押し買い:被害急増 着物や貴金属、法外な安値買い取り (毎日新聞)

 着物や貴金属の買い取りを巡るトラブルが全国各地で急増している。「不要な物を鑑定する」と押しかけた業者に強引に法外な安値で買い取られるケースも多い。押し売りと違って、こうした「押し買い」はクーリングオフの対象とならないため、被害の回復は困難。国民生活センターが注意を呼びかけている。【斎川瞳】
 千葉県富里市の50代女性宅に1月中旬、1人の男性が訪れた。「不要な着物があったら鑑定して買い取ります」。女性は着ていない着物数点を差し出し、買い取ってもらった。しかし、翌日になって「やっぱり売りたくない」と考え直し、「売った着物を返してもらいたい」と市消費生活センターに相談した。買い取り業者をめぐる相談は、市内だけでも今月に入って既に5件寄せられている。買い取られた後に取り返そうと思っても、業者と連絡が取れなかったり、「既に転売してしまった」「貴金属は溶かしてしまった」などと言われ、返品させるのは困難だという。
 地域を巡回している民生委員らも「業者からの勧誘電話や訪問があった人が何件もある」と市に報告。県消費者センターの調べでは、柏市や習志野市などでも乱暴な業者による貴金属の強引な買い取り行為が報告されている。国民生活センターによると、10年度に入って被害相談は急増。昨年12月末までに寄せられた相談は全国で814件(前年同期は54件)と、押し買いの被害が広がっているという。
 被害者の多くは、昼間に自宅で過ごすことの多い50代以上の中高年女性。乱暴で執拗(しつよう)な勧誘に恐怖を感じて断れなかったり、買い取り価格を検討する間も与えられずに素早く買い取られてしまうなど、弱さにつけ込んだ強引な手口が目立つ。中には認知症の人を狙ったケースもあった。
 同センターによると、業者が消費者宅を訪問して物品を買い取る行為は、特定商取引法の定める訪問販売に該当しない。このため、クーリングオフを主張して白紙撤回を求めるのは困難。「一度売ってしまったものは、まず取り戻せない」と警告する。「買い取りを希望しない場合は毅然(きぜん)とした態度で断り、強引な場合は警察を呼ぶように」と注意を呼びかけている。

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