いまの60代は、気力・体力ともに充実したアクティブシニアが多い。趣味や再就職など社会的活動をする一方で、そろそろ老後はどこに住むのが望ましいのか、所有している住宅はどうしたらいいのか、といろいろと模索しはじめる人も多いのではないだろうか。
「高齢」と「高経年マンション」に立ち向かうさまざまな事例と、そこから「わかること」を解説した、『60歳からのマンション学』から、きっとあなたの役に立つ事例を紹介します。
『60歳からのマンション学』(日下部理絵)
事例:戸建てを売ってタワーマンションを購入
山崎夫妻は26年間住んだ戸建てを売って、人生初の分譲マンション、しかもタワーマンション(タワマン)住まいをしている。
Photo by iStock ※画像はイメージです。
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マンションにした理由は、まずは利便性である。戸建て住まいの時は駅から遠く車での移動が必要であった。徒歩6分ほどのところに路線のバス停もあったが、バスの便数も少なくあまり利用はしていなかった。とにかく何をするにも駅に行くまでが一苦労であった。
また戸建ては2階建てで、いまは元気だからいいが、将来足腰が弱った時に2階まで階段をスムーズに昇り降りできるか、階段から落ちてケガなどしないか、それに昔、空き巣に入られセキュリティが気になっていたこともある。また夫婦二人で住むには広すぎて、智子さんも掃除が大変だという。
そして買い替えたのが、いま住んでいるタワマンである。購入を検討する際、コンシェルジュや警備員がいる24時間の有人管理のところを探した。防犯カメラやオートロック、エレベーターも非接触キーを持っている人だけが乗れ、最寄り階や共用施設がある階にのみ停止するなど、セキュリティ対策も万全。鞄などから鍵を取り出さずにオートロックを通過できる「ハンズフリーキー」の採用はすごいと思った。
コンシェルジュカウンターではクリーニングや宅配便の集荷などのサービスがありホテルライクな住まい。
それに宅配ボックスやスポーツジムもあり、ゲストルームに安価に泊まれるのも魅力的。モデルルームも豪華で最寄り駅からも3分とすべてがキラキラして見えた。
感動のタワマン暮らしだったが…
ようやく引き渡しになり、はじめてみた豪華なエントランスには感動し夫婦とも言葉が出なかった。高い天井にシャンデリア、一面のガラス窓からは陽が差し、豪華なソファセットが並ぶ。コンシェルジュカウンターからは、ビシッと制服を着た女性陣から「お帰りなさいませ」と声をかけられ、恥ずかしさと一気にセレブになったような気分になった。
老後にこんな豪華なタワマンに住めるなんて戸建てから買い替えて本当に良かった。まさに友人知人を呼びたくなるような自慢のわが家だ、タワマンライフが楽しみ、と住み始めの頃は充実したタワマンライフを送っていたのだが……、3ヵ月もしないうちに現実に引き戻されることになる。
かさむ電気代、腰への負担…
近くにこのタワマン以外、高い建物がないので抜け感があるという点も決めた理由のひとつだったが、眺望にはすぐに飽きてしまった。それどころか、全面ガラス張りの部屋は陽射しが強烈でまさに温室状態。晴れた日はエアコンをつけないといられず、思った以上に電気代がかさむ。まぁカーテンを引けばいいのかもしれないが、だったらなんのための眺望なのかと思ってしまう。
また智子さんは料理好きだが、IH調理器の火力が弱く料理のレパートリーが減ったと嘆いている。特に中華料理などの炒め物が美味しくできないという。当初は、オール電化はガス代の節約にもなるし、火事も発生しにくく良いなと思っていたのだが、使用できる調理器具もIH対応に限られてしまう。それに、スーパーなどで激安フライパンを見つけても対応しておらず使えないという。ガスコンロより調理に手応えを感じず、「ガスコンロだった前のわが家が懐かしいわ」とことあるごとに言う始末である。
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そのうえ、智子さんからすると、落下防止などの理由から、ベランダの手すりに洗濯物や布団などが干せないのも気になるという。当初は、憧れの浴室乾燥機にドラム式洗濯機もあるから大丈夫と思っていたが、やはり天気がいい日はシーツとかお日様にあてて干したいと嘆く。それに物干し用の金具の位置も決まっていて、干せる丈が限られたり腰にも負担があるという。
しかし夫婦の「誤算」はそれだけにとどまらなかった…。
記事後編【幸せな老夫婦の「憧れのタワマン生活」がわずか3ヵ月で破綻してしまった理由】に続きます。