排出量取引サイバー攻撃 欧州市場がダウンした

 欧州連合(EU)加盟国で地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を登録する電子システムにハッカーが侵入する事件が相次ぎ、欧州の排出量現物取引市場が完全に停止している。盗み出された排出量は総額3千万ユーロ(約34億円)。EUは26日に市場を再開する予定だったが、安全対策に手間取り正常化には数週間かかるとの懸念が出ている。
 ■8億円相当盗まれる
 今月18日、チェコの排出量登録所が入居するビルに「爆弾が仕掛けられた」との通報があり、全員が5時間にわたって避難した。ハッカーはこのスキをついて無防備の登録システムに侵入し、700万ユーロ相当の排出量を盗み出した。
 企業の排出量を預かっている環境コンサルタント会社ブラックストーン・グローバル・ベンチャーの担当者は「19日朝、コンピューターを通じて登録所の口座を開けると排出量がなくなっていた」と話す。盗まれた排出量は名義が書き換えられ、エストニアの登録所に移されていた。
 昨年11月にはルーマニアの登録所からセメント会社大手のホルシム(本社スイス)の排出量2400万ユーロ相当が盗まれ、今年に入ってオーストリアの登録所も被害に遭うなど、計5カ国で同様の事件が起きた。
 オーストリアのケースでは、盗まれた排出量の一部を回収できたが、ほとんどは排出量の現物市場で売りさばかれたとみられる。
 ■セキュリティーまちまち
 排出量取引を温暖化対策の切り札にする欧州では、EU加盟国など30カ国で取引所などを通じて排出量が取引される。昨年の取引高は900億ユーロ(約10兆1千億円)に達し、現物取引はその2割を占める。排出量は各国政府に委託された国別の登録所に登録する仕組みになっている。
 しかし、国によって登録所の安全基準が異なり、一部の国ではパスワードさえあれば登録所の口座に簡単にアクセスできる。ハッカーはこうした国を狙って登録所の口座から排出量を盗んでいた。
 EUのコニー・ヘデゴー欧州委員(気候変動担当)は産経新聞の電話取材に、今後の対策として「EUは2013年から、国別の登録所でバラバラに管理している排出量を一体的に管理する欧州排出量交換所を発足させる」と述べた。
 (ロンドン 木村正人/SANKEI EXPRESS)
       ◇
 ≪イランの原発にもハッカー 「放射能汚染の恐れあった」≫
 ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は26日、昨年、イランの原子力発電所などに対してサイバー攻撃が仕掛けられ、1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故に匹敵する大惨事に至る可能性があったと述べた。
 ブリュッセルで開かれたNATOロシア理事会後に記者団に語り、「重大な安全保障上の問題」としてNATOとロシアが合同で調査に乗り出すよう訴えた。
 イランでは昨年、産業分野の多くのコンピューターが「スタックスネット」というウイルスに感染し、ロシアの協力で建設された同国初のブシェール原発でも影響が出た。イラン当局者はサイバー攻撃を受けたと主張している。
 ロゴジン大使はウイルス感染によりブシェール原発の原子炉が制御不能に陥って暴走し、放射能で汚染された大量の粉塵(ふんじん)が大気中に飛散する恐れがあったと指摘。「新たなチェルノブイリになるところだった」と述べた。
 (ブリュッセル 共同/SANKEI EXPRESS)

タイトルとURLをコピーしました