慶応ブランド上等! 全国の野球学校は「高校野球の常識」を覆されて黙っちゃいない

甲子園球場をギッシリ埋めた満員のスタンドは、107年ぶりの歓喜に沸いた。

 決勝が23日に行われ、慶応(神奈川)が史上7校目の夏連覇を狙った仙台育英(宮城)を破り、1916年以来となる2度目の優勝を果たした。

 慶応は初回、1番・丸田湊斗(3年)の大会史上初となる決勝戦の先頭打者本塁打などで2点を先制すると、二回にも丸田の適時打で1点を加えた。その後1点差に迫られたものの、五回に打者一巡の猛攻で5得点。8-2とリードを広げ、そのまま逃げ切った。

■「可能性と多様性が示せれば」

 試合後、森林貴彦監督(50)は「観客のみなさんのおかげで実力のプラスアルファが出せたんじゃないかと感謝しています」と涙を拭い、「うちが優勝することで、高校野球の新たな可能性とか多様性とか、そういったものを何か示せればいい。日本一を目指して、常識を覆すっていう目的に向けて頑張ってきたので、うちの優勝から新しい人が生まれてくることがあれば、それは本当にうれしい。高校野球の新しい姿につながるような勝利だったんじゃないかなと思う」と結んだ。

 高校野球関連の著書が多数あるスポーツライターの元永知宏氏はしかし、「『文武両道』と言われますが、慶応にも推薦入試があって、2年生エースの小宅雅己、4番や5番を打った加藤右悟は、ともに栃木の県央宇都宮ボーイズ出身。彼らは中学3年の春に全国制覇しています。小宅は何十校と誘われる中、慶応に推薦入学した。実際は野球がうまくて成績もいい選手が集まった“野球学校”の側面があることも否定できないでしょう」と指摘する。

 実際、関東のある強豪校の監督は、「選手の自主性に任せると言えば聞こえはいいですが、慶応にはそれだけレベルの高い選手がそろっているからこそ。今年のメンバーだって関東近県だけではなく、愛知県出身選手だって2人いますから」と言うのだ。

他の追随許さないブランド力

 アマチュア野球に詳しいスポーツライターの美山和也氏もこう言った。

「慶応に“高校野球の常識”を変えられて真っ青なのは、野球学校でしょう。強豪校がこれまでにやってきたことが、慶応の優勝によって、ほとんど否定されたことになるからです。今大会は慶応ボーイズのサラサラヘアが話題になった。『髪形自由』という高校がだいぶ増えたとはいえ、まだまだ丸刈りが強制されている。慶応は基本的には自宅からの『通い』なので、選手を寮に入れて朝から晩まで管理するというやり方にも否定的。選手の自主性が重んじられる練習は合理的に短時間集中。強豪校では当たり前の特待生制度もありません。そういった学校が甲子園で頂点に立ったのですから、野球学校は忸怩たる思いでしょう」

 神奈川大会決勝で慶応と激戦を演じたライバル横浜の元部長で、現在は同校の臨時コーチを務める小倉清一郎氏は、日刊ゲンダイのコラムでこう語っている。

「横浜の部長時代、慶応と同じ中学生を勧誘に行くと、まず断られました。こっちは『甲子園』や『プロ』を売り言葉にするけど、慶応は『慶大に行って神宮でプレーしよう』と言う。慶応のブランド力には、それだけの威力があります」

 前出の元永氏も指摘したように、慶応は野球学校が狙うトップクラスの選手を「ブランド力」で引き入れていることになる。

■近畿の強豪校は東京にも触手

 こうなった以上、野球学校も慶応のやり方に追随するのか。「高校野球の新しい姿につながる」ことはあるのか。前出の美山氏がこう言う。

「答えはノーだと思います。ほぼ全員がエスカレーターで慶大に進学できる慶応の選手と野球学校の選手とでは、置かれた境遇が違い過ぎるからです。少子化の今、どこの私学も経営は苦しい。野球学校は野球の結果で名前を売るしかない。選手たちも野球で認められて大学やプロといった進路を切り開かないといけないケースがほとんど。慶応のマネをしたくてもできません。野球学校は今後、以前にも増して選手をかき集めるだろうし、さらに選手を練習漬けにして慶応を倒そうとするでしょう。今回は出ていないけど、大阪桐蔭や智弁和歌山といった日本を代表する野球学校が、これまで手を伸ばしてこなかった関東や東京の有望中学生を入学させるようになっている。慶応の森林監督が高校野球の古い体質に一石を投じたのは確かだけど、野球学校はむしろ慶応とは逆の方向へ進んでいくと思います」

 野球学校の逆襲が始まる──。

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