ、そういった怖い話を語り合うだけの番組がクローズドな放送局で増えているのでしょうか? 放送倫理が厳しくないのなら、画像・映像主体の攻めた番組もできそうですが。
吉田さん 端的にいえば怪談番組は低予算で作れるからです。クローズドな放送局は全体的にお金がありません。それゆえ放送倫理の問題ではなく、予算の問題で凝った番組作りが難しいこともあります。そうなった場合、怪談番組ならスタジオで出演者が怖い話をするだけですから、制作費も抑えられる。問題はそれで視聴者は楽しめるのかということですが、『人志松本のゾッとする話』(フジテレビ系『人志松本の○○な話』のワンコーナー)が成功しましたよね。あの番組のヒットは、怪談番組の拡大に影響を与えたと思います。
――スタジオで怖い話を語れる人は今の時代、豊富にいるわけですね。
吉田さん ここ数年で増えたんですよ。きっかけはおそらく、7~8年前に都市伝説の関暁夫さんや手相占いの島田秀平さんらがストーリーテラーとして活躍し始めたことだと思います。この頃から芸人やタレントに加え、私のようなインディーズの語り部も急激に増えました。それと並行してネット番組の台頭など多チャンネル化も進み、怪談番組が広がる素地が整っていった印象ですね。
――心霊番組はクレームが少なくないと聞きますが、怪談番組はそういう心配はないのでしょうか?
吉田さん あまり想像がつきませんが……あるとしたらプライバシーに関する苦情とかですかね。
――プライバシーの侵害ですか?
吉田さん そうです。私が取材しているものの中には、殺人事件や死亡事故などの遺族がいらっしゃることもあります。その方たちの情報をたくさん明かすほうがエピソードの精度が高まりますが、それはプライバシーの侵害と表裏一体。不謹慎だったり、人を傷つけてしまったりすることもあります。その点への配慮から、私がエピソードを披露する時は、遺族や関係者は匿名に、現場の住所も一部しか公開しないようにしています。
――それが怪談の語り部としてのマナーだと。
吉田さん いや、同業者はもっと厳しくて、プライバシーや事件に関わる情報は極力伏せるのがマナーと考えられています。ただ、私はルポルタージュ的なアプローチで怪談を採集、披露しているので、きちんと取材をしていることを伝えるべく、周辺情報はそれなりに明かすようにしています。
――そのスタンスでクレームが来たことは?
吉田さん 今のところありませんね。それこそ、怪談現場の情報を明かすことで「物件の価値が下がる」「入居者が減る」といった苦情も受けそうなものですが、そういったこともありません。まあ、面白おかしく脚色していたら問題ですが、報道にあるような事実をありのままに語っているだけなので。
――単刀直入にお聞きします。怪談の仕事はもうかるものなんでしょうか?
吉田さん いや、正直全くもうかりませんよ(笑)。怪談一本で食べている人なんていないんじゃないかな。この業界のトップに君臨する稲川淳二さんだって怪談以外の活動をされているし、 我々のようなインディーズの人間は、文化人枠でメディアに出演するので、その収入は小遣い程度のもの。各地のライブハウスなどで行われる怪談イベントもたいした稼ぎにはなりません。文筆業は比較的手堅い収入にはなりますが……まあ、それでも怪談本が突然ベストセラーになることなんて想像がつかないですね。
――テレビをはじめメディア露出が増えると、企業の忘年会など「営業」的なものに呼ばれる機会も増えそうですが。
吉田さん いや……そこはめったにお声がかかりません。というのも、怪談は「死」にまつわるコンテンツですから、誰もが気軽に楽しむ「営業」と極めて相性が悪い。芸能界に置き換えれば、CMに起用されにくい立場ということです。最大級の収入源を断たれるわけですから、コンテンツ産業の1軍はおろか2軍にもなれないわけで、当然もうかりませんよね。
――誰もが気軽に楽しめるライトな怪談というのはあり得ないのでしょうか? 『やりすぎコージー』(テレビ東京系)の都市伝説を語る回のような。
吉田さん まあ、あれは怪談ではありませんが、おそらく「営業」の発注先もそういうものをイメージしているのでしょうね。「ちょうどよく刺激的で、ちょうどよく楽しめる」みたいな話を。でも、いわゆる「実話怪談」というジャンルはもっとエグいもので、聞いた後に後味が悪くなることも少なくありません。また、バラエティー番組の場合は、ツッコミ役がいたり良い感じに怖がるタレントがいたりするから、適度な盛り上がりを演出できるのであって、怪談の語り部一人でそういう空気を作るのは難しい。その辺があまり一般的に理解されていないような気がしています。
――そういう意味では使い勝手があまりよくないコンテンツであると。
吉田さん だから、「怪談」というコンテンツが今後爆発的に広がったり、注目されたりすることはないと思います。繰り返しになりますが、「死」にまつわるものなので、どうしてもクローズドな場で扱うことが多くなってしまいます。他方、いつの時代も一定のファンがいる。その人たちに支えられながら、これからも大きな浮き沈みがなく続いていくのではないでしょうか。
(文・&M編集部 下元 陽)