感染急増「子ども」にワクチンを受けさせるべきか SNS上のデマ拡散、黒幕は40億円荒稼ぎの実態

国内で若年層の新型コロナ感染者の増加が著しい。子どもは重症化しづらいとはいえ、皆無ではない。

 今のところ、新型コロナの唯一の予防手段がワクチンだ。だが、副反応に関する報道が先行しがちで、自身は接種しても「子どもへの接種には不安がある」という親御さんも多い。

 そこで以下、未成年への感染の広がりとワクチン接種の是非、不安をあおるデマの真相について、現時点での情報と見解をまとめておきたい。

20歳未満の新規感染が全体の「2割」へ

 7月13日、東京都で初めて、基礎疾患のない10歳未満の女児が感染後に重症化し、人工呼吸器を着けて治療を受けていることが公表された。感染者数の分母が大きくなれば、重症化する子どもたちが増えるのは避けられない。

 ナビタスクリニックでも、風邪症状で受診した親子や家族が揃ってPCR陽性というケースが目立ってきている。「子どもは無症状が多い」と言われてきたが、乳幼児でさえ症状がある子は確実に増えている、というのが現場の実際だ。

 厚生労働省が公表している最新の「性別・年代別新規陽性者数(週別)」(8月17日更新)を見ると、直近の1週間では10歳未満の感染者が全国で約7500人、10代は約1万5000人になった。これまで最多だった5月の第4波でも、20歳未満の感染者は合計で1週間に5000人超止まりだった。

 実は前週は10歳未満は5000人超、10代が1万人超で、いずれも1週間で1.5倍という驚異的なスピードで増えている。それぞれ60歳以上の高齢者のどの年代よりも多く、合わせると感染者全体の約18%に上っている。

 高齢者の感染が鈍化したのは、65歳以上人口の8割以上がすでにワクチンの2回接種を完了していることが大きいだろう(日本経済新聞「チャートで見る日本の接種状況コロナワクチン」による)。対して未成年は、11歳以下(小学生以下のほとんど)がまだ接種を受けられないことが、今後への大きな不安要素だ。

 読売新聞オンラインによると、10代の感染が急増したのは6月後半からで、6月20~26日の1週間の感染者は前週の1.7倍となっている。国立感染症研究所の推計で、デルタ株が東京、埼玉、千葉、神奈川で30%程度に達した頃だ(6月28日時点)。

 6月11日時点の国立感染症研究所の報告では、まだアルファ株(英国型)を中心にベータ株(南アフリカ型)とガンマ株(ブラジル型)の3系統が合わせて9割を占めており、デルタ株は「全体に占める割合は極めて低い」とされていたが、2週間で状況は大きく変わっていた。

 さらに直近、8月13日時点の同研究所の推計では、東京都ではデルタ株などがすでに95%を占め、「ほぼ置き換わった」とされている。アメリカ疾病対策センター(CDC)は、デルタ株は「水ぼうそう」に匹敵する感染力の強さとみているようだ(ワシントンポスト、7月29日)。

 水ぼうそうウイルスは1人の患者から10人前後にうつる感染力を持ち、デルタ株がこれと同等かどうかについては議論もある(ナショナル・パブリック・ラジオ、8月11日)。それでも、少なくとも陽性者1人から周囲の7人に広がる感染力であることは、異論がないようだ。従来株やインフルエンザは患者1人から1.5~2人にうつる程度だったのと比べれば、4倍前後の強さだ。

 現在、最も新規感染者が多いのは20代の男女である。中高年よりも若年層が感染しにくいわけでないのは明らかだ。ナビタスクリニックでも、若者~未成年のPCR陽性者が急増している。先日は、0歳の赤ちゃんもPCR陽性となってしまった。親からの家庭内感染だ。

 デルタ株の拡大を実感せざるをえない。

 8月下旬から全国各地の小・中学校、高校は、新学期がスタートする。デルタ株の流行拡大も、まさに正念場を迎えると言っていいだろう。

子どもはかかっても症状が軽い?

 「子どもはかかっても症状が軽いなら、問題ないのでは?」という親御さんもいるだろう。だが、「軽症」という言葉の響きから、無症状に近いものを想像していないだろうか。

 『The Lancet』に掲載された英国キングスカレッジ・ロンドンの調査(8月3日付)によれば、新型コロナに感染して症状が出た子ども1734人について、最も一般的な症状は、頭痛(62.2%)と倦怠感(55.0%)だった。5~11歳児では、次いで発熱、喉の痛み、腹痛、咳と続き、12~17歳児では喉の痛み、嗅覚異常、発熱、咳と続いた。

 風邪に似た症状だが、風邪と違って新型コロナはだいぶしつこい。平均で、5〜11歳では5日間、12〜17歳では7日間、症状が消えなかった。決して短いとは言えないし、新型コロナは発症から5日以上たって急変することが多いので楽観できない。

 同調査では、一般的な症状の経過として、頭痛、倦怠感、喉の痛みが初期に現れ、倦怠感がそのまま持続、頭痛も続くことがあるとしている。嗅覚異常は、多くは後期にのみ現れる。

 全体としては74.5%に発熱、咳、嗅覚異常のいずれか、もしくは複数が見られ、発症から1週間以内に頭痛・倦怠感などと併せて6種類もの症状が重なる子が多かった。これはキツイ。

 さらに、新型コロナで特徴的なのは、いわゆる「ロング・コビッド」と呼ばれる後遺症だ。ウイルスが体内から消えて「治った」はずなのに、様々な症状や障害が長く残ったり、後から次々と体に生じたりするケースが後を絶たない。

 子どもでも「ロング・コビッド」は起きるのか?

 同調査では、4週間以上症状が続くロング・コビッドを経験したのは1734人のうち77人(4.4%)で、どちらかと言えば5~11歳児よりも12~17歳児に多かった。さらに追跡できた1379人のうち1.8%にあたる25人では、8週間以上症状が続いたという。ただし、4週目以降、症状は初期と比べて弱まっていった。

 イタリアの研究では、当初の症状の有無によらず、感染判明から60日以上を超えて追跡調査された子どもたちについて、特に不眠症(18.6%)、呼吸器症状(胸部の痛みや圧迫感を含む、14.7%)、鼻づまり(12.4%)、倦怠感(10.8%)、筋肉痛(10.1%)、関節痛(6.9%)、集中力の低下(10.1%)が多く報告されている。

 また、『Nature Medicine』に掲載されたノルウェーの調査では、軽症で自宅療養となった16〜30歳の若者でも、52%に半年後もロング・コビッドが確認された。味覚や嗅覚の喪失(28%)、倦怠感(21%)、呼吸困難(13%)、集中力の低下(13%)、記憶障害(11%)などが報告されている。

 全体から見れば、子どもではロング・コビッドに陥る割合は小さく、比較的軽症かもしれない。しかし、例えば味覚障害や倦怠感、集中力の低下といった症状の苦痛は、本人にしかわからない。

 身体的にも社会生活の上でも成長著しいこの時期に、1カ月以上も症状が続くとしたら……。決して軽くみていいものではないだろう。

12~15歳へのワクチン、副反応と予防効果は?

 結論として、私は対象年齢に達したお子さんには接種をおすすめしている。若年層への感染拡大を目の当たりにしていることもあり、ワクチン接種のメリットがリスクを上回ると信じているからだ。

 12~15歳を対象としたファイザーのワクチンの臨床試験を確認しておこう。結果は5月27日付の『New England Journal of Medicine』に掲載された。

 対象となったのは、健康状態の良い12~15歳の男女2260人で、ランダムに約半数をワクチン群、残り半数をプラセボ(偽薬)群とした。ワクチン群の97%超が2回接種を完了した。

 安全性については、接種後に注射部位の痛み(79〜86%)や倦怠感(60〜66%)、頭痛(55〜65%)、寒気などが見られたが、大半は軽いか中程度の症状だった。38℃以上の発熱は、1回目接種後の10%、2回目接種後の20%に見られた。全身症状は2回目接種後のほうが多かったものの、いずれの症状も通常1~2日で回復した。

 重い症状としては、14歳の少年に1回目接種後40℃超の発熱が見られた以外、アナフィラキシーや血栓症などは報告されていない。

 一方、2回接種の有効性については100%との推定が出た。2回目接種から7日後以降、ワクチン群に新型コロナの発症者はいなかったが、プラセボ群では18人が発症した。免疫反応を見るために2回目接種から1カ月後に計測した中和抗体の数値も、16~25歳を上回り、若年層への効果が高いことが示された。

 これに比べ、1回接種のみの段階では、ワクチン群3人とプラセボ群12人が新型コロナを発症している。いずれの場合も重症患者はいなかった。

 以上、ファイザーワクチンに関しては12~15歳への高い安全性と有効性が報告され、これを踏まえて国内でも6月1日から接種対象者が12歳以上へと拡大された。

 もう1つ、モデルナのワクチンも、7月26日に12歳以上へと接種対象年齢が引き下げられている。同社ワクチンの国内供給を担う武田薬品工業によれば、モデルナがアメリカで実施した12~17歳の3732人を対象とした臨床試験で、有効性と安全性が認められたという。

 ファイザー同様に、18~25歳より高い免疫反応(中和抗体価)も確認され、2回目接種後2週間以降の高い発症予防効果が示唆された。重大な安全性の懸念は報告されなかった。

頭痛や倦怠感は、感染よりずっとマシ

 こうして良好なデータのもとに導入されたワクチンだが、国内では12歳以上の若者への接種は思った以上に進んでいない。理由は2つ。ワクチンの供給が追いついていないことと、やはり副反応への不安からの様子見が多いことだ。

 一般的な副反応については、上記の通り深刻な症状のリスクは低い。それでも特に2回目接種後は、頭痛や倦怠感、発熱などの全身症状は、ある程度は甘受していただくしかない。「感染するよりマシ」と思っていただいて、そのつもりで準備しておこう。

 普段飲んでいる痛み止めや頭痛薬等があれば、それでいい。そういうものがない場合は薬局で、市販の小児用頭痛薬を購入しておくといいだろう。アレルギーや持病等で飲める薬が限られる場合は、かかりつけの小児科にあらかじめ相談しておきたい。

 もう新学期が始まるが、2回目接種の翌日(場合によっては翌々日も)は学校を欠席する必要があるかもしれない。中学生以上なら普段の留守番は1人でするところだが、できれば今回は親御さんも仕事をお休みするなどして付き添ってあげたい。難しければ、誰か一定時間ごとに実際に様子を見に行ける人を頼みたいところだ。

 なお、頻度は低いが、10代男性の接種後の副反応として知っておいたほうがいいものに、「心筋炎」や「心膜炎」(心臓の筋肉や膜に炎症が起きるもの)がある。

 アメリカCDCの6月23日の報告では、接種後の心筋炎・心膜炎は10代後半~20代の男性に多く、ピークは20歳前後。男性が女性の8倍で、主に2回目接種から2日前後(~4日)に、ファイザーとモデルナおしなべて100万接種あたり12.6人に発生している。

 それでも、心筋炎や心膜炎の症状が確認された患者323人のうち、309人が入院後まもなく退院し、9人が2週間以上の入院となった一方で、14人は入院もしていなかった。また、日本国内ではこれまで100万接種あたり0.6~0.8件との報告にとどまっている(ただし若年層の接種が進めば数字は変わってくるだろう)。

 いずれにしても、接種後にもし胸の痛みや呼吸困難、脈拍の乱れを感じたら、直ちに受診していただきたい。心筋炎・心膜炎でも迅速に適切な治療を受けられれば、大事には至らない。

デマ拡散で巨額の収益を上げる「反ワクチン産業」

 その他、新型コロナワクチンの副反応に関しては、世界中で突拍子もないデマが流れている。

 鉄が含まれるわけでもないのに注射部位に磁石がくっつく(腕にマイクロチップが埋め込まれる)、DNAに組み換えが起きる、女性は不妊になる、といった類だ。耳にしたことのある方も多いだろう。

 悪質なのは、こうしたデマが意図的に、ごく一握りの人間の利益のために生み出され、世界中に拡散されていることだ。かつては「運動」レベルだった反ワクチンキャンペーンが今や「産業」にまで成長し、人類に不利益を生じさせている。

 アメリカ・英国で展開している非政府組織CCDHの報告書によれば、今年2月1日から3月16日までの1カ月半の間に、主にFacebookとTwitterを通じて世界に81万2000件のワクチン関連デマが発信された。その65%は、わずか12人(22組織)の反ワクチン運動家の活動から生み出されたものだったという。

 彼らは自然派を謳い、政府の陰謀説を流布し、新型コロナウイルスの存在を否定するなどして、ワクチンや医師を貶めようとしてきた。センセーショナルなメッセージが耳目を集め、今年3月までにSNS上でのべ5920万人ものフォロワーを獲得した。最新の報告書では、その数は6200万人を超えている。

 反ワクチン業界は、そうして集めたフォロワー相手にセミナーを開き、会費を徴収し、サプリメントや本の販売などを行ってきた。CCDHの別の報告書では、業界全体の収益は年間少なくとも3578万ドル(39億円超)に上ることが示されている。のみならずアメリカ連邦政府の給与保護プログラム(PPP)からも、少なくとも合計151万ドル超(1億6600万円弱)の融資を受けている。

 実質的にその片棒を担いできたビッグ・テック(Google、Facebook、Instagram、YouTube、Twitterといった世界的規模のアメリカIT企業群)に対しても、批判が高まっている。

 Facebookを筆頭とするSNSプラットフォーム企業に対し、反ワクチン業界が有料広告などを通じてもたらす価値は最大11億ドルに上るという。その源泉は、誤情報に基づくフォロワーの誤った消費行動であり、フォロワーの被害の上に成り立っていると言ってよい。

 今年3月には、アメリカ12州の司法長官がFacebookとTwitterに対し、新型コロナワクチンに関する誤情報への規制を強化するよう求めた(CNBC)。さらにホワイトハウスも7月、FacebookとYouTubeにはワクチンに関する誤情報の拡散への責任があり、対策が不十分であると指摘した(ロイター)。

 SNS企業側も当然、誤情報の投稿を削除するなどの対抗手段をとってきてはいる。

 8月19日にもFacebook(Instagramを含む)が、反ワクチン業界関連の30以上のページやグループ、アカウントを削除あるいは罰金を科したと、ロイターが報じた。

 だが、対応は完全に後手に回っていると言わざるをえない。いたちごっこは目に見えている。

ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる

 SNSが怖いのは、発信者やシェア元が“知り合い”や“友達”であることだ。それは現実社会でのリアルな知人友人にとどまらない。インターネットでつながった人たち――いわゆるインフルエンサーや、同じ思想や志向等を共有する見知らぬ者同士のこともある。

 自らが一方的に支持したり尊敬や憧れを抱いている相手や、心理的距離の近いネット仲間の言葉のほうが、互いに関心の薄い現実の知り合いよりむしろ影響を受けやすかったりするものだ。

 ワクチンについて不安をあおるような情報が、身近な人から回ってくるかもしれない。どうか鵜吞みにせずにいったん立ち止まって考えてみてほしい。誤情報に踊らされ、加担させられないよう、冷静に判断していただきたい。

 今ワクチンを遠ざければ、感染のリスクは格段に上がる。感染すれば、症状の出ていない子どもであってもウイルスを広める側になってしまう。まだ接種の受けられない幼い弟や妹に、家庭内で感染させる可能性も高い。

 社会全体を危険にさらし、直接あるいは巡り巡って大切な人まで傷つけるかもしれないのだ。のみならず、その黒幕をますます潤わせてしまう。

 何を信じるべきか。何が本当のリスクなのか。誰でも簡単に発信者になれる現在、情報はまさに玉石混交だ。

 親世代が得てきた知識が今、あるいは10年後20年後子どもたちが大人になったときに、どの程度まだ役に立つかは非常に怪しい。それは自身が経験してきた過去を振り返ってみれば明らかだろう。

 時代は変わり、常識も変わる。変化する世の中で何を見聞きし、情報をどう取捨選択し、行動してきたか。その実体験こそが、親が子に伝えられることに違いない。ぜひ新型コロナを機にご家庭で、親子で、会話を持っていただけたらと思う。

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