技能実習生の「駆け込み寺」ベトナム人尼僧の訴え 入国緩和も、“現代の奴隷制度”は「本当に悲しい」

新型コロナウイルスの水際対策の入国制限が8日に緩和され、外国人技能実習生らの受け入れ準備が進められている。だが制度をめぐっては、過酷な労働環境などを理由に逃亡してしまう事例が多発。埼玉県本庄市には、そうした元実習生らを保護する「駆け込み寺」がある。「大恩寺」のベトナム人住職ティック・タム・チーさん(43)は「制度は見直すべき」と感じているという。

――実習生たちの新規入国が緩和されました。人手不足ということもあって、受け入れ先の企業は歓迎する向きがあります。逃げ出してきた実習生らを保護してきた経験から、いま思うことはありますか。

技能実習制度は今、見直すべき段階に来ていると思います。建前は、外国人が日本の技術を身に付けるという「学び」の制度ですが、実際は安い労働力ですよね。「実習生」だから賃金が低いのですが、実際は賃金が安くなっただけで「学び」につながらないような単純作業も多いのです。そうやって彼らは日本の人手不足を支えてきました。

これまで預かっていた子たちのうち、3割近くが失踪者です。職場での暴力や暴言、低賃金やいじめに耐えられなくなり、逃げ出してしまう。精神的な病を患ってしまうことも多く、中には3回も自殺未遂をした末、寺にたどり着いた子もいます。政府や企業が責任を持って対応するべきですが、行き場を失った子たちは、お寺しか頼るところがないという人も多いです。

新たな実習生を受け入れても環境が変わらない限り、失踪してしまう人は減ることがありません。お寺で常時20人ほどを預かるような状況は今後も続くと思います。

――コロナ禍ではどのような支援を行ってきましたか。

コロナの影響で宿泊業や飲食業はほとんどがストップして、仕事がなくなった実習生たちは頼る場所がなく、生活困難になってしまう実習生が本当に多かった。公園やネットカフェで寝泊まりしたり、友達の家に転がり込んだりしてなんとか生き延びているんです。

大恩寺はこれまで、彼らへの食糧支援や保護活動などをしてきましたが、コロナ禍で特に大変だったのは、お寺に駆け込んできた帰国困難者の支援です。仕事がなくなった実習生たちは帰国したくても飛行機がないので、行き場を失った子たちがお寺に殺到しました。

ベトナム大使館と連携して帰国手続きや空港までの送迎、一時預かりなどの支援をし、コロナ以降は1000人以上を帰国させてきました。3密対策のため開設した3つのシェルターを含めると、2065人です。受け入れては見送ってまた受け入れる、の繰り返し。多いときはお寺で60~70人を預かっているような状況で、本当に大変でした。

――現在大恩寺で預かっている人の事情について教えてください。

20人ほどを保護し、一時的に共同生活を送っています。職場から逃げてきた元実習生や、解雇で行き場を失った子などさまざまです。

多くは新型コロナの帰国困難者を対象にした「特定活動」の在留資格を得て、半年間の在留を許されている状態です。帰国できない事情が続いている間は半年ごとに更新を受けることができますが、飛行機が飛ぶようになってきたので、半年後には帰国することになってしまう可能性が高いです。なんとか日本に残れるよう、最大2年間の延長が許される「特定技能」の試験を通過するため、勉強に励んでいる子もいます。

ほかに、一度失踪し、実習生資格が切れて「不法滞在」で逮捕され、「仮放免」の在留資格で預かっている元実習生も2人います。しかし、一度失踪した実習生は、正規の仕事にはつけなくなります。

どの在留資格でも、仕事をしたくてもその機会が与えられず、この先どうなるかわからない不安でいっぱいです。

——失踪した実習生たちが不法滞在で検挙される事例が後を絶ちませんが、お寺では、不法滞在にあたる人を保護することはないのでしょうか。

お寺で保護する子たちは皆、法律に準じて預かっているので、不法滞在者はいません。「特定活動」や「短期滞在」などの在留資格がある子たちです。もし不法滞在にあたる人が駆け込んできた場合は、入管に通報し、本人に出頭してもらうようにしています。

出頭した子たちは、「仮放免」の在留資格を得たうえで預かります。地域の皆さんにも安心してもらうためには、法に従いながら活動することは必須です。大恩寺では安心安全な活動をするために、入管・ベトナム大使館・警察としっかりコンタクトをとって、何かあったらすぐに連絡が取れる状態にしています。こうした点は強調しておきたいですね。

——厚生労働省の調査(「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」)によれば、2020年に実習生を雇用する国内企業8124件のうち、約7割で労働時間や安全基準などの法令違反が確認されています。

逃げ出した実習生たちは、特に建設現場やとびの仕事に耐えられなくなってしまったケースが多い。日本人が避けるような、身体を酷使する重労働や危険な仕事をやらされ、そのうえ低賃金。一度逃げた子たちは、二度と戻りたくないと言っています。危険な現場でケガをしたという子もいましたし、胃炎で具合を悪くしても病院に行かせてもらえず、そのまま45日間働いた末に逃げ出したという子もいました。

——実習生の失踪を減らすためには何が必要だと考えますか。

まずは悪い監理団体を減らすこと。実習生を保護する立場にある監理団体は、ちゃんとした団体もある一方、無責任な団体もあります。現場で労災が起きても、あるいは死んでしまった場合も面倒を見ずに、犠牲者の友人がお寺を頼ってくることもあります。

監理団体任せにせず、ベトナム政府と日本政府の双方が介入したほうがいいと思う。全部民間にやらせてしまっていたから、こんな状態になってしまったのだと思います。今年からは日本政府の後援で、「NAGOMi」という一般財団法人が「不正行為撲滅キャンペーン」を開始し、悪い管理団体を減らすために動いてくれるようになりました。

また、人間としてのいたわりやコミュニケーションも大事だと思います。同じ人間として、愛情・人情・感情をもって接してほしい。たまに週末に出かけてみたり、一緒に温泉に入ったり、職場のバーベキューに誘ってもらうといったことでいいのです。そうすれば自分も大事にされていると気づいて、失踪者は減っていくと思いますよ。

——制度そのものにも限界はありませんか。1993年に導入された技能実習制度はもともと、培った技能を母国に持ち帰るための「技術移転」を目的に始まりました。現実との乖離が指摘されています。

ベトナムに帰った時にも生かせるようなスキルが身に付けば理想的ですが、実際は技能の習得につながらないような、単純作業や過度の肉体労働が目立ちます。

人手不足解消という面からベトナム人を必要としているのならば、「実習生」ではなく「労働者」として日本で働く環境を整えた方が、お互いのために良いのではないかと思います。給料は日本の生活水準に合わせた額にして、生活を安定させてあげてほしいです。

実習先で具合が悪くなっても病院に連れて行ってもらえず、死んでしまった例はこれまで何度もありました。こんな状況で、実習生たちの人権は、一体どこにあるのか……。専門家の方々は「実習生制度は現代の奴隷制度のようだ」と指摘することがありますが、私は同じベトナム人として、多くの実習生が奴隷のような扱いを受けているという状況は本当につらいですよ。

——残念ながら、実習生たちによる犯罪も起きています。昨年、窃盗などの刑法犯で検挙されたベトナム人技能実習生は681人。金銭トラブルによる仲間どうしの殺人や、生まれたばかりの双子を遺棄した悲しいニュースもありました。

犯罪のニュースが出てしまうのは、ベトナム人として恥ずかしいです。ベトナムには「貧しくても気位を高く持って生きるべきである」といった意味のことわざがあります。生活に困っているとはいえ、お金がないから犯罪を起こすというのは理由になりません。

ただ、彼らの状況にも目を向ける必要はあると思います。実習生は来日する際に、送り出し機関やブローカーなどへ100万円近くの手数料を払う場合が多く、大半の人は借金を抱えていて、今も返済しきれていない子もいます。母国の給与水準で考えると、100万円はベトナム人の感覚としてはとても大きな額です。

そのまま帰国すれば 家族への送金も十分にできないまま借金に苦しむことになる。後戻りできない状況なのです。給料が入っても返済にあて、手元に現金がほとんどないような状態です。コロナの影響で仕事や住居を失い、生活困難になってしまう実習生も多くいます。彼らが法律に準じ、人間らしく生きられるような環境を整える必要があると思います。

――政府の支援は十分とは言えず、大恩寺をはじめとするボランティアに依存しているような状況です。

私自身、昨年には腫瘍の摘出手術をし、今年1月には私がコロナに感染してしまい、ぼろぼろでした。保護する立場であるはずが、逆に保護されてしまった。幸い一つもトラブルが起きなかったので現在まで人助けの活動ができていますが、この先ずっと続けていけるとは限りません。皆さんの支援のおかげで、そして仏さまから見守っていただいて、なんとか乗り越えているような状況です。

日本の皆さまにも少しずつ活動が伝わって、全国からお米や食料、布団、衣類などを寄付いただき感謝の気持ちでいっぱいです。

私は日本に20年以上住んできて、自分の骨を日本で埋めたいぐらい、日本が大好きです。実習生たちが日本のことを嫌いになってしまったら悲しいですし、いいイメージで、日本の思い出を持ち帰ってほしい。実習生が安心して働けるような環境を整えていけば、彼らが日本とベトナムをつなぐ架け橋になってくれると思います。(構成/AERA dot.編集部・飯塚大和)

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