愛車のお届けは、もうやめます――。働き方改革の一環で、青森トヨタ自動車(青森市)が車検や新車の納車時に客の自宅まで車を届ける「納車引き取り(納引〈のうび〉き)」をやめたところ、従業員の残業時間が従来の5分の1になった。自動車販売業界では同様のサービスが慣例化されており、同社の取り組みは業界に一石を投じそうだ。
納引きは、取引のある客の車が車検時期を迎えた際、整備工場の従業員が、客の自宅を訪ねて引き取り、検査が終わればまた自宅に出向いて納車するサービス。車を購入した客に対しても、販売店の従業員が自宅まで届けるケースがある。
同社によれば納引きはこれまで、車検の取り扱い全体の半分以上に及んでいた。従業員が、職場と顧客宅との往復に時間を取られ、本来の業務である整備や営業が後回しになり、1カ月の残業時間は平均約25時間に上っていたという。
そこで同社は納引きの廃止を決め、昨年11月、青森県内の顧客約3万5千人に理解を求める文書を小野大介社長名で発送。納引きする車を約2%にまで減らしたところ、今年1~3月の月平均残業時間はそれまでの5分の1に当たる約5時間に収まった。残業代も1人あたり約4万円から約8千円に下がったが、差額分は会社の収益を加味して従業員に支払うことで、意欲をそがないよう配慮した。車を持ち込んだ客には代車を貸し出しているという。
同社の小寺秀樹専務取締役は「客離れもほとんどなく、売り上げは維持している。思い切った改革をしなければ従業員のワーク・ライフ・バランスは改善できない」と話す。
自動車業界に詳しい日本政策投資銀行東海支店の塙賢治次長は「納引きは多くの販売店で行われているが、やや過剰なサービスと言え、客がそこまで求めていない可能性を考えると、やめることは一つの選択肢。中長期的に見て客が離れないのであれば、他の会社にも広がるかもしれない」と指摘している。(中野浩至)